021
申し訳ないのですが、今回の更新も一週間引き延ばさせてください。
執筆時間がなかなか確保できなくて。。。
来週の(8/3)には更新できるようにします。
ウルに解読を持ちかけられてから数刻、ラプラスはウルの自宅の食卓で夕飯を食べていた。
フィルも当然同席していた。夕飯に限らず、祖母を無くしてからフィルはウル共に暮らしている。
貴重な魔法書を空き家に置いとく訳にもいかず、魔法書はこの家に保管されている。
フィルの思い
勝手に本を見るような動機
「ラプラスお姉ちゃん、はいどうぞ」
フィルが、豆のスープが並々に盛られた皿をことりと置いた。
「ん」
パンを頬張っているラプラスは、適当な返事を返す。これで二杯目だ。
「お姉さん、いっぱい食べるね」
「食べれる時に、食べ貯めしとかないといけないからね」
ミカと別れて店に残ったラプラスはずっと、魔法書を読み耽っていた。
片時も離れず魔法書を読み続けていた彼女だが、食卓に魔法書を持ち出すことはなかった。
理由は単純、魔法書の契約条件が未だに分からないからだ。
魔法書に収められた魔法を習得するには、儀式を行う必要があるのだが、儀式の内容は魔法書ごとに異なる。
どこまで本当か分からないが、中には自身の腕を凍らせるだとか、芋虫を食べるとか、突拍子もない行動が求められることがあるらしい。
簡単なものだと、本に触れるだけで契約が済むものもある。
読む以外の行動を魔法書の付近で行うのは、リスクがあまりにも大きすぎる。
すでに別の魔法書と契約しているラプラスであれば、魔法書との契約が始まっても拒否することが出来る。
だが、魔法の才能が乏しいフィルやウルは違う。意図せず契約に巻き込まれる可能性があった。
「ねえねえ、ラプラスお姉ちゃんはどんな魔法を契約しているの?」
「教えないし、魔法書と契約していることを外で口外したら、ボコボコにするから」
「口外?」
「誰かに言ったら怒るってこと」
分かった、と言い口を噤むジェスチャーを見せるフィルを軽く睨むと、空になった皿を渡した。
「ごちそうさま」
「えーと、頑張ってね」
物置に置かれた椅子に腰かけていた。寝室の他に、魔法書の解読用としてこの物置を間借りしている。
机に置かれた木箱を手元に寄せる。魔法書は、この魔法的な処理が施されているわけでもない単なる木箱にしまわれている。
「ふう」
それは緊張感ではなく、満腹感から来る吐息だった。
木箱の内には、光沢の薄い漆黒の本が一冊。
表紙も装飾もページすらも黒一色に染められている。豪奢な装飾が施されているが、その装飾や本自体が何製かは分からない。
落ち着いた様子で本を開くと、漆黒のページの中を白い文字があちらこちらへと泳いでいた。文字通り、文字が泳いでいる。
現実離れした状況に驚くことなく慣れた様子で、最初の数ページをめくると開いたページにそっと指を這わせて魔力を通していく。
ラプラスが注ぐ魔力によって、文字が整列させられていく。
指先から感じる魔力の抵抗から正しい位置を割り出して、文字を並べていく。
作業としては、ピッキングで鍵を開けるような感触に近い。
軽くこなしているが、文字を整列させておきながら、まだ乱れている文字を正していくことは集中力を必要とし、見た目ほど簡単ではない。
また、無尽蔵に魔力を吸ってくるのも大きな負担となる。
魔法書を読むこと――文字をただす行為自体に、リスクは無い。
契約が始まらない限り、魔法書は極めて読みづらい本と言っても差し支えは無かった。
肝心の契約を終えるには、技量、魔力量、適正、多くの素質が必要だ。
だが、それらの素質は契約を終えるのに必要なのだ。契約を始めることに素質は関係なく、魔法書ごとの条件――触れるだとか、意図せず始まることがある。
契約の手順は始まったが、素質がないせいで契約が永遠と終わらず、絶えず魔法書に魔力を吸い取られ深刻な魔力不足によって命を落とす事例が多々ある。
ラプラスのように既に契約している場合だと、契約の開始を拒否することが出来た。
「ふう」
今度は緊張を解くための吐息だった。
ようやくそのページの最後まで文字を並び終え、瞼を開けた。
整列された文字に目を通そうとした丁度その時、ドアがノックされた。
「あっ」
ノックに驚いた拍子に、魔力で並ばせていた文字を放してしまった。
ラプラスの返事を待たず開けられたドアからは、ウルが佇んでいるのが見えた。
「進捗を聞きに来たんだけど、タイミングは最悪だったようだね」
「勝手に入ってこないでって、言ってあったでしょ!」
ウルを涙目で睨む様子は、癇癪を起しそうな子供そっくりだった。
次回の更新は、7/27になります。→8/3




