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017

ミカとラプラスの二人組は、村中の子供に連れられて村唯一の魔法具店に向かっていた。

閉鎖的な村では、彼女らの存在はとても興味深いのだろう。船を離れてから三歩と歩かないうちに、四方を囲まれていた。

特にミカは、人気が高い。

愛想よく話すミカと、面倒くさがるようすを隠しもしないラプラス。どちらのほうが、子供の人気が高いかは明白だった。

出会って十分と経たたないうちに、まだ言葉のおぼつかない幼子と手を繋いで歩いていた。


「ミカちゃん、どこいくのー?」


「魔法店だよー」


「えー」


活発な男の子が横から口を挟んできた。内容は好意的とはいいがたい。


「なんで、あんなとこ行くんだよ」


「ラプラスお姉ちゃんが、行きたいんだって」


子供たちの『何故』という視線が、ラプラスに突き刺さる。見られた本には、眉をひそめてたじろいでいる。子供が苦手なのが傍から見てて分かった。


「どうせ無いと思うけど、魔法書があれば見たいから」


ないと思う、と前置するのも魔法書はこの世に、166.5冊しかないと言われている。噂が真実かどうかは判明していないが、そんな噂がまかり通るぐらいに魔法書の絶対数は少ない。世界的に見ても希少な魔法書が、このちっぽけな村にあるとは思えなかった。

ラプラスにとっては至極当然の思考回路だったが、子供たちにとっては許しがたい主張だった。


「あーー、馬鹿にすんなぁー!父さんがまほーしょも売ってるって言ってたぞ」


「どうせ、贋作でしょ。見極めてあげるから、早く案内してよ」


「やだ、案内したくない」


「ほら、嘘なんでしょ?」


「嘘じゃない!嘘じゃないけど、行きたくないの!あそこ臭いんだもん」


帽子を深くかぶった少年がおずおずと名乗り出た。


「だ、だったら、僕が案内するよ。薬のにおいも慣れてるし」


「ほんとに!?えーと」


「フィルだよ。ミカおねえちゃん」


フィルを先頭に、ミカとラプラスが続いた。他の子どもたちはよほど魔道具店に行きたくないのか、アルフレッドが居る方へと走って戻っていった。




案内を買って出たフィル曰く、この村にある魔法店はこの先の一店だけなのだという。

フィルは流行り病で両親を失い、その魔法店に身元を引き取られているとのことだ。

ミカたちといるときから気弱な様子を見せていたが、自分の家のようなものだからか魔法店のドアを開けるときは、気楽にドアから半身をのぞかせ中に声をかけていた。


「ウル婆、居る~?」


あどけなさの残る声に反比例して、きつい口調の返答が返ってきた。


「あ゛あん、あたしが店にいない方が珍しいだろう」


その一言でミカは、子供たちがここに来たがらなかった理由は、薬剤のキツイ臭いだけではないことに気づいた。

店には二人の先客がいた。

ウル婆と呼ばれた老婆の前に、大柄な男と小柄な男の二人組。


「おや、フィルくん。お邪魔しています」


入り口から覗くフィルに振り返った小柄な男は、人のよさそうな笑顔をフィルに向けていた。


「あっ、『円環』さん、こんにちは」


『円環』という単語を聞いたラプラスはさっと顔を伏せた。見るからに怪しい動きだが、『円環』さんと呼ばれた人物はウル婆に向き直していて気づいていなかった。もう一人の男は、ファイルたちの方に振り返ってすらいなかった。


「ウル様、この村には一週間ほど滞在する予定ですので、もしお気持ちに変化があったら気軽にお声がけください。我々も欲に駆られて言っているわけではございません。あれは、本当に危険なものですので」


「分かっているさ。ただ、あたしらに必要なのは時間なのさ」


話の内容は分からないが、どうやら交渉は決裂したようだった。

店を出ていく小柄な男の後ろに、背が高くお世辞にも優しいとは言えない強面の男が続く。

強面は、納得していないようだった。


「ん?おまえは……?」


何か気になることがあったのか、ラプラスの前で立ち止まり強面の顔をさらに険しくしている。

ラプラスは顔を伏せて、少し震えているようだ。


「ラルゴさん顔怖いんだから、お客さんを怖がれらせないでくださいよ。すいませんね」


「ちっ」


舌打ちを残して去っていった。


「また、来てたの?」


「ああ、今回も断ったがね。それで、そっちは誰だい。見ない顔だね」


「ミカお姉ちゃんと、ラプラスさんだよ。あのねウル婆、二人とも船で来たんだよ。船だよ、船。足がついたでっかい船」


「あ゛あ?馬鹿言うんじゃねえ、船に足がついてるわけないだろ」


「本当だよ!ちゃんとおっきな足を叩いてきたもん」


「フィル君が言っていることは、本当だよ。僕らは征界船っていう陸を進む船で来たのさ。それでボクがミカで、こっちはラプラス」


「それで?そんな大層なものに乗ってきた方々が、こんなちっぽけな店に何の用だい?」


「んーと、用があるのはボクじゃなくてこっちのラプラスの方なんだけど」


気づけば入り口――『円環』の彼らが去っていった方を見ていた。

彼らが見える範囲に居ないことを確かめてから、店を訪れた目的を口にした。


「魔法書が見たい」


「この店にはないね。代わりに、このエリクサーでも買っていてくれないかい。等級3の高級品を仕入れたはいいものの、買手いなくて困ってんだよ」


「ないっていうのは嘘でしょ。あの『円環』の奴らが、魔法書もないのに来るわけないでしょ」


「へっ、なんだってあんたらみたいなのはあんな本に熱心だかね。アタシにはさっぱりだよ」


もう一度、入り口の方を振り返り、『円環』の彼らがいないことを確認した。


「ただの学術的興味で、欲しいとは思っていないわ。だって、私は既に契約してるもの」


「へー、契約してるっていうなら、刺青を見せな。実物を見たことはないが、魔法所と契約したものには刺青が浮き出ると聞いているよ」


「刺青は見せられないわ」


眉が顰められた。


「あーーー、確かにあそこの刺青を見せるのは抵抗あるよね」


ラプラスを保護したときに刺青の有無を、下腹部から太ももにかけて随分際どい位置に彫られていることを、知っているミカは助け舟のつもりで思ったことを口にしてしまった。


「は?な、な、な、なんで!あんたが!刺青の場所を知っているのよ」


「あっ。…………えーと、ほら、仕方が無かったんだ、怪我があるか確認する必要があったから」


「あいつも、アルフレッドも見てたりしていないわよね」


「エー、ソンナワケナイジャン」


「嘘だったら二人ともぶっ殺すからね。い、刺青は見せられないけど、他の証拠は見せられる」


掌を開くと、湧きあがるように一冊の本が現れた。革表紙で年季の入っており、片手に収めるには少し大きいその本は、無機物から感じるのはおかしい威圧感を感じさせた。


「これが、私が契約している魔法書よ。魔法書は体に宿るの。普段は体の内にしまっといて、必要な時だけ出すのよ。これなら証明になるでしょ」


「あんたが魔法書と契約しているのは疑わないさ。だがなんで、魔法書を読みたがるのさ。魔法書は一人一冊しか契約できないんだろ?」


「――面白いから。初めて読んだ魔法書は、まだ心に残るほどワクワクしたから」


「……ああ、そうかい」


ラプラスの言葉はウル婆の琴線に触れたようで、何かを懐かしんでいるようだった。


「フィル。もうすぐ店を閉めるから、先に暖炉の火を起こしてきてくれるかい」


面倒ごとを押し付けられて、嫌々ながらフィルが店の奥の扉に姿を消していった。


「前言撤回しよう、この店に魔法書はある」



GWは実家に帰る用事があるので、次の更新も二週間後の5/11になります。

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