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018

「確かに魔法書はあるが、この店には置いてないんだよ」


妙な物言いだった。魔法書があるのか、ないのかを測りかねているラプラスたちに、ウルは補足を入れた。


「そもそも、魔法書はアタシの持ち物っていうわけじゃないんだ。魔法書の持ち主は、あんたらを連れてきたフィルなんだよ。だからこの店には置いてない」


「あのガキが、契約しているって言うの?」


自分が契約しているだけに、ラプラスは契約の難度を理解している。故に、にわかに信じられないことだったが、すぐに否定された。


「いいや、契約なんてしてないし、残念ながらできるだけの才もないさ。本当にただ所持しているだけさ」


「なんで?」


「なんで、って言うと?」


「なんで、あんな子供が魔法書を持つことになったの?」


たしかに、契約に魔法の才がいるというだけで、所有するだけなら誰でもできる。

尤も、魔法書の契約は様々で、手で触れるだけで強制的に契約が始まる危険極まりない魔法書も、この世にあるのだが。今回は、その限りではないのだろう。

ラプラスが分からなかったのは、幼子が世界的に貴重な魔法書を所持している経緯だ。


「ああ、それは元々あの子の祖母が持っていたものなんだ。けれども、その祖母が一年前に流行り病で亡くなってね。フィルは形見として、それを受け継いだんだよ」


今度は、ウルからラプラスに問い掛ける。


「なあ、嬢ちゃんは魔法書を読みたいだけなんだよな?『円環』の奴らみたいに、商売に使うなり自分たちで使うなりするわけじゃないんだね」


問い質すウルの視線には、嘘を決して許さない気迫が込められていた。


「……………………………………うん」


子供なら逃げ出すような視線を受けたラプラスは、()()()()()()()()

目を逸らすなど、疑われてもおかしくない。少なくとも黙って隣で話を聞いていたミカは、この交渉は失敗に終わると思った。しかし、ウルの返答は予想に反したものだった。


「はあ、いいよ。読ませてあげるよ」


「いいの⁉」


会って間もない状況だが、ウルは彼女を信じてみることにした。

曲がりなりにも人生の大半を商売に携わってきたウルが、人を信じやすい性質(たち)という訳ではない。

かといって、ラプラスが信用に値する人間だと思ったわけでもなかった。本人には悪いが、善性に溢れる人間とは思えない。


ならば、理由は何か。

単純な話、彼女に人を騙すような器用な真似ができないと思ったからだ。

する・しないではなく、出来ない。

目を逸らしたのも何かをごまかすためというよりも、声の大きい自分を怖がる村の子供が見せる仕草にそっくりだった。


「同じことを何度も言わせんじゃないよ、いいって言っただろ」


「やった!」


満面の笑みを浮かべ今にも飛び跳ねそうな彼女に、人を騙すのは難しそうに思えた。

ただ、ウルも親切心だけで許可したわけではなかった。


「ただし!一つだけ、頼みがある」


「?」


「魔法書の内容を書き残してほしい。一から十、全てじゃなくていい。せめて、どんな内容だったかは分かるよう書き連ねてほしい」


意図を汲めなかった。

怪訝そうに、ウルを見ている。


「さっき、魔法書の元の持ち主は、フィルの祖母だって言ったね。フィルの祖母は、家の蔵で埃をかぶって眠っていたのを見つけだしてきたのさ」


いつかを懐かしんでいるようだ。


「あいつに契約できるだけの魔力量も技量もないのに、その魔法書の内容を解析するって息巻いていてね。どこからか噂を聞いてきたのか、『円環』が取引に来たときも、自分が中身を読みたいからって断っていたんだ。結局、志半ばでおっちんじまったがね」


ウルは目を伏せ、言葉を続けた。


「正直、フィルは魔法書自体に思入れは無いんだよ。ただ、祖母の思いを知っているだけに、簡単に手放せなくてね。だから、あんたに内容を読んでもらって、私があいつの字に寄せてメモに残す。そして、さもあいつが魔法書の中身を読んでいたように、願いは果たされていたように、一芝居うつつもりさ」


「……くだらない。さっさと手放せばいいのに」


「ラプラス」


横で聞いていたミカは咎めた。ミカ自身、魔法書について詳しくは無く、『円環の書』についても噂程度しか知らない。

外野が簡単に否定していいものではない。


「『円環』は強引な手も使って来るわよ。あいつらの魔法書への執着は異常なほどよ。今は、そのうち売ると言っているから大人しく対応しているみたいだけど、売らないなんて言ったら強引な手を使って来るわよ」


「分かっているさ。村の連中は、物珍しい商品を持ってきてくれるから好いているようだけどね。あたしゃ好きになれないよ」


フィルの祖母から魔法書を売らないと言った時も、


「だからこそ、手放すためにも書いてほしい」


魔法書をただ読みたいという奇特な人物が訪れるなんてただの偶然だったが、渡りに船だったのだ。

威圧感は消え失せ、真摯な態度。


「ふん。内容をまとめるぐらい大した手間じゃないから、あとは好きにしたらいいわ」


「助かるよ」


「ねえ、ラプラス。話の腰を折るようで割るんだけどさ。魔法書って一日で読める物なの?」


「そこそこ時間かかるけど、なんでよ」


「なんでって、僕たち明日にはここを発つんだから、ゆっくり読んでいる時間は無いよ」


「それ、あたしには関係ないでしょ。乗せて、なんて言った覚えなんてないし、あんたたちが勝手に乗せただけでしょ」


固まるミカにラプラスは、事もなげに冷たい言葉を投げる。


「ここでお別れよ」



次回の更新は5/25です。

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