8話 眠る君の隣で
冷静を装うが、マルクスの胸の奥はザワついた。
(なぜあんな一言が気になるんだ!
俺から離れるなら良いじゃないか!そうだバーバラも褒めてたバラを育てていればいいんだ…。)
外まで聞こえそうなくらい、足音は大きかった。
一方アンリネットの部屋では…。
「お姉様…あんな言い方。マルクス様が誤解しますよ?」
「良いのよ…本当の事だし、もう、陛下の事は…。」
"諦めた"の一言が言えなかった。
本当は諦められない。
だが処刑を回避するため。
そして妹のように思い始めたバーバラのため。
必死に気持ちを押し殺しているだけだった。
「アンリネット様、少しお休みになられた方が…。」
リリーがそう言うと、「また来ます。」と言って、バーバラとエリスは一礼して部屋から出て行った。
「アンリネット様…エリスの事ありがとうございました。それと…バラを育てるアンリネット様が怪我されたら、私は苦しいですよ。」
涙を零すリリーを見て、アンリネットは息を飲んだ。
「リリー!ごめんなさい!
…ありがとう……。」
侍従関係も無いように抱き合う二人もまた、家族のように見えた。
三日もすると、アンリネットの足も癒え、日が落ちる頃、一人温室のバラの手入れをしていた。
「ふぅー。こんなものかしら?」
久しぶりの土いじりで、すぐに疲れてしまうと、ベンチに座り休憩していた。
すると温室の外に人影――マルクスだった。
マルクスはアンリネットが居るのは知らず、温室の中に入る。
(良く手入れされている。それにいい香りだ……。)
歩いていると、ベンチで居眠りをするアンリネットが視界に飛び込んで来る。
「っ!」
静かに近づくマルクス。
「アンリネット?」
疲れからか全く起きる気配のないアンリネット。
「寝ているのか…。」
隣に座るマルクス。
「…なぜ、そんなに変わったのだ?
俺に…興味が無くなったからか?」
アンリネットの頬に手を添える。
「もう一度、そなたに……。」
言い終える前に、アンリネットの体が傾き、マルクスに寄りかかる。
「っ!」
そこへ、暗くなっても戻らない事に心配したリリーが入って来る。
「陛下!?」
一礼すると、アンリネットを揺する。
「アンリネット様!うぅ、起きない…。
申し訳ございません。エリスを呼んで来ますので、もう少しこのままでも…。」
「良い。」
そう言うと、アンリネットを横抱きにした。
(軽いな…。)
「行くぞ。」
前を歩くマルクスを見ながら、リリーはニヤニヤと、ついて歩いて行った。
その様子、城の中の廊下からヘレーネが憎悪を込めた眼差しで見つめていた。
「あの女……。」
そして、翌朝。
バラ園が荒らされ、殆どのバラが散っていた。
つづく。




