9話 頬を伝う涙
「そんな…酷い…。お姉様が一生懸命育ててたのに…。」
バーバラの目には涙が滲んでいた。
「はぁ…本当に酷いわ…バラに罪は無いのに…。」
(前の人生ではバラは育てていなかったから、これも私が違う行動したせいね…。)
アンリネットが考え込んでいると、ヘレーネが後ろからやって来る。
「まぁなんなの!?こんな汚い所、すぐに片付けてくださいな!」
そこに居た皆が、ヘレーネの仕業かと思っていたが、証拠もなく、誰も何も言えなかった。
「すみませんヘレーネ様。お見苦しい物をお見せして。」
アンリネットは、リリーと庭師と片付け始めた。
「お姉様、私も。」
「バーバラはダメよ。棘で指を傷付けたら大変!ホウキで葉っぱを集めてくれる?」
「…はい。」
バーバラは言われた通りにしていると、ヘレーネは面白くなさそうに眺めていた。
そこへ、マルクスが軽装にシャベルを持って来る。
「え!陛下!?」
アンリネットは驚きのあまり声が裏返る。
「マルクス様!そのような格好で何を!?」
ヘレーネも驚いて声を荒らげた。
「力仕事は私がやる。指示をしてくれ。」
「あ、は、はい。」
アンリネットはマルクスと庭師にも指示をすると、あっという間に片付いた。
「幸い鍵を掛けていたおかげで、温室の中は無事です。」
「そう…良かったわ。また苗を…。
いえ、良いわ。今は無事だった株を育てましょう。」
階段事件もバラ事件も、自分の行動で前の人生では起きてない事が起こる。
アンリネットの心身は疲弊していた。
その日の夜、リリーを外に待たせ、アンリネットは温室に居た。
「あなたたちのお友達、みんな壊されちゃったわ…。ごめんなさいね。」
バラに話しかけるアンリネットの頬には、涙が伝う。
バタン。とドアの閉まる音がして、アンリネットが振り向くと、マルクスが立っていた。
「陛下!」
頭を垂れる。
「…辛かったな。」
そう言われて、アンリネットが顔を上げる。
(勘違いしちゃダメよ。事件続きで大変だった。って事よ。私の事なんてなんとも思ってない方なんだから!)
そう言いきかけせるが、アンリネットの目からはポロポロと涙が落ちて、止まらなかった。
マルクスは涙を流すアンリネットに手を伸ばした。
頬を伝う涙を親指で拭うが、次々と零れる涙。
その姿に胸が締め付けられた。
そして、気付けばマルクスはアンリネットを抱き寄せていた。
何故そんな事をしたのか、マルクス自身もわからないけど、心は満たされた。
その変わり、アンリネットの心は乱され、涙は止まった。
「あ、ああああの…?」
「……。」
その時、ドアの閉まる音がする。
「…リリー?」
「しー、多分違う。足音が重い。」
二人はベンチの後ろに隠れ、様子を伺っていると……。
シャベルを引きずる音と共に、人影が現れた。
つづく。




