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処刑された側室は、もう皇帝を愛さない。  作者: 白 月虹


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7話 記憶にない出来事

次の日、バーバラとアンリネットが廊下で会話を弾ませていると、ヘレーネが声を掛けてくる。


「あら!廊下でお喋りなんて、使用人みたいね。」


突然のヘレーネの登場に、皆は警戒する。


アンリネットとリリーはバーバラの前に立ち、エリスはバーバラの手を握っていた。


「ヘレーネ様…良かったですわね。なんのお咎めもなくて…。」


「ほほほ。私、何もしてませんもの。バーバラ嬢のメイドが不満があって、勝手にした事…。」


ヘレーネは扇子で口元を隠しながら話す。


「バーバラが妬ましいからって、命を狙うなんて…やり過ぎですわ!」


アンリネットが声を荒らげた。


「ふん!そうね、貴方は姑息な事しかしないものね!…でも今は何?仲良くして裏切ろうとか?それも面白そうね〜。」


ヘレーネの視線はバーバラへ向いていた。


「…お、お姉様は、裏切りません。」


「バーバラ…。そうですわ!

私、もう陛下の事は、なーんとも思ってませんの!陛下にかまけてるくらいなら、バラを育ててる方が、よっぽど楽し――」


言い切る前に、マルクスが視界に入る。


「…陛下。」


皆がマルクスに頭を垂れる中、アンリネットは固まっていた。


「何事だ?…ヘレーネ、そなたが居るのに、こんな所で…もっと皇后らしくしてくれ。」


「も、申し訳ございません。」


ヘレーネは、更に頭を垂れた。


「バーバラ、休憩をするので、お茶をしないか?」


バーバラに歩み寄る。


「はい。喜んで…。」


アンリネットには視線を向ける事なく、バーバラを連れてその場を後にした。


(…俺にはもう興味がないと言う事か…。)


マルクスは歩きながら、無意識に拳を握った。


喜ぶべき事のはずだった。

しつこく追いかけ回される事もなくなって、ようやく平穏が訪れたのだ。


それなのに胸の奥が妙にざわついた。


「本当にマルクス様は、バーバラ嬢だけですわね…」


ポツリとヘレーネは呟くと、その場を後にした。


(…これで良いのよ。私はもう…。)


「リリー、私たちもお茶にしましょ。」


「はい…アンリネット様。」


リリーは、悲しそうなアンリネットの横顔を見ると、胸が苦しくなった。


マルクスは、バーバラを部屋へ送り届けたあと、執務室へ戻ろうと廊下を歩いていた。


バラ園が目に留まり眺めていると、手入れをしているアンリネットが瞳にうつる。


「……。」


窓越しに、アンリネットの頬の輪郭をなぞる。


「っ!」

(俺は何を!?)


マルクスは足早に執務室へ戻って行った。

____________


――五日後。

アンリネットはベッドの中で動けないでいた。


「こんな事件あったかしら…」


前の人生では記憶にない出来事が、起こっていた。


それは数時間前の事。


アンリネットから分けてもらったバラを持ってエリスが階段を下りていると、ヘレーネが上から声をかけた。


「そこの侍女。そのバラ…寄越しなさい。」


「え!?いきなり何をおっしゃって?」


「どうせ、アンリネット嬢がバーバラ嬢に分けただけでしょ?」


意図がわからず、右往左往しているエリスに、ヘレーネの侍女が無理矢理、腕の中から取ろうとした。

すると引っ張り合いが始まり、もう一人の侍女が、


「良いから寄越しなさい!」


とエリスを突き飛ばしたのだ。


丁度通りかかった、アンリネットが駆け寄り、エリスの下敷きなっていた。


「うっ!」


「アンリネット様!」


「大丈夫よ…。」


「こんな私を…。」


涙目になるエリスと、足を摩るアンリネットを、ヘレーネが見下ろす。


「私が寄越しなさい。と言ったら寄越せばいいのよ。私は皇后よ?」


そう言うと侍女と共に立ち去ってしまった。


(痛っ…ホントに何なの!?)


アンリネットは心の中で何回も繰り返していた。


そうして医者に診てもらうと、捻挫と言うことで、ベッドの中で安静する事になった。


強めの足音と、ノックと同時にドアが開かれた。


「アンリネットが階段から落ちたと!」


一斉にドアへ視線を向けられる。


「陛下、落ちたのはバーバラ様の侍女で、アンリネット様は下敷きになって捻挫でございます。」


マルクスの後ろから執事長が声をかける。


「…そうか。」


顔を赤らめたマルクスが部屋へ入ってくる。


「え、あ…陛下…?」

(私の部屋に陛下が!?なんで!?)


「マルクス様、お姉様なら大丈夫ですよ。」


「そうか…。」


返事はバーバラに向けられているのに、マルクスの全てはアンリネットへ向いていた。


「…侍女を庇うとは…。そなたは側室なのだ…もっと体を大事にしろ。」


言い方は冷たかったが、マルクスなりの優しさだった。


「…バラしか育てない側室ですけど。」


皮肉を込めたかったのか、嫌味を言いたかったのか、自覚はなくアンリネットがポツリと零すと、マルクスの目が大きく見開かれた。


「アンリネット様!」


リリーが思わず声をかけると、アンリネットは布団の中に潜った。


「……邪魔をした。」


それだけ言うと。マルクスは足早に部屋を出て行った。


「ヘレーネの侍女の処分を。

……あと、アンリネットに…何か菓子を。」


後ろに控える執事長に言うと、執務室へ戻って行った。



つづく。

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