6話 マルクスの心の変化
しばらくは穏やか日々が続いた。
ヨット事件の進展は無かったが、マルクスはヘレーネをあまり信用出来なくなっていた。
そんなある日、なんとなくバラを思い出して中庭に出て行くと、庭師がアンリネットの頬に触れながら顔を近づけているのを目撃する。
「っ!」
マルクスが駆け出し、庭師の腕を掴んだ。
「えっ!?」
驚く二人。
しばらく沈黙が続く。
「……陛下?」
腕を掴まれた事で、アンリネットの頬から手が離れられない庭師が言う。
マルクスは、はっ。っと我に返ると、庭師の掴んだ腕共に下ろした。
「……すまない。
…アンリネットも、いちお側室だ。
その…」
体がアンリネットの方へ向けられる。
「あんたが、誰と愛し合おうが、
わ、私は、なんとも思わないが、側室としての立場もあるだろう。その……誤解を招く行動は感心しない。それに数ヶ月前には、私を追っかけ回して――」
マルクスは焦った様子で、早口になっている事に気づくと、言い切る前に、手で口元を抑えて言葉を飲み込んだ。
「……目に、虫が入ってしまって…。庭師さんに見てもらってました…。」
キョトンとした様子のアンリネットが、控えめに言うと、マルクスは耳まで赤くなっていった。
「……すまない。」
それだけ言うと、マルクスは踵を返して去ってしまった。
「ははは。何だったのでしょうね…」
呟く庭師を他所に、アンリネットの心臓は早鐘を打っていた。
(なんなの!?ずっと…目を合わせてくれなかったのに…。)
その夜、お渡りのため、マルクスはバーバラの部屋に居た。
「……アンリネットとは、相変わらず仲が良いのか?」
マルクスからアンリネットの話しをされるのは初めてで、バーバラは驚きのあまり固まっていた。
「…バーバラ?」
「あ、はい。すみません…えっと、そうですね!お姉様とお呼びしてます。バラも分けてくれますし、今夜の、ために…バラで作った、香水もくれました……。」
赤くなるバーバラを見て、マルクスは笑みを零すが、
「…良い香りだ。」
この言葉の後の笑みは、見た事無いほどに優しいものだった。
「…マルクス様。」
「今夜はこのまま眠る。」
「え?…なさらないのですか?」
はしたいないかと思いながら口出した言葉は、バーバラ自信、驚く程乾いていた。
「あぁ…隣で休むだけで良い。」
「わかりました…。」
そう言うと、二人はベッドへ入る。
バーバラは、モヤモヤして中々眠れなかった。
つづく。




