番外編 2
「…まぁ、そんな事があったなんて…。」
アンリネットは悲しそうな顔で、マルクスの言葉を一つ一つ逃さず聞いていた。
「ああ、あの時はお祖母様の葬儀の方が、国にとって悲しい出来事だったからな…。」
目を伏せたままのマルクス。
「でも、皇后様は、ご病気で……。」
アンリネットは言葉を濁した。
「……母上は、頭を強く打っていたようで…。城へ戻れたが、良くはならなかった。」
マルクスの今にも泣き出しそうな顔を見ると、アンリネットは思わず抱き締めた。
「ご自分を責めないで下さい!誰も…誰も悪くない。たまたま……」
(たまたま運が悪いとでもいうの?そんな事で皇后様が亡くなったなんて納得できない。私はなんて言ったら…。)
アンリネットの胸の中で、マルクスは顔が赤くなっていく。
(っ!)
「ア、アンリネット…大丈夫だよ。」
アンリネットの腕の中から離れると、赤い顔を見られないように、背けながらマルクスは続けた。
「今でも母様が早く逝かれたのは悲しいが、誰かのせいにしたいと思った事はない。
父上も…あの時の人には感謝をして、何度か訪問もしていたくらいだ。俺も…会いに行けば良かったな…。」
「そうですか…。その方とは会われてないのですね。」
「ああ。まだ子供だったからな…。何度も連れて行けないのだろう。」
マルクスはアンリネットの手を取って、更に続けた。
「それに、母様は、俺を助けられた事を誇りに思うと言ってくれた。母として、次期皇帝になる息子を守れた事を…。」
「皇后様は、お強い方なのですね。」
「…そうだな。」
マルクスが目を閉じて、握る手に力を込めると同時に、一行は目的地へ到着した。
「ここは…?」
「東の町の水路建設で、お世話になった部族が居る…山の麓だ。」
小高い山を見上げながら、マルクスは言った。
その横でアンリネットは口を開けていた。
そこに聞きなれた声がする。
「おお!アンリネット!」
振り向くと、ゲルニア公爵が手を振ってこちらに向かって来た。
「おじ様!」
アンリネットは懐かしく、ゲルニア公爵の胸に飛び込んだ。
するとその後ろから、少し恥ずかしそうに少年が顔を出す。
「…アン、姉さま。」
「……え!ランロット?」
「はい!」
少年はアンリネットが覚えていた事に嬉しくて、元気に返事をした。
そこにマルクスが割って入る。
「ゲルニア公爵…この度は、色々な配慮誠にありがとうございます。」
「はっはっは。良いよ良いよ!アンリネットのためだ!」
「……あの…その少年はまさか…。」
マルクスが目を細めながら、ゲルニア公爵に聞いた。
「ああ、そうだよ。俺の甥だ!」
「はあ!?まだ子供ではないか!それなのに、嫁にって、貴方は!」
「何を言う!16になったんだ、結婚出来るぞ。」
「16!?アンリネットより数個も下じゃないか。」
「年上なんて、こっちの国じゃ誰も気にしないよ!」
二人のやり取りを、首を傾けながら聞いているアンリネット。ランロットは袖を引きながら案内をする。
「あ、待って!」
「じじさんの所へ案内しますね!」
「じじさん?って…。」
二人は、一見壁のように見える場所に止まり、ランロットが窪みの中に手を入れた。
すると――ガガガガ…と音を立てながら、石の壁が開いた。
「凄いな…。」
いつの間にかマルクスが、アンリネットとランロットの間に割って立っていた。
「ここから先は、俺が案内するよ。」
ゲルニア公爵が先頭を切った。
長い下り道と階段が続く。
「疲れたら言いな。」
ゲルニア公爵は、アンリネットを気遣う。
「大丈夫です。なんか…ワクワクしてきました。」
「ははは。やっぱマルクス様の嫁にするのは惜しいなー。」
横目でマルクスを見ながら言うと、気づいたマルクスは目を細めて見返した。
しばらく歩いて行くと、松明の明かりが目に入り、もう少し進むと、地下とは思えないほど大きな町が、目の前に広がっていた。
「わあ……凄いですね…。」
「ああ…山の下とは思えない…。」
「ここはウィーニーシア族の町です。」
ランロットが説明する。
「じじさんは族長で、おじ様のおじさんなんですよ。」
「おじ様のおじさん…。」
「はい!」
困惑気味のアンリネットに、ランロットは満面の笑みを見せた。
「さあ、族長が待ってる。先に会いに行こう。」
ゲルニア公爵が促すと、一行はまた歩き始めた。
つづく。




