4話 初めて言葉をかけられて
「バーバラまで出て来なくて良かったのに。」
「いえ、リリーが居るところまでは、ご一緒します!」
アンリネット以上に、バーバラが怒ってるようだった。
(ふふ。可愛いわね…。
っ!かわ、いい?…私がこの子をそんな風に思うなんて…。)
「私はこのまま部屋へ戻るわ…。」
アンリネットは目を伏せたまま言う。
「そんな…ダンスを、見て欲しいのに…。」
バーバラもまた、目を伏せる。
そんなバーバラをアンリネットは暖かい眼差しを向けていた。
「…仕方ないわね。でも着替えないと!」
片目を瞑ってみせる。
「そうだわ!」
そう言うと、アンリネットはヒソヒソとバーバラの耳元で囁き、笑い合った。
そして部屋で着替えると、二人で会場へ戻って行った。
ガチャ!っとホールのドアが開くと……
そこには
バーバラはレモン色。
アンリネットは落ち着いた黄色。
それぞれに合った黄色のドレスを着ていた。
「まぁ、素敵ね。」
「仲が良いのが伺えるわ。」
「全く同じじゃないのが良いわね。」
そんな声が聞こえてくると、益々ヘレーネは面白くなかった。
(なんであの二人が目立ってるのよ!)
ヘレーネの握る扇子は、ミシミシ音を立てていた。
そんな横でマルクスは目を丸くしていた。
(本当に、今までとは違うのか…。)
アンリネットとバーバラの周りには、沢山の貴族令嬢が集まっていた。
そして曲が始まると、マルクスはバーバラの元へ行き、踊り出す。
アンリネットも優しい眼差しで見つめていた。
そんなアンリネットへ、ヘレーネは鋭い視線を送る。
(私の舞踏会なのに……許さないわよ…。)
夜更けになり、アンリネットが部屋戻ろうと、リリーと廊下を歩いていた。
「今日はお二人共、素敵でしたね!」
「ありがと!」
「色がお揃いなんて、流行るかもしれませんね。」
「そうかしら?ふふふ。」
そんな会話を二人はしていた。
そして、部屋の前に人影――マルクスだった。
「陛下!」
リリーは壁の方へ後ずさる。
「え?
あ、あの、ここは、私の部屋でして…。その、なんの御用で…?」
思ってもいない事過ぎて、アンリネットはしどろもどろになってしまう。
「……舞踏会では…皇后が悪かった。」
アンリネットは目を見開いた。
あまりに予想外で、ポカンと口まで開いていた。
「それだけだ。…ゆっくり休むと良い。」
マルクスは他に何も言う事もなく、その場を後にする。
アンリネットの頭の中は混乱し続け、リリーの問いかけも、その後どうやって眠りについたかわからなかった。
翌朝、遅めに目覚めると、リリーは洗面器にお湯を注いでいる所だった。
「アンリネット様!おはようございます。」
ニコニコと笑顔を向ける。
「な、何?…って、バラの量多いわよ!?」
「昨日、寝る前に、明日のバラは倍よー!って言われてましたよ?」
更にニコニコとするリリー。
「うそ……覚えてないわ…。」
「とても…嬉しそうでした。顔を赤くして、口をパクパクして…可愛らしいお姿でした。」
リリーは主の不憫さに心を痛めると同時に、昨夜の事で、アンリネットが幸せそうなのがまた、嬉しかった。
「そうだ!バラを植える準備が出来た。と庭師の方が言ってました。今日見に行かれますか?」
「そうね…朝食の後に行くわ。」
そうして朝食を終えると、庭へ出てきた二人。
日差しが強く、リリーが日傘をさす。
「暑いわね…。」
「そうですね…。もう6月も終わりですから…。」
「て事はもう7月!?」
(来週はヨット事件ね…。
確かヘレーネを湖に突き落とそうとして…失敗したのよね…待てよ?暗殺未遂って何?いつも私は、堂々とヘレーネに危害を加えてたのに、罪状の暗殺なんか身に覚えがないわ。)
アンリネットが考え込んでいると、マルクスが前からやって来る。
「…えっ!?」
お辞儀をしながら、道を開ける。
「お、おはようございます。陛下…。」
「あぁ………何処へ行くのだ?」
アンリネットの心臓が早鐘を打つ。
「え?わ、私!?」
昨夜同様、声が裏返る。
「んんっ。バラを植えるのに、お、温室へ…行く所でございます、です。」
「…そうか…。バーバラが綺麗なバラだと褒めていた。私も、…そう思う。」
それだけ言うと、マルクスは立ち去った。
「あ、ありがとうございます。」
その声は小さ過ぎて、マルクスには殆ど
聞こえていなかった。
そんな二人を遠くから、ヘレーネが憎悪を滲ませながら見つめていた。
「…昨晩といい、何なんでしょうね?」
「そうね…本当に心臓が持たないわ…。」
そうして庭師の元に着くと、テキパキと指示を出した。
「とても良いと思います。
温室と周辺にバラを植えれば、一年中楽しめるでしょう。」
「ありがとう。色んな色を植えたいのだけど…。」
「それでしたら――」
前の人生では考えられないほどの穏やかな時間。
アンリネットは、マルクスを考えない事によって、心と時間に余裕が持てたのだった。
その夜、バーバラがアンリネットの部屋を訪ねた。
「アンリネット様…夜に申し訳ございません。」
「良いのよ。どうかした?」
「ヘレーネ様に…来週ヨットへ誘われまして…。」
(え?それって…私が誘われるやつじゃない?)
「それで!?」
バーバラをソファに座らせると、自分も横へ座った。
「それが、アンリネット様には言わないで。と…どういう意味か分からなくて…。」
(…私が聞いたら、怒って絶対着いて行きそうね。でもどうして?直接誘えば良いのに…。)
「アンリネット様?」
「あ、ごめんなさい。
……もしヘレーネ様に、この事を聞かれたら、言ってない。って言ってちょうだい。
でも、日にちと時間は教えて。」
「はい。わかりました…。」
膝の上で、力強く組まれるバーバラの手を、アンリネットは包み込んだ。
「大丈夫…心配いらないわ。誰も貴方を傷付けるような事はしないわ。」
「…え?」
バーバラは、この言葉の意味を理解出来なかった…アンリネットの言う、ヨット事件が起こるまでは…。
つづく。




