3話 回避出来ない舞踏会
三日間、夜伽が続いた結果、バーバラは寝込んでしまった。
そしてアンリネットはお見舞いに部屋を訪れていた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい…。お恥ずかしいです。体力がないのが悪いですよね。」
恥ずかしそうにするバーバラ。
「そんな事ないわ。陛下は軍人でもあるから…体力おばけなのですわ。」
ふふふ。と二人は笑い合う。
「そうだわ!お見舞いに…リリー!」
そう言うと、リリーは両手に抱え込むようにバラの花束を持って来た。
「まぁ!素敵!ありがとうございます。」
「私、バラが一番好きなの…綺麗だし、良い香りだし…後宮で、ずっとバラでも育てようかしら…。」
ポツリと零すと、バーバラが心配そうな顔で覗き込んだ。
「何かお悩みでも?
あ!私なんかじゃお役に立てないですけど…。」
「ふふふ。ありがとう。聞いて欲しくなったら、お茶に誘うわね。では、また来ますわ。」
そう言うと、バーバラの部屋から出て行った。
(この秘密を話す日は一生来ないわね…。)
「そうだリリー、10日後の皇后様主催の舞踏会、ドレスチェックしといてくれる?」
「…かしこまりました。」
(あの夜、ドレスの色が被って口論になって、ワインぶちまけたのよね…。陛下の冷たい視線…辛かったな…いやいやもう諦めよう!)
その夜、マルクスはバーバラの様子を見に、部屋を訪れていた。
「バーバラ…すまない。無理をさせて…。」
「い、いえ…私に体力がないばかりに…。」
顔を赤くして俯いてしまう。
そんなバーバラを愛おしそうに、マルクスは見つめている。
すると、ふと、大量のバラが生けてあるのが視界の隅に入ってくる。
「あのバラ!…アンリネットか!?」
「ええ!素敵でしょ?萎れたら、花びらをお湯に入れたら良いと、教えて下さいました。」
嬉しそうに話すバーバラだったが、マルクスの眉間にはシワが濃くなっていく。
「そう言って、棘でお前を傷付けようとしているのではないか?今までも…その足の怪我だって!」
マルクスの脳裏には、以前ヘレーネから聞かされていた話。
バーバラが階段から落ちて怪我をしたのは、アンリネットの仕業だと信じていた。
「それは違います!足の傷は…。
少なくとも、棘は全て取ってあると思います。
アンリネット様と、侍女さんの指先には包帯が巻かれてました!」
「そんは馬鹿な!」
「陛下は見ていらっしゃらないので…。」
マルクスは驚く。
いつものバーバラなら、人形の様にただ俯いて頷くだけ…それが意見をするとは思わなかった。
「お前を変えたのか?…。」
そうポツリと言うと、後は何も言わずに部屋を出て行くと、その先に、ヘレーネが立っていた。
「夜更けに側室の部屋の前で何をしている?」
低く唸るマルクス。
「バーバラ嬢はまだ無理でしたのね。」
ヘレーネは鋭い視線をマルクスに向ける。
「お前には関係ないだろ。」
「どうですか?私なら大丈夫ですよ?」
「…今夜はそんな気になれん。」
そう言うと、振り返る事なく、去って行く。
「何よ…一度失敗したからって…。」
─────────
そして舞踏会当日。
ヘレーネとアンリネットはホールの真ん中で、対峙していた。
(なんで!?ヘレーネと色は被らないようしてたのに…回避は出来ないって事!?)
デザインは違えど、二人のドレスの色は全く同じの深い青色だった。
「アンリネット嬢!そんなに、私と同じドレスの色にして、目立ちたいのかしら!?」
「そ、そんな事…ヘレーネ様のドレスの色は、深紅だとお聞きしましたので…。」
ヘレーネが扇子をパタンと閉じると、アンリネットを指す。
「ええ!そのつもりでしたが、陛下と対に仕立てる予定のドレスが、生地が足りない。と言われたので、急遽青色へ変更したの!なんで…よりにも寄って…」
ワナワナと震えるヘレーネ。
「申し訳ございません。
ですが、折角仕立てて頂いたドレス…良ければ、このまま皆さんの前で着ていたいのですが…。」
周りはザワつく。
「アンリネット様が謝ったわよ!」
「そうね…それにほんとデザインが素敵だわ…。」
「ドレスに罪はないものね…。」
それもそのはず、アンリネットのデザインは、舞踏会後に流行るものだったのだ。
そんな声が聞こえたのか、ヘレーネは余計怒り、口元は歪む。
次の瞬間――
パシャ!
「っ!」
赤いワインがアンリネットの胸元を濡らした。
そしてバーバラが駆け寄る。
「ヘレーネ様!あまりにも酷いですわ!」
「貴方まで…。」
周りの貴族の視線は一気にヘレーネへ注が
れる。
そこへ、コツコツコツ…。
「…何をしている。」
低い声。
マルクスは、ワインで濡れたアンリネットを見た後、バーバラに真っ白なハンカチを渡す。
「バーバラ、これでアンリネットを拭いてやれ。」
「…はい。ありがとうございます。」
アンリネットは驚いて言葉を失っていた。
自分に全く興味を示さず、名前すら呼ばれなかった前の人生。もう諦めようとした矢先に…。
アンリネットの心は落ち着かなかった。
マルクスがヘレーネへ視線を向けると、
不満そうに唇を引き結び、視線を逸らした。
「皆、舞踏会を開始しよう。」
マルクスが一声かけると、ぎこちない雰囲気の中、舞踏会は始まった。
そしてアンリネットは、バーバラに連れられて会場を後にした。
つづく。




