35話 新たな協力者
ドミティア公爵を探していると、ゼノスの執務室に居ると聞き、リリーは訪ねた。
「失礼します。」
「リリー。何の用だい?」
まるでドミティア公爵に見せないように、ゼノスはドアの前に立ちはだかっていた。
「すみません。お取り込み中…。」
「良いよ。今、側室解消の事で、言い合いになってた所なんだ…。リリーが来てくれて話が逸れそうだよ。」
ゼノスはリリーの耳元で小さく言った。
「君は、確かアンリネットの?」
公爵が、ゼノスの背中越しに話かける。
「はい。リリーと申します。」
「で、どうしたの?」
ゼノスが聞くと、リリーは封筒を公爵に差し出した。
「アンリネット様が、陛下へお別れの手紙を書いたので、公爵様に届けて欲しいと…。」
「別れ!?」
ゼノスが滅多に出さない、大声をあげた。
「はっはっは!
やはりアンリネットはわかっているではないか!
別れを言われたら、いくら惚れてる陛下でも諦めるしかないだろう。」
リリーから手紙を預かると、懐にしまった。
「確かに受けとった。
アンリネットに、荷造りをしておくよう言っておいてくれ!」
「承知しました。」
リリーはお辞儀をしたまま、公爵が通り過ぎるのを待った。
「ではゼノス殿!儂は東の町へ行ってくるぞ!」
背中が小さくなるのを確認すると、ゼノスが口を開く。
「どう言う事ですか!?別れなんて…。」
「私も中身はわかりません。でも公爵様には、ただ渡して。と言うだけだと、持って行ってくれないだろうから。って、アンリネット様に言われたので…。」
「同じ気持ちと言う事か…娘にしかわからない、いや、娘だからわかる事なのか。」
頭脳明晰なゼノスでも、親子間の思いはわからず、困惑な表情を浮かべていた。
こうして、ドミティア公爵は国境の門の所で、友人で隣国のゲルニア公爵たちと落ち合い、東の町へと向かった。
東の町では、ドインスタッド公爵と鉱夫たちが地面とにらめっこをしていた。
「思ったより固いな…。」
「どうしやす?鉱山にある道具じゃないと掘れないですよ?」
鋭い視線で見つめるマルクスから、逃れるように背を向けて話し合いをしていた。
「陛下が一週間、何もしなくても良いとおっしゃってくれれば行けるが…。」
「相談した方が良いっすよ。」
「うーむ…。」
ドインスタッド公爵は、早くナディシアを皇后にしたくて、時間をかけたくなかった。
「どうした?」
堪らずマルクスが問いかける。
「…今ある道具だと、掘削するのに時間がかかりそうで…できたら鉱山へ取りに行きたいと、話し合っていました。」
ドインスタッド公爵は、隠さず話した。
どうせ、自分たちしか出来ない作業だと、タカをくくっていたから。
「どれほどかかるのだ?」
「そうですね…10日程。」
「そんなにか!?」
眉間にシワを寄せるマルクス。
「い、急げば一週間なら。」
「はぁ…仕方ない。それ以上かかるなら、皇后の話は無しだ。」
「わかりました。」
作業は一時中断。
皆は屯所に戻る事にした。
遠くからでもわかるくらい門の前が騒がしく、マルクスは馬を走らせた。
「陛下を呼んでくれ!」
「貴方は誰ですか?」
「私を知らないのか!?ドミティア公爵だ!」
「っ!公爵様がなんでこんな所に!?」
ドミティア公爵と門番のやり取りが聞こえてくると、マルクスは馬から降りて駆け寄った。
「ドミティア公爵!なんでここに?
それにこの方たちは…。」
「おお!陛下!助っ人を連れて来ました!」
ドミティア公爵の後ろには、ゲルニア公爵と、山を掘り地中で暮らすウィーニーシア族が並んでいた。
国境の鉱山では、境界を巡ってドインスタッド公爵と幾度となく小競り合いを繰り返してきた因縁の部族である。
「何故、貴様がここにいる!」
ドインスタッド公爵が声を荒らげる。
「困ってると聞いたのでな!」
ふん。と鼻を鳴らすゲルニア公爵。
「よせ!どう言う事だ。」
マルクスは手で制して、言葉はドミティア公爵へ向けられていた。
「こちらは隣国の友人、ゲルニア公爵です。」
公爵が紹介すると、ゲルニア公爵は一礼する。
「ドミティアの頼みで来ました。
我々の技術があれば、掘れない地面などありませんよ。」
ゲルニア公爵は優しく微笑むが、マルクスは信用出来なかった。皇帝としては当然の事。だが、このままナディシアを皇后にするくらいなら…。と藁にもすがる思いでもあった。
「何故そこまでして…。」
マルクスは真意を確かめるかのように、ゲルニア公爵を凝視していた。
そんなマルクスの心の内をわかってか、ゲルニア公爵は、クスッと笑って言う。
「友人の娘――アンリネットのためですよ。理由はそれだけで十分です。」
「…アンリネットの…?」
「そうです。陛下、アンリネットから手紙を預かってきました。」
別れの手紙だと信じているドミティア公爵が、横から差し出すと、それ以上何も言わなかった。
「そうか。アンリネットから…。」
顔がにやけそうなのを、必死に堪えるのを誰にも悟られないよう、すぐに懐にしまった。
「では作業は、明日からお願いしよう。」
そうして離れようとするマルクスに、「話が違う!」
とドインスタッド公爵は、足早にマルクスの後を追う。
懐には、アンリネットから届いた一通の手紙。
それはマルクスにとって希望だった。
だが、その希望を巡って、再び公爵たちと衝突することになるとは、この時まだ誰も知らなかった。
つづく。




