33話 もう一つの策
公爵は真剣な顔で言う。
「ゼノス殿。我らを気遣って下さるのなら……側室を解消して頂きたい。」
「え?」
「っ!?」
またも驚く二人を他所に、公爵は続けた。
「ヘレーネ様を追い出し、愛されもしないのに…娘は良くやったと思います。」
公爵の目には光るものが…。
「お父様…私、追い出してないし、愛されなくても良いのです。」
「何を言うか!そんなの後宮へ閉じ込められてるのと同じではないか!」
「それでもバーバラとリリー、エリスとの暮らしは楽しく…」
アンリネットの言葉を遮り、公爵は続ける。
「いいんだ!私が決めたのだ!この水不足問題が解決したら、陛下に打診する!」
「そんな勝手に!」
「そうですよ公爵!陛下は解消を望んでないと思います。」
(あんなにベタ惚れなんだ、手放すはずがない。)
ゼノスが食い下がるが、考えは変わる事なく、即行動の公爵は部屋を出ていってしまった。
立ち尽くす二人。
「あのう…どうするのですか?」
堪らずリリーが話しかけた。
「もう少し話し合いをしたいのですが…。」
ゼノスは困った顔をしながら、アンリネットに言った。
「いえ、このままで良いです。父の力を借りましょう。今はそれが最良です…早く暴動を沈めないと、怪我人が増えるだけですもの…。」
アンリネットの横顔は、力強いが悲しみも帯びていた。
─────
数時間後、ゼノスの元にナディシアが訪ねて来る。
「失礼します、ゼノス様。」
「ナディシア嬢…。」
困った表情のゼノスに気にも止めず、ナディシアは続ける。
「東の町の事聞きました。父の鉱山で働いている者たちを、東の町へ送りましょう。」
「そんな勝手な事をされては!」
(ただでさえ、ドミティア公爵の暴走で頭が痛いのに…。)
「大丈夫です!父には話してあります。
上手く行けば、水不足は解消しますし、私が皇后に相応しいと、陛下にもわかって頂けますわ。」
ナディシアは真剣な眼差しでゼノスの目を見据えていた。
「ですが、こちらも策があり、動き始めているので…。」
「東の町まで、半日あれば行けます。
それより早く、策とやらは動けるのですか?」
「それは…。」
(隣国のどこかもわからないし、半日では動けないだろうな…。)
考え込むゼノスに、ナディシアは続けた。
「父には準備も頼みました。あとは鳩を飛ばせば、出立してくれます。」
ゼノスの答えを待つ。
「……地盤が固いですよ?」
「鉱山も固いです。」
「……わかりました。私からの手紙も一緒に。」
(全てお伝えせねば…側室解消は伏せておこう。)
そうしてゼノスが書いた手紙と共に、鳩は飛ばされた。
――東の町。
昔、雨は普通に降っていたため、町の半分は農業用で、雨が降らなくなってから、マルクスは近くに屯所を作った。
河の水を運ぶが、丘と距離もあり、生活用水を確保するのに精一杯だった。
城から三日。
マルクスはその屯所に居た。
「陛下!」
「おお、陛下が来られた。」
「皆、大丈夫か?」
マルクスの表情は曇っていた。
幸い兵士たちの怪我は軽傷で、町民の負傷者も数人に留まっていた。それでもマルクスは心を痛めていた。
「町へ行こうと思う。」
マルクスが言うと、兵士は止めた。
「おやめください!」
「今、陛下が行ったら、不満の矛先が陛下に向かわれます!」
マルクスを心配する兵士たちは声を上げる。
「だが、会って、直接聞かねば…。」
「…でしたら、町長とお話を。
町長は争いを好みません。」
「わかった。明日、案内してくれ。」
「承知しました。」
夜、簡易ベッドの上でマルクスは、いつかに貰ったアンリネットの手紙を見ていた。
幾度となく読み返したその手紙は、細かい皺が刻まれていた。それでもマルクスは捨てられずにいた。
(アンリネット…ここが解決したら、気持ちを聞かせてくれるか…?いや、まだ早いか…。)
モヤモヤする気持ちを晴らしたくて、マルクスは外へ出る。
――満天の星空が広がる。
「…凄いな。アンリネットが喜びそうだ。」
そうだ。と部屋に戻り、マルクスはアンリネットに手紙を書きはじめる。
【アンリネットへ――】
そう書き始めるだけで、心のつかえが軽くなった気がした。
つづく。




