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処刑された側室は、もう皇帝を愛さない。  作者: 白 月虹


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32話 気遣う心

アンリネットはバーバラの部屋でお喋りをして楽しんでいた。

そこへ、マルクスがやって来る。


「楽しんでいる所失礼するよ。」


マルクスの無理矢理作った笑顔が、二人には違和感でしかなった。


「どうしたのですか?」


バーバラが聞く。


「東の町へ…視察に行ってくる。」


「そうですか…。」


「長くなるのですか?」


アンリネットが続く。


「そうだね。少し遠いからね。戻ったら、またアンリネットのお菓子が食べたい。」


そこへ兵士がマルクスを呼びに来る。


「…馬のご用意が出来ました。」


「そうか…行ってくる。」


「行ってらっしゃいませ。」

「お気をつけて…。」


マルクスはバーバラの額に、チュッと口付けをすると、アンリネットの手を取り、甲に口付けをした。

それはバーバラよりも長く、アンリネットは体が硬直してしまう程だった。


「ははは、顔が真っ赤だ。」


マルクスは満足そうに微笑むと、兵士と一緒に立ち去った。


「お姉様、大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないと思うなら、座るの手伝って。」


「はぁ…。リリー!」


そうしてアンリネットが座ると、バーバラが口を開いた。


「マルクス様、なんか憂いを帯びてましたね。」


「そうね…大丈夫かしら?…大丈夫よね?でもあんな顔、初めて見たわ…。」


「お姉様…心配ですね。」


「ええ…。ごめんねバーバラ!私、ゼノス様の所へ行ってくるわ!」


「え!…は、はい。」


「何かあったら言うから!」


そう言うと、リリーを連れてパタパタと走って行った。


城に着くと、ゼノスの居場所を貴族たちに聞いて回った。


「ゼノス様なら、執務室だと思いますよ。」


「ありがとう!」


一礼すると、踵を返した。


「陛下も、早く皇后を迎えればいいのに…」

「だな。ヘレーネ様も追い出されてお可哀想だ…。」


城の中では、アンリネットの悪行でヘレーネを追い出した。と、今でも噂が出回っていた。


コンコン、とドアをノックする。


「どうぞー。」


中からゼノスの声。

ガチャリと開くと、アンリネットが困ったような笑顔で立っていた。


「アンリネット様!何故こんな所に…衛兵は?リリーと二人ですか?」


「……。」


「余り城には来ない方が良いですよ。」


ゼノスは噂の事を気にしていた。


(私に気を使っているのね。)


アンリネットは執務室へ一歩入ると、ゼノスへ向き直る。


「陛下の事で、お聞きしたいですわ。」


「視察の事ですか?」


「視察じゃないでしょ?」


アンリネットは一歩一歩ゼノスへ近づく。


「本当に――」


「視察じゃないわ!あのお顔…心を痛めていたわ。」


「っ!」

(マルクスを良く見ているのだな。)


ゼノスが関心していると、アンリネットは机の上の地図に目をやった。


「これ…東の町?」


「……水が無く、作物が育たないそうです。

それで暴動が…兵と衝突もあったそうで…。」


「そんな…陛下は一番民を大切にしているのに…心を痛めて当然だわ。」


アンリネットの今にも泣きそうな顔を見て、ゼノスは目を見開いた。


(あぁ、マルクス…こんなにもお前をわかってくれている女性は、アンリネット様以外居ないぞ。)


「この川の水を引けないの?」


アンリネットが地図を指さしながら言う。


「そこまで行くには、ここを通らなければ行けないのですが、地盤が固く、掘れないのです。」


「……。」


考え込むアンリネットを、ゼノスは困った顔をしながら声をかけた。


「陛下にお任せ下さい。」


「……。」


「アンリネット様?」


「ゼノス様、手紙を書くことをお許し下さい。」


「っ!?

誰にですか?私の一存で、側室様を自由に出来ません。」


ゼノスの顔が険しくなる。


「……隣の国の知人に。」


「どう言ったご要件で?」


ゼノスの怒ったような顔を見るのは初めてだった。怯んでしまいそうな自身を奮い立たせて、アンリネットは答えた。


「父の友人で、隣の国なのですが、山や岩盤を掘る仕事をしている方が居るのです。私も何回か会っています。その方に協力して貰えれば――」


「……それは、国同士の話しになります。」


「そんな…そこまでしなくても…。」


「側室の貴方が手紙を出すという事は、そう言う事です。」


俯くアンリネット。


「では、父に手紙を!」


「お父上が成功すれば、側室の父親をひいきしていると、他の貴族が不満が出ます。」


「……。」


アンリネットの心が折れそうになった時、コンコンとドアのノックと共に、アンリネットの父親が入って来た。


「失礼します。ゼノス殿。」


「お父様!?」

「ドミティア公爵!?」


驚く二人を他所に、公爵は続ける。


「書類を届けに参りました。…お話はドアの前で聞きしました。」


ゼノスは思う。


(聞き耳立てちゃダメだろ…。)


「儂が手紙を書きます。友人に頼み事をするだけの事です。」


「ですが外交に関わる事を、側室の父親が出しゃばると、公爵まで何を言われるか…。」


ゼノスは、気遣うようにチラリとアンリネットを見た。

だが、そんな事気にしない。とばかりに、公爵はゼノスの肩に手を置いた。これから突拍子もない事を言われるとは、ゼノスも予想出来なかった。



つづく。


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