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処刑された側室は、もう皇帝を愛さない。  作者: 白 月虹


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31話 皇后になる話

しばらく続く沈黙を破ったのは、マルクスだった。


「…お腹も目立つようになったし、問題なく育っていくものだと思っていた。」


バーバラの手を握るマルクス。


「失礼ですが、バーバラが出産するまで、ナディシア嬢を皇后にする話を、待ってもらえませんか?」


「…なぜそれを…。」


マルクスは目を見開く。

アンリネットは気にせず続けた。


「ナディシアが会いに来ました。彼女とは、知り合いでして…。皇后を迎えるのに反対はしませんけど、せめてバーバラが出産するまで――」


マルクスは立ち上がると、アンリネットの両手を包むように握りしめる。


「俺は…君に皇后になって欲しいと思ってる。」


「えっ…。」


驚くアンリネット。


「私には……。」


「バーバラが出産を無事終えたら、貴族院に話すつもりだ。」


マルクスの包み込む手は暖かくなる。


「ですが、私はそんな資格ありません。」


「何故だ?君なら公爵令嬢として教育は受けているし、側室から皇后になるなら問題もない。ナディシア嬢より説得力があるだろ?」


「そう言う意味じゃ…」


「前世の事か?…わかってる。信じられないのも…でも今を生きている。今の、俺を見て欲しい。」


マルクスの真剣な眼差しに、アンリネットは目を離せなかった。


「……考えさせて、下さい。」


今までの拒絶とは違う応えに、マルクスの顔は明るくなった。


「ああ。もちろん!」


そう言うと、マルクスは椅子に座りバーバラに話しかける。


「バーバラ、君に話したい事があるのだ。早く良くなってくれよ。」


そんなマルクスの後ろ姿を、アンリネットは静かに見つめていた。


─────


絶対安静のため、バーバラはベッドの上で動けずにいた。

そこへ来訪者が……。


「これはアンリネット様!と…。」


アンリネットとリリー。

今回はお菓子の籠を持った、ダレンも居た。


「いらっしゃい、お姉様!昨日は来てくださらなかったから――って、あなた…。」


「お体は大丈夫ですか?」


ダレンはニコニコしながら挨拶をした。


「良いのですか?お姉様。この人と一緒に居たら、マルクス様に怒られるのでは…。」


バーバラはアンリネットにヒソヒソと耳打ちをする。


「ええ。ゼノス様が…。

剣を抜いた陛下も悪いから。って。」


アンリネットの言葉の後に、ダレンが続く。


「一生、アンリネット様にこき使われなさい。と言われました!私としては、嬉しいから良いのですけどね。」


絶えずニコニコとダレンが言った。


(ゼノス様…マルクス様にも罰をお与えになったのね…。怖いお方だわ。)


バーバラは思った。ゼノスを敵に廻さない方が良いと…。


ちょっとしたお茶会の準備は進み、エリスもリリーもソファに座ろうとした時、コンコン。とノックの音がする。

エリスが開けると、そこに立っていたのは、執事長と…控えめに立つマルクスだった。


(え?陛下?呼んでないのに。)


驚くアンリネット。


「本日は、お招き頂きありがとうございます。アンリネット様が作ったお菓子を召し上がれると聞き――」


「長い!早く入れ。」


執事長の話を遮って、マルクスはバーバラの部屋へ入って来る。


「っ!」

(こいつ!…なんで、ダレンがアンリネットの隣に座って居るのだ!?)


マルクスの鋭い視線がダレンを射抜く。

が、ダレンは全く気にせず、マルクスにお辞儀をしていた。


「執事長さんは、こちらへ座って。」


何の意図もなく、アンリネットが自分の座って居た所へ誘導する。


「私はバーバラの隣に座るから、気にしないでね。」


そう言うと、ベッド横のテーブルに移った。

すると、バーバラはマルクスに目配せをする。


「マルクス様にも、そばに居て欲しいです。」


「ああ、そうだな。」


そう言うと、マルクスはぎこちない動きで、アンリネットの隣へ座った。


「……。

それでは、始めましょうか。本日のメニューは、スコーンとバラのジャム、紅茶は――」


アンリネットが説明すると、各々は食べ始める。

マルクスが一口、口に入れると、目を丸くする。


「美味い。…料理長より美味いよ。」


「そんな事ないです…。まだまだですわ。」


「俺は今まで、ずっとこんな美味い菓子を食べずに過ごしていたのか…。」


演技のように額に手を置くマルクス。


「大袈裟ですわ!それに…今までのは、練習でしたので…。」


アンリネットは少し困った顔をしていたが、マルクスは愛おしそうに見つめていた。


(こんな日常も悪くない…。)


この時間がずっと続けば良いと、マルクスは思った。

だが、この穏やか時間は長くは続かなかった。


─────


次の日、マルクスは執務室でゼノスにお茶会の様子を楽しそうに話していた。


そこへ――ノックもそこそこに、ドアが開け放たれる。


「陛下!大変です!

東の町で、水が無く、作物が育たないと、暴動が起きてます。」


一人の兵士が声を荒らげた。


「何!?」


「ずっと議題にも上がっている、水も引けず、雨頼りな町ですね。」


ゼノスが地図を広げる。


「…町民には手を出すなよ。」


マルクスは地図を眺めながら兵士に言った。


「それが…暴動が増す一方で、双方怪我人が多数…。」


「何をしている!民を守らず、兵士を名乗るとは!」


マルクスは怒りを露わにする。


「待てマルクス。兵士もお前の民だ。」


ゼノスはマルクスの肩に手を置き、諭す。


「……そうだな、すまない。よし、私が赴こう。馬を出せ!」


「その前にお二人に挨拶して行け。」


「……そうだな…すまない。」


そう言い残すと、マルクスは後宮へ急いだ。



つづく。

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