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処刑された側室は、もう皇帝を愛さない。  作者: 白 月虹


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30話 招かれざる来訪者

ナディシアはゼノスに会いに、彼の執務室を訪れていた。


「貴方ですか…。」


「ゼノス様も、私を歓迎してくださらないのね。」


「そう言う訳では…仕事で忙しいのですよ。」


ゼノスの笑顔は引きつっていた。


「私も、何かお役立ちたくて…。」


ゼノスの返事を待たずに入って行くと、腕を掴まれる。


「申し訳ないが、機密事項も置いてある。

部外者がホイホイ入れる場所ではありません。」


ゼノスの鋭い視線が、ナディシアを貫く。


「わ、私は皇后候補よ。

いずれ私の知識が必要になるわ。」


「それを決めるのは陛下です。

あ、それともう一つ…私は、陛下の側近でもあり、乳兄弟でもあります。敬語…使いましょうね。」


ゼノスは棘のある笑顔を顔に貼り付けると、ナディシアは恥ずかしさで顔が赤くなっていった。


「……失礼致しました。ですが、本日の事忘れませんので、悪しからず。」


一礼すると、ナディシアは部屋から出て行った。


「はぁ……最終的に決めるのはマルクスだ。知らないのか?あのご令嬢は…。」


ゼノスは頭を抱えながら呟いた。


そしてナディシアの嵐は収まらず…。

――後宮にて。


「貴方は誰ですか!?」


リリーとアンリネットの前に、突然ナディシアは現れた。


「…貴方。」


「私を覚えてますか?アンリネットさん。

あ、今は”様”を付けないといけないですね。」


ナディシアの目は怒りにも似た、恨みのようなものが滲み出ていた。


「ええ…覚えているわ。あの時は…でも私は何も知らなかったし、貴方とも仲良くなかったから。」


「……そうね。でも貴方のせいで、学生時代は酷いものだったわ。」


【二人は同じ歳。同じ学園に通っていた。

ナディシアが想いを寄せていた男子学生が、アンリネットを好きになり、何通か手紙のやり取りをしていた。

それが学園で噂されると、焦ったナディシアが男子学生に告白。もちろん玉砕。

その事も学園で噂される。と言う、よくある話しだった。

そこからアンリネットへ恨み初め、社交界で顔を合わせると、喧嘩をする時もあったくらいだった。】


「…それで何の用なの?ここはただの公爵令嬢が入れる所ではないのよ?」


ナディシア相手に、思わず悪態をつく。


「コホン。

知ってます。でも私、入っても良いの。

…だって、皇后になる予定ですから。」


「えっ!?」

「嘘ですよ!」


リリーも驚いて声を上げた。


「私が皇后になれば、国の為になりますの。

だから、陛下も快く承諾しますわ。」


「そんな…バーバラ、様は、今、身篭っているのですよ?こんなタイミングで…。」


リリーは信じられない様子で口元に手を当てる。

が、アンリネットは冷静だった。側室の子供が産まれる前に、皇后を迎えたいと思う貴族がいてもおかしくはない。


「私が皇后になったら、貴方が今のまま後宮に居られるとは、思わないで下さいね。」


ナディシアはアンリネットの言葉を待たず、「では。」と言ってその場を後にした。


「何ですかあの方は!」


リリーはワナワナ震えていた。

その横で、アンリネットはどこか浮かない表情をしていた。彼女が案じていたのは、自分のことではない。

皇帝として難しい決断を迫られているであろう、マルクスのことだった。


─────


皇后候補ナディシアの話しは、バーバラの耳にもすぐに入った。


「どういう事!?マルクス様は本気なの?」


エリスに詰め寄ってしまうバーバラ。


「私にはわかりません…でも姉さんの話だど、アンリネット様に会いに来たそうです。」


「なんですって!?お姉様はなんと?」


「あまり詳しくは…ただ学生の頃からのお知り合いみたいです。」


「そう…それにしても後宮にまで押しかけてくるなんて!」


怒りが収まらない様子のバーバラ。

すると……。


「いっ!」


お腹を抑えながら、椅子から落ちてしゃがみこんでしまう。


「バーバラ様!」


エリスが近寄ろうとすると、バーバラは手で制して言う。


「はー、はー、お医者さんを、すぐ…お願い…。」


「わかりました!」


エリスは裾を巻くしたて、なりふり構わず走って行った。


(大丈夫よ……ふふ。ママと一緒に怒ってくれているのね…。)


程なくして、バーバラは意識を手放した。


マルクスはバーバラの部屋のドアをノックもせず、自分で開け放ち入ってきた。


「バーバラは!?」


険しい顔のマルクス。

主治医が「しーっ」と言いながら症状を説明した。


「少し出血をしましたが、安静にしていれば問題ないくらいです。」


「そうか…良かった。」


「ですが、このまま心身にストレスがかかり続けると、流産の可能性も…。」


「何?」


鋭い視線が主治医を射抜く。

そのやり取りを、ベッド横で見ていたアンリネットが、口を挟む。


「陛下。少し、お話よろしいですか?」


「アンリネット。すまない、気づかず…」


「いえ、バーバラの事だけ考えてください。」


そう言いながらアンリネットは、自分の座っている椅子を、マルクスへ明け渡す。


「……アンリネットだけ。あとの者は下がってくれないか。」


「承知しました。」

「バーバラ様が目覚めたら、お知らせ下さい。」


そう言い残すと、その場にいた者はバーバラの部屋から出て行った。



つづく。

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