28話 打ち明けた秘密
二日後――東屋。
アンリネットにはマルクスの事を秘密にした、お茶の時間が始まった。
「良いお天気で良かったですね〜。」
上機嫌のバーバラ。
「体が辛くなったら、すぐ言うのよ?」
お腹の子を気にするアンリネット。
「はい、わかりました!」
マルクスが来るのに、まだ時間がある。
ソワソワするのを隠すように、バーバラは元気よくニコリとした。
しばらく、談笑する二人。
「ねぇ、バーバラ…さっきから気になってたのだけど、貴方、私の後ろをずっと気にしているわよね?」
「ええ!?そ、そんな事ないですよ?」
とぼけるバーバラだったが、アンリネットは目を細めて、バーバラの表情を伺う。
「……。」
「………。」
アンリネットの凍てつく視線に負けたバーバラが、口を開いた。
「……実は…マルクス様を、お呼びしてます。」
「なっ!?」
アンリネットは思い切り立ち上がると、椅子がガタンと鳴らしながら、後ろへ倒れた。
「…大丈夫か?」
椅子を戻しながら声を掛けられる。
その声は……マルクスだった。
(怒られる前に来てくれて良かったー!)
バーバラは心の中で、マルクスに手を合わせていた。
「いけません、陛下が椅子を直すなんて!」
「君の椅子なら何度でも直すが?」
「何をおっしゃって――」
アンリネットの言葉を遮って、マルクスが言う。
「申し訳なかった!」
驚くアンリネット。
「いくら嫉妬したとは言え、剣を抜いたのはやり過ぎだった!」
直角なくらい腰を曲げるマルクス。
「お辞め下さい!陛下が私なんかに頭を下げるなんて!それに……嫉妬って…まだ私の事を…なんで……」
最後の方はゴニョゴニョと濁すアンリネット。そんな二人を見ていたバーバラがスっと立ち上がった。
「あの、私、ちょっとお花見てきますね〜。」
「え?」
「お姉様、マルクス様。ゆっくりお話してくださいね!」
ニコッとすると、リリーとエリスと共にその場を後にした。
東屋に残された二人は、しばらく固まったままだった。
「…許して、くれるか?」
「許すも何も、怒っていませんし…。」
「そうか…。前に…少しずつで良いから信じてくれ。って言ったのを覚えているか?」
「ええ。」
マルクスは、戻した椅子にアンリネットを座らせながら続ける。
「今回の事で、嫌われたと思った。バーバラからも、アンリネットが俺を怖がっていると聞いたから。」
「それは……。」
アンリネットは目を伏せる。
回避をしてきた処刑なのに、いきなり現実になりそうになって、怖くなるのは当然だった。
「どうしたら、俺のこの気持ちが伝わるのだうか。」
「……。」
「好きなんだ。
…バーバラとヘレーネへに感じていた好きと、全然違う。」
直球な言葉。初めてではない。
けど、申し訳なく思ってしまうアンリネットは、どんどん縮こまってしまう。
「側室だからと言って、命令でこの想いを受け入れさせる事はしたくない。」
伏せるアンリネットの顔を覗き込むように、マルクスはその場にしゃがんだ。
「…俺はアンリネットに、もう一度愛されたい。」
アンリネットは逃げられないと悟り、全てを話す決意をした。
(こんなに誠実に思ってくれる陛下に、申し訳ないわね…。)
そしてゆっくり顔を上げると、悲しそうな瞳でマルクスを見つめた。
「信じてもらえないと思いますが…お話したい事があります。」
「…君の言葉なら、信じるよ。」
マルクスはアンリネットの前に椅子を引きずると、静かに座り、言葉を待った。
アンリネットは目を瞑り、ポツリポツリと言葉を紡いだ。
「私には……前世の記憶があります。」
「っ!?」
「悪役側室として、私は処刑されました。
陛下……貴方に。」
「なっ!」
驚くマルクスを気にせず、アンリネットは全てを語った。
「――なので私は、バーバラと陛下が幸せになって頂きたいです。」
それだけ言い残すと、アンリネットは東屋から離れて行く。
その背中をマルクスは見つめる事しか出来なかった。
(あの時の、俺に嫌われるのが怖いと言った言葉に、こんな思いがあったとは…。)
「どうしたら…。でも、俺は諦められない…。」
青く澄んだ空を見上げ、呟いた。
─────
その日は突然やってきた。
城の謁見の間に、ドインスタッド公爵とその娘――ナディシアが訪ねて来る。
「陛下、このような場を頂きありがとうございます。」
公爵とナディシアが一礼する。
が、マルクスは何のことかわらかず、首を傾けるだけだった。
「こちらは娘のナディシアでございます。
皇后にと、他の貴族の方たちからも推薦を頂き、嬉しく思い――」
「待て。」
公爵の話を遮り、マルクスは低く唸った。
「何の事だ?私は何も聞かされていないが?」
横に控えていた貴族たちに視線を送るが、誰とも目が合わない。ゼノスを見ても、首を小さく振るだけだった。
すると、一人の公爵が言葉を漏らす。
「そろそろ皇后陛下を迎えるのはどうですか?」
「皇后は私が決める。」
声のする方へ、マルクスは言い放つ。
「まさかバーバラ様ですか?
妾の子を皇后にするなんて聞いた事もない。」
「大臣の娘だから側室に推薦したと言うのに…。」
「陛下もお気に召していたしな。」
そんな声がどことなく聞こえてくる。
その様子にバーバラの父親は目を伏せ、マルクスは眉間のシワが濃くなるばかりだった。
「この後の晩餐をどうかナディシアと…。」
公爵とナディシアは深く一礼する。
「はぁ……わかった。食事をするだけだ。」
そう言うとマルクスは、手だけで公爵を下がらせた。
「ありがとうございます!
では、後ほど。」
二人が謁見の間から出ると、マルクスは貴族たちへ怒りを顕にした。
「なぜ勝手に決める。
ヘレーネと離婚をして、まだ半年も経たないと言うのに!」
「お言葉ですが、バーバラ様が産んだお子様が男の子だった場合、皇后にすると言う人たちも出ましょう。」
一人の公爵がずいっと前に出る。
「それでは遅いのです。先に皇后決めないと!」
「陛下、しきたりも無視出来ません。」
違う公爵が声を上げた。
マルクスもわかっている。自分がルールを破る訳にもいかない事を…時間がかかってもアンリネットを皇后にしようと思っていたのに、出鼻をくじかれたようだった。
つづく。




