26話 意図しない行動
アンリネットがダレンと庭の手入れをしているある日、バーバラはマルクスを誘って庭の散策していた。
「雲行きが悪そうだが…こんな時に庭に出なくても…。」
「良いんです…気分が良い時なので。そうだ、マルクス様!お姉様のバラを見に行きませんか?」
「…そうだな。」
お菓子を作ったら…と言ってから、アンリネットとは会っておらず、少し緊張していた。
そして案の定、雨が降り出してしまう。
「だから言っただろう。」
呆れるマルクスだったが、エリスが素早くバーバラに傘をさした。
「備えてはありますのよ。」
何か含みのある笑顔を向けるバーバラが続ける。
「マルクス様は濡れてしまいますから、早く温室へ行った方が良いですわ!」
「……。」
マルクスは意図を察して、走って行った。
(全く、お節介なヤツめ。)
そう思いながら、顔は緩み、足取りは軽やかだった。
「ぬかりないわね?」
「はい。ダレンさんも居ます。」
バーバラとエリスはマルクスの背中を見送りながら、不敵な笑みを浮かべながら話していた。
――雨が降り出す少し前。
アンリネットとダレンは外に居た。
「今は香りの強いバラしか咲いてないわね…。」
「お菓子用ですか?」
「ええ。苦手な人も居るかもしれないでしょ?」
「そうですね…。」
二人が考え込んでいると、ダレンが閃く。
「それでしたらジャムにして、スコーンに添えるのはどうですか?」
「それ良いわね!自分で量を調整出来るしね。」
会話の途中、雨が降り出す。
「わ!雨だ!」
ダレンは咄嗟に持っていたタオルをアンリネットに被せ、手を引いて温室へ向かった。
「…ありがとう。」
「いえ。でもすみません、汚いタオルで…。」
「気にしないわ。私だって汗や土で汚いもの。」
「そんな事…それでも、アンリネット様は綺麗です。」
思い掛けない言葉にアンリネットはドキリとして、顔を赤くしていく。
「貴方も濡れてしまったわね。」
そう言うと、作業台の引き出しからタオルを取り出し、ダレンに渡そうとした時、手を掴まれる。
「っ!?」
「拭いて、くれますか?」
「え…。」
ダレンは濡れた髪をかきあげ、微笑む。
丁度その時、ガチャと温室のドアが開いた。
マルクスの目の前に広がるのは、バラに囲まれ手を取り、見つめ合うアンリネットとダレン。
怒りと嫉妬が入り交じる。
二人が一斉にこちらを見る。
そしてマルクスは強く拳を握りながら近づいて来る。
「何をしている?」
低く唸るような声。
「…ダレンが濡れて、いるので、拭いてあげようかと。」
自分でも気づかないほどに、震える声でアンリネットが答える。
「側室であるアンリネットが、庭師ごときにそこまでしなくてもいいのではないか?」
優しさは微塵も感じられない。
「申し訳ございません。アンリネット様の優しさに甘えてしまいました。」
物怖じせずダレンが一歩出る。
「お待ちください陛下。
ダレンにはよくして頂いてます。なのでこれくらい、なんて事ありませんわ。」
(まだ拭いてませんけどね。)
アンリネットが発した言葉は、マルクスからすると庇ってるように見え、それが益々嫉妬を増幅させた。
そして、その溢れた嫉妬はダレンへ向けられる。
バキ!
一瞬だった。
ダレンは植え込みに倒れる。
「キャー!」
叫ぶアンリネット。
その声を聞いて、駆けつけるリリー。
「アンリネット様!?」
(何これ、修羅場?)
「陛下!…なんで…」
困惑しながらアンリネットはマルクスに声をかけるが、目は合わない。
「リリー、救急箱を!」
「はい!」
「……そんなやつ、手当てするのか?」
マルクスは更に低く唸る。
「ダレン大丈夫?」
マルクスの声は耳に届いておらず、アンリネットはダレンに駆け寄った。
「痛たたた…。大丈夫です。棘が刺さるので、お下がりください。」
「立てる?」
「はい。」
そんなやり取りを見ていたマルクスは、シャラリと剣を抜いた。
「っ!」
それを見たアンリネットがダレンの前に立つ。
「どけ。」
「何をしているのですか!こんな事で人を殺めないでください!」
(あー、なんでこうなったの?これじゃこのまま処刑じゃない!?)
「こんな事…?俺にはこんな事で済む問題ではない!」
マルクスが大きな声をあげると、アンリネットはビクリと怯んでしまい動けない。
またそれも、マルクスには守る者と見え、悪循環なだけだった…。
リリーはアンリネットの危機を感じ、衛兵を呼びに外へ飛び出していた。
「良いですよ。殺したいなら殺してください。アンリネット様のためなら死ねる!そしてそのお心に、永遠に刻まれる。」
ダレンがフラッと立ち上がる。
(待って!何言ってるの!?そんな言い方したら…火に油注がないでよ!)
アンリネットの気持ちを他所に、ダレンがアンリネットの肩を抱く。
肩に置かれた手を見るマルクスの目が光ると、剣を振り上げた…その刹那――
「辞めろマルクス!」
マルクスの背後からゼノスが声を掛ける。
その声を筆頭に衛兵が入り、マルクスから静かに剣を取った。
つづく。




