25話 ライバル再び!?
マルクスは一歩踏み出す。
何度か訪れていた部屋なのに、まるで初めてかのように緊張していた。
(離れたくなくて入ってしまったが、どうするか…何か話題を…。)
「そうだ!さっき言ってた、バラのお菓子を作ると言っていた――」
振り返ると、自分の話を一生懸命聞いているアンリネットが立っている。
それを見て腕を引いて抱き締めたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えた。
(今じゃない…。でも…。)
「陛下?」
首を傾げるアンリネット。
「マルクスと、呼んでほしい。」
「え?」
思わぬ言葉にアンリネットは目を丸くした。
「ですが――」
側室が体を重ねてもいないのに、皇帝陛下を名前呼びするのは、この国では失礼な事だったから。
「良い。俺がそうして欲しいのだ。」
「…わかりました。でも、二人の時だけ…みんなに誤解されてしまいますから…。」
「…ああ。」
少し恥ずかしそうに、マルクスは短く返事をした。
「ははは。話が進まないな…。」
マルクスは自分で言って、笑った。
「そうですね。ふふふ。」
アンリネットもつられて笑う。
「アンリネット、君がお菓子を作るのか?」
「はい。料理長さんに教えてもらいながらですけど…。」
好きな事を話す時のアンリネットは楽しそうだった。
「あ!そうそう、ふふふ。失敗したのは、申し訳ないなぁ。と思いながら、庭師さんとリリーに食べてもらってます。良くできたのはバーバラに。」
遮るように、マルクスは口を開く。
「庭師も食べているのか!」
「ええ!?はい。」
驚きながらアンリネットは返事をした。
「アンリネット……本当に君は…。」
マルクスは額に手をあてながら言った。
「でも焦げてしまった物や、形が悪い物ばかりですから…。」
「今度からは俺が食べる。」
「そんな!失敗した物を陛下に召し上がってもらうなんて。」
「マルクスだ。それに、君が作った物なら全て食べたい。」
拗ねたようにマルクスが言うと、丁度ドアが開き、リリーが入って来る。
「湯浴みの準備が出来ました。」
「わかったわ。…では陛下、失礼します。」
アンリネットは恥ずかしくて顔を上げる事なく一礼して、自室の奥へと向かった。
「ああ。」
リリーも続いて行こうとした時、マルクスが呼び止めた。
「リリー。」
「はい!」
固まるリリー。
「今度アンリネットがお菓子を作る時、教えて欲しい。」
マルクスが耳打ちする。
全てを悟ったリリーは、ニヤリとしながら大きく頷いた。
アンリネットを追いかけるリリーは、どこか嬉しそうに飛び跳ねているようだった。
「うーん、バラのお菓子に合う紅茶を買いに行かないとな…。」
マルクスは楽しそうに一人呟いた。
──────
少しずつお腹が膨らんできたバーバラは、気分転換にと、庭を散策していた。
「風が気持ちいいですね〜」
エリスが日傘をさしながら言う。
「そうね。」
優しく笑うバーバラ。
「そうだわ!お姉様の所に行きましょ!」
「いいですね!」
二人は温室に向かう。
「お姉様居ますか?」
バーバラは温室のドアを開けると、アンリネットが雑草を取っていた。
「まぁ、バーバラ!動いて大丈夫なの?」
「ええ…ずっと部屋に居るのも退屈だし…つわりも落ち着きましたよ。」
アンリネットとマルクスの気持ちを知っているバーバラは、自分が身篭った事を申し訳ないと思っていた。
そのため、バーバラから体調や子供の話題は出さなかった。
「寒くなってきたから、日が傾いたら戻るのよ?」
「はい。」
そんな二人の会話に庭師が恐る恐る入ってくる。
「あのう…。」
「あ!ごめんなさい。」
バーバラは咄嗟に後ずさる。
「この方は新しい庭師のダレンよ。」
アンリネットが紹介をする。
「こちらは第一側室のバーバラ様。」
「これは知らなくて…すみません。
ご懐妊されてるのですよね!おめでとうございます!皇帝陛下に一番愛されてると、街では有名なんですよ。」
ダレンが喋れば喋る程、バーバラはばつが悪そうに俯いていく。
「バーバラ様がお世継ぎを産めば、アンリネット様は庭の手入れに専念出来ますね!
お菓子作りもお上手だし、側室なんて勿体ないですよー。」
悪気も無いし、しきたりも知らないダレンはアンリネットとバーバラの痛い所ばかりつついていた。
それを見兼ねたリリーが割って入る。
「ストーップ!ダレンさん、まだ作業が残ってますよ!」
「そうだった!すみません。」
ダレンは頭を下げる。
「でも…アンリネット様が、街でお菓子のお店を出したら良いなぁ。と思ったんです。その時は俺も花屋をやろかな…はは。じゃあ戻ります!」
ダレンは赤くなった顔を見られないよう、足早に温室を出た。
「え…何あれ…。」
バーバラとエリスが顔を見合せた。
「ライバル再びですね。」
エリスがバーバラに言う。
「有り得ないわ!彼をクビにするべきよ、
お姉様!」
バーバラがアンリネットへ向き直る。
「そんな事でクビ出来ないわよ。」
(って、やり直すまでは秒で侍女をクビにしてたわね。)
「ううぅん…。」
(マルクス様に言いたい…でも焦って拗れたら嫌だし…あ!そうだ、ダレンさんと仲良いのを見せて、マルクス様がヤキモチ焼けば、お姉様もわかるのでは?…うん、良いかも!)
バーバラは一人頷いていた。
そしてその後、大きな事件になるなんて思いもしなかった。
つづく。




