24話 向けられた笑顔
夕食が終わりマルクスが退室し、アンリネットとバーバラは食事後のお茶をしていた。
「もう!バーバラ、二度とあんな事しないで!」
「何がです?」
「陛下に、アーン…なんて…。」
口調は怒っていても、恥ずかしさが勝っているようで、顔は赤かった。
「お姉様、前にも言いましたけど、マルクス様はお姉様の事、嫌いじゃないですよ。」
バーバラはいつになく真剣な表情で言った。
「そうかもしれないけど…でも、また嫌われたら…。」
バーバラは、はっとする。
最後まで聞かなくてもわかったから。
「そうですね…私も、お姉様にまた嫌われたら、立ち直れません。」
「バーバラ…。私は嫌いになんてならないわ!絶対に!」
アンリネットの中では、処刑回避のためでもあったが、マルクスに嫌われたくない。もう追いかけないと決めたのに、未だに諦めきれなかった。
次の日、昼過ぎからアンリネットはバラの手入れをしていた。
「アンリネット様!紅茶をいれましたよ〜」
リリーが明るく話しかけてくる。
「ありがとうリリー。庭師さんが外に居るから、一緒に。と誘って来てくれる?」
「わかりましたー!」
そう言うとリリーは温室から出て行った。
アンリネットは席につくと、紅茶を一口飲み、バラを眺めていた。
「バラをお菓子に入れたらおいしいかしら?」
独り言なのに、返事が返ってくる。
「それは美味しそうだな。」
振り返ると、マルクスが立っていた。
「陛下!?」
慌てて立つと、テーブルにぶつかってしまい、紅茶が入ったカップが倒れてしまう。
「あっ!」
パシャっと、アンリネットの足にかかると、マルクスは慌ててアンリネットに駆け寄る。
園芸の時のアンリネットは、パンツスタイルの軽装なため、マルクスは火傷を心配して、近くにあるホースで水をかけた。
「…あの、陛下…。」
「っ!」
アンリネットはずぶ濡れになって地面に座っていた。
「すまない!」
慌てて水を止めると、アンリネットはクスクスと笑っていた。
「陛下、慌て過ぎです。ふふふ、私は大丈夫ですから。」
マルクスの目が見開く。
その笑った顔が自分のために向けられてる事に、鼓動も早くなった。
「すまない…。」
そう言いながら、上着をかける。
「…陛下は、何か御用ですか?」
「あぁ…仕事の休憩で、一緒にしたいと思って…。訪ねた。」
「そうですか。私も休憩で…リリーが庭師さんを呼びに行ったのですが…。」
立ち上がるアンリネットを支えるマルクス。
「庭師もリリーも来ない。」
「え?」
「二人は戻らせた。ここには俺たち二人だけだ。」
「どうして…ですか?」
アンリネットの顔は笑顔から困惑したような顔に変わっていく。
「言っただろう。好きだと。」
「…困ります。」
後ろを向くアンリネット。
「いきなり好きだと言われて困惑するだろう。半年前まで俺は君を避けていたし。」
マルクスはアンリネットを肩を掴む。
「今まで傷つけてきたことは事実…だから、少しずつでもいい。俺を信じてくれないか?」
少し沈黙の後。
アンリネットは目を伏せたまま言う。
「わかりません…けど、少しずつなら。」
「ああ。ありがとう。」
笑顔のマルクスと目が合った。
(怖いけど…でも信じたい…やっぱり陛下の事、諦められないのね…。)
凍りついていたアンリネットの心は、ほんの少しずつ溶け始めていた。
「そうだ!すまない。君はずぶ濡れだったのだった。早く部屋へ戻ろう。」
「大丈夫ですよ。濡れてるのはズボンだけですから。」
「ダメだ!女性は冷やしてはいけないと、医者が言っていた!」
至って真面目な顔のマルクスに、アンリネットはまたクスクスと笑った。
「笑った顔が、可愛い。」
「ひゃい!?」
驚きのあまり、いつものように変な返事をするアンリネット。
それを愛おしそうにマルクスは見つめ、二人は笑い合っていた。
マルクスはアンリネットを部屋まで送っていくと、リリーがドアの前で待っていた。
「アンリネット様!?洋服が濡れてるではありませんか!」
「私が悪いのだ。湯の準備をしてくれないか。」
「は、はい。かしこまりました。」
リリーが一礼すると、湯浴みの準備へ向かった。
「…。」
「……。」
沈黙が続く。
「…準備が終わるまで、一緒に居て良いか?」
「は、はい。」
アンリネットが小さく頷くと、静かにドアを開け、マルクスを招き入れた。
つづく。




