23話 吐露する本心
長いテーブルの両端に、マルクスとアンリネットは座っていた。
時々聞こえる、カチャとお皿がぶつかる音だけが部屋に響く。
(はぁ…喉の通りが悪いわ…こんなディナー初めて。)
アンリネットはずっと俯きながら食べていた。
そんなアンリネットをマルクスは気づいていたが、どう話しかけていいかわからないでいた。
デザートが運ばれて来る。
「お子様…おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「男の子だと、いいですね。」
「ああ。…でもどちらでも嬉しい。」
「…そうですね。失礼しました…。」
たどたどしい会話が続く。
「…子供は大事だ。バーバラも。」
「もちろんですわ!」
「君の、事も大事だ。」
マルクスと目が合う。
その顔は悲しそうだった。
アンリネットは目を逸らした。
自分が変わったため、マルクスも変わった。わかっているけど、目を瞑ると思い出す。
前の人生のマルクス…追いかける日々は辛く、目が合っても憎悪が満ち、処刑される日も興味がないように、一度もこちらを見る事はなかった。
(もし、またそんな風に見られたら…。)
その恐怖だけが、どうしても乗り越えられなかった。
「今夜は、無理強いしてすまなかった。」
「いえ、側室ですもの。当然の事ですわ…
こちらこそお断りするような真似をして申し訳ございません。」
「また、一緒に夕食でも…。」
「ええ。ぜひ、お待ちしております。」
マルクスは側室として。との意味が込められてるのがわかっていた。それが胸をきつく締め付けた。
「では、先に失礼する。」
そう言うとマルクスは席を立つ。
アンリネットはお辞儀をしたまま、出て行くのを待った。
「必要と言う物は全て用意しろ。俺の許可はいらない。」
「承知しました。」
マルクスは後ろを歩く執事長に言い放った。
──────
バーバラのお腹は順調に育っていた。
そんなある日、心労がたたったマルクスが倒れた。
アンリネットはバーバラの部屋で談笑していた所に、執事長が慌ただしく訪ね来た。
「陛下がお倒れに!」
アンリネットが勢いよく立ち上がる。
「っ!」
アンリネットとバーバラは顔を見合わせる。
「バーバラ、歩ける?」
「はい。…いえ、ごめんなさい。今は辞めておきます。」
「では、私は様子を見に行ってくるわね!」
そう言うと執事長とマルクスの部屋へ急いだ。
「今は眠ってらっしゃいます。」
「そう…。」
主治医が言うと、アンリネットは短く答えた。
「私たちは出ていますので、何かあればお声掛け下さい。」
執事長がそう言うと、部屋にいた者が出て行く。
「……陛下。顔色が悪いわ…。」
うっすら聞こえる声。
「バーバラの代わりにお見舞いにきましたのよ…。」
(アンリネット?)
「心配しました…もっとご自分を大切にして下さい。」
(ふふ。心配してくれたのか…悪くないな。)
ニヤつきそうなのをグッと堪えるマルクス。
「…好きと言ってくれてありがとうございます。でも好きにならないでほしかった…。私なんか気にかけないで下さい。」
声が詰まるアンリネット。
「私は、陛下にまた…嫌われるのが怖いのです。」
涙が頬を伝う。
(泣いて、いるのか…。)
薄く目を開けると、俯くアンリネットが視界に入る。堪らなくなりベッドの中で拳を握った。
「すみません。」
そう言い残すと、アンリネットが部屋を出て行く。そしてマルクスはゆっくりと目を開ける。
「俺を嫌いではなく、嫌われるのが怖いのか…。」
そう言いながら、顔を手で覆った。
──────
一日もすると、マルクスの容態は良くなり、夕食をバーバラの部屋でとる事にした。
そこにはアンリネットも同席していた。
「バーバラは沢山食べた方が良いと聞いたが、食べられそうか?」
そう言うマルクスの方まで、バーバラの食事が並べられていた。
「食べられますけど…こんなには無理です。」
「ふふふ。陛下は過保護になりそうですわね。」
アンリネットがバーバラに笑うと、マルクスが目を丸くした。
(その笑顔を、俺にも向けて欲しい…。)
バーバラと楽しそうに笑い合うアンリネットから、目が離せなかった。
「私が残した分は、マルクス様が食べてくださいね!」
バーバラがマルクスへ向けて言うと、当然目は合わない。
(マルクス様…そうだわ!)
「あのう、お姉様…食べさせて欲しいです。」
上目遣いでニコニコしながらアンリネットに言った。
「ええ!?」
「なんか急に甘えたくなってしまって…。」
バーバラはチラリとマルクスを見ると、マルクスの口が開いていた。
クスクスと笑うと、バーバラはアンリネットに向かい、口を開けた。
「アーン。」
「もう、バーバラったら。」
サラダを少しフォークに刺すと、バーバラの口へ運んだ。
「ふふふ。おいしいです。」
バーバラは満足そうな笑顔をマルクスに向けた。
「お前、わざと!」
「マルクス様、して欲しかったら、お姉様に頼んでみたら良いですよ?」
「ぐぬぬぬ。」
マルクスが言えないのをわかってて、わざと言ってるバーバラにマルクスはわなわな震えていた。
「アンリネット!」
「はい!?」
勢い任せにマルクスが名前を呼ぶと、アンリネットは驚いて返事をした。
「わ、私にも……その…。」
「マルクス様早く。」
バーバラがマルクスにだけ聞こえるように急かすと、マルクスは深呼吸をした。
「アンリネット、俺にも食べさせて…くれないか?」
「え?…そんな…バーバラがしてあげれば良いのでは?」
バーバラに、助けてとばかりに見つめる。
「お姉様…マルクス様はお姉様にお願いしてるのですよ?」
「でもでもでも!」
動揺するアンリネット。
マルクスは畳み掛けた。
「アーン!」
目を瞑り、口を開けて待つマルクス。
「ほら、お姉様!マルクス様を待たせていけませんよ!」
「あ、はい!」
そうして勢いに押されたアンリネットは、マルクスのお皿の上のお肉をフォークで刺すと、ゆっくり口へ運んだ。
目を開けたマルクスと目が合う。
あまりに近い距離に、息を呑んだ二人は顔を赤くした。
(あー、じれったい…。)
そう思うバーバラだった。
つづく。




