22話 告白
マルクスの手の上には、小さな袋が乗ったまま。
「このポプリと共に、その…アンリネットに言いたい事が…。」
マルクスは大きく深呼吸をする。
「君が…他の男と話しているとイライラしたり、泣いていると胸が苦しくなるし、笑顔を…あの笑顔を向けてほしいと思ってしまう。」
「……?」
アンリネットは理解していない様子だったが、マルクスは続けた。
「今も本当は触れたいと思っている。
…好きなんだ。アンリネット…。」
「ひゃえ!?」
驚きのあまり立ち上がるアンリネット。
「好き?私を!?でも、バーバラと廊下で…ポプリはバーバラに贈るってお、お話を…。」
「ん?……あぁ、あれは、
――『だから言ったではありませんか〜。お姉様はポプリ作るの好きなんです。だから快く承諾しますよって!』
『あぁ。完成したら、アンリネットに贈ろうと思う。そして告白する。』
『まぁ。本当ですか!告白なんて、お姉様も喜んでくれますわ!私も嬉しいです。』
と話してたんだ。」
マルクスは廊下でのバーバラとの会話を説明した。
それでもアンリネットの混乱は続き…。
「…申し訳ございません。そのお気持ちにはお応えできません!」
反射的に断ると、深く頭を下げた。
「なぜだ?」
「私は…。」
(本当の事なんて言えない…。)
アンリネットは頭を下げたまま続ける。
「私、用を思い出したので、し、失礼します!」
「用?何を言ってるんだ。」
「申し訳ございません!」
そう言うと足早に部屋を後にした。
「アンリネット…。はぁ…まだ早かったのか…。」
大きくため息をついたマルクスは、アンリネットの部屋に取り残されたまま夜を明かした。
一夜明けて、マルクスが目を覚ますと、隣にアンリネットは居なかった。
(戻って来てない。)
「だが、諦めるつもりもない。」
そう決意したマルクスだった。
一方アンリネットは――
バーバラの横でやっと眠りに落ちていた。
「お姉様…バーバラがお二人をくっ付けてみせますわ!」
そして、バーバラの計らいでお茶会をするも、アンリネットが逃げ出し失敗。
街で人気のお菓子を調べて、マルクスが直接買いに行くが売り切れ。
そんな事が続くある日、マルクスは見てしまう…仲良さそうな、アンリネットと庭師。
「あぁ…また庭師か…。俺は勝てないのか…。」
窓に強く手をつき、二人を見ていると、エリスが走って来る。
「陛下!……陛下、大変です!」
「どうした?」
「バーバラ様がお倒れに!」
「何!?すぐ行く!」
そう言うと、二人は走ってバーバラの部屋へ向かった。
勢いよくドアを開けると、バーバラは辛そうにベッドに横たわっている。
「何があった?」
主治医に聞くと、意外な返事が返ってくる。
「陛下、バーバラ様はご懐妊でございます。」
「何!?本当か!」
世継ぎが出来たことにマルクスは喜んだ。だが同時にアンリネットの事が頭をよぎる。
(アンリネットは喜ぶだろう。そして益々俺から離れていくだろうな…)
「今は、つわりでお辛いと思いますので、出来るだけ陛下は傍にいてあげて下さい。」
主治医がそう言うと部屋を後にした。
「バーバラ…。」
マルクスがバーバラの頭を撫でる。
「うぷっ…大丈夫です。から、マルクス様はお姉様の所へ。」
「しかし…俺はもう、無理なのかもしれない…。」
「何をおっしゃいます!良いのですか?
お姉様が庭師と逢い引きしても!?」
バーバラは勢いよく起き上がる。
「っ!」
「側室と庭師ですけど、誰にも見られなければわかりませんよ!…うっ…気持ち悪い…。」
「バーバラ様!お体に触ります。」
エリスが背中を摩る。
「だが、アンリネットはお前と、子供に気を使うだろう…俺の想いが重荷になるなら…。」
コンコンとドアのノックの音。
エリスが扉を開けると、アンリネットが立っていた。
「っ!」
「っ!」
マルクスとアンリネットの目が合う。
先に逸らしたのはアンリネット。そしてバーバラの元へ駆け寄る。
「聞いたわ!赤ちゃん、おめでとう。」
「ありがとうございます。お姉様。」
「寝てなくていいの?つわりが酷いと先生に聞いたわ。わからなくて、ごめんね。」
「そんな…謝らないで…。」
バーバラの瞳が潤む。
それを拭うと、わざとらしく額に手を当てた。
「ワタシ、少しネタイです。ので、マルクスサマ、お姉様をツレテ出て行って下さいマセ。」
「あ、お、うん。」
マルクスが動揺しながらも、アンリネットをエスコートをして部屋を出て行った。
「…それでは私はこれで。」
アンリネットは一礼し、戻ろうとした時…。
マルクスは咄嗟に腕を掴んだ。
「夕食を一緒にしないか?」
「バーバラの傍に居なくて良いのですか?」
「ああ。」
「ですが、バーバラも初めて懐妊で、心細いと思いますよ?」
「ああ。」
「ならお傍に居た方が――」
「皇帝の命令だ…夕食を一緒にしろ!」
アンリネットは目を丸くする。
「承知しました。」
マルクスの言葉を待たず、その場を後にした。
そしてマルクスは膝から崩れた。
「違う。こんな事言うつもりじゃなかった…。」
つづく。




