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処刑された側室は、もう皇帝を愛さない。  作者: 白 月虹


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20話 縮まる距離

そして翌日。

ヘレーネが修道院へ送られる時が来た。


「ヘレーネ、皇后の勤め、礼を言う。」


マルクスがヘレーネの背中に言う。

まだ二日しか経ってないのに、ヘレーネの背中は丸く、皇后の威厳も消えていた。


顔だけ振り返ると、マルクスの両隣にはバーバラとアンリネットが視界に入る。


「哀れんでいるの?それとも勝ち誇っているの?」


「この期に及んで――」


マルクスが最後まで言うのを、アンリネットが前に出て制した。


「ええ。両方とも。」


そう答えるアンリネットは、ヘレーネの目には戦友のように映っていた。


「せいぜい悪足掻きしなさい。悪役らしく。」


ヘレーネは小さく笑う。


アンリネットは答えない代わりに、深く一礼をした。

その一礼に、過去への決別と、前へ進む覚悟のすべてを込めて。


数日は、平和な日々が続いていた。

はずだった…。

しかし、今のアンリネットはドキドキのし過ぎで、心臓が持ちそうもなかった。


――一時間ほど前。

アンリネットの部屋をマルクスが訪ねて来た。


「すまない。探し物をしている。」


「どういったものでしょう?」


リリーが対応する。

奥で座ってソワソワしてるアンリネットが気になるのか、リリーに耳打ちをする。


「アンリネットから貰った…私が書いた、手紙の返事なんだ。」


「まぁ!」


驚きとニヤリ感が同時に押し寄せるリリー。


「私は見てないので、アンリネット様にお聞きになられたほうが…。」


そう言いながら、マルクスを部屋へ通す。


「あぁ、でも、なんか恥ずいのだが…。」


少し顔を赤らめたマルクスが入ってくると、リリーは外へ出ながらドアを閉めた。


「え?リリー!?」


アンリネットは思わず立ち上がるが、遅かった…。

少し沈黙の後、マルクスが先に口を開く。


「この前、私がここで寝た時から、上着のポケットに入ってた物が無くなっていて…知らないか?」


(手紙の事よね…あんな物…でも正直に言わないと、処刑回避にならないかもしれない…でも言ったら言ったで、盗んだと言って処刑よね!?どっちにしても怒らせるわ…どうしよう…。)


目まぐるしく表情が変わるアンリネットを見ていたマルクスが、クスクスと笑う。


「っ!?」


目を丸くするアンリネット。


「あ、すまない。君の…アンリネットの顔がコロコロ変わるのが面白くて…。」


(名前……呼ばれた。)


面と向かって呼ばれた名前…アンリネットの顔が赤くなる。


「今度は赤くなった。」


マルクスは優しい笑顔を向ける。


「申し訳、ございません。」


そう言うと顔を背けた。


「咎めている訳ではない。」


そう言うと、マルクスはアンリネットの頬に手を添えた。


「……手紙も、知っていたら教えてくれないか?」


手紙…と言う言葉に、もう隠せないと悟ったアンリネットは、固まったまま引き出しの方へ歩いて行った。


「こちら、です。」


そう言うと、アンリネットの書いた手紙をマルクスへ差し出す。


「ありがとう。大切な物なんだ。」


「え…?」


また目を丸くするアンリネットを、マルクスはクスクスと笑っていると、後ろの引き出しの中に目が止まる。


「…これは。」


マルクスが手に取る。

それはマルクスが送った手紙だった。


「あ!いや、これは…へ、陛下からの手紙を捨てては、いけないかと思いましてですね…。」


「そうか…では捨てないで欲しい。」


「ひえぁい!?」


思い掛け無い言葉をかけられ、アンリネットは変な返事をしてまうのに、マルクスの眼差しずっと温かかった。


――そして、その眼差しにアンリネットはずっとドキドキしていた。


「…ポプリの、作り方を教えて欲しい。」


マルクスは手紙を引き出しに戻しながら言う。


(あれ、本気だったの?…)

「乾燥させるのに、時間がかかるので、多忙の陛下にご無理をさせてしまいます。」


断られると、いつもなら引き下がるマルクスだったが、今回は違った。


「それでも良い。何日でも何ヶ月でも、アンリネットと一緒に作りたい。」


またドキリとするアンリネット。


「…わかりました。この前の乾燥させたバラの花びらがあるので、それを、使いましょう。」


「わかった。何をすればいい?」


「今日はちょっと!用意する物があるので、また後日お願いします。」

(もう、心臓がもたないです!)


「そうか…足りない物があれば執事長に言ってくれ。」


そう言って部屋から出ていくマルクスの背中は、機嫌が良いのが伺えた。


(はぁ〜。待って!私と居たいって事?いやいやそんなはずないわ。でも良い印象…処刑回避成功なのでは!?)


アンリネットは喜びでクルクルとまわって、ベッドにポスっと寝転ぶ。


「いや待って、ダメよ。前の人生の処刑の日まで、何が起こるかわからないわ!警戒は怠ってはいけないわね。」


自問自答するは、誰に聞かれる事もなかった。


つづく。

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