18話 ヘレーネの最後
――そして二日後。
一番奥の大きな椅子にマルクスが座る会議室に、みんなが集まっていた。
数人いる貴族院たちには予め説明をしていた。
そこへ、何も知らないヘレーネが入って来る。
「急に呼ばれて…今日は何の会議かしら?」
「ヘレーネ…犯人がわかったよ。」
「それは良かったですわ!私もまた狙われるじゃないかと、気が気じゃなくて…。」
演技じみたヘレーネに、大きくため息をつくとマルクスは続けた。
「君の侍女と、その協力者の通称ジャッカルと言う男が自供したよ。」
「…はっ。陛下ともあろうお方がそんな輩の話を鵜呑みにするのですか?」
「…君は、ジャッカルに小切手を渡しているね?報酬として。」
「え?…知りませんわ。」
否定するのは予想通りだったマルクス。
懐から、スっと紙を出した。
「これを見てくれ。」
「っ!」
それは皇后が管理していて、皇后しか扱えない小切手。
ヘレーネの直筆なのも、調べがついている。
「なんでここに…。」
「なんでここに。と言ったね?」
「違うわ!それは…侍女が盗んだのよ!」
ヘレーネは声を荒らげる。
執事長の後ろに縛られて座っている侍女の顔が歪む。
「ヘレーネ、この小切手は皇后が管理する物。私さえ保管場所を知らないのに、侍女が知っているとなると、君の管理不足になり、立派な重大な処罰対象だよ?」
その言葉に、ヘレーネはぐっと喉を詰まらせた。
「…。」
「この小切手は、ジャッカルが使わず持っていたんだ。」
視線をジャッカルに向けると、頷き口を開いた。
「使おうとしたら…俺の身なりを見るなり、換金所のやつは偽物じゃないかと疑ってきました。頼まれた物だと言ってみたけど、お金に替えられなくて…。」
「その後どうしたのだい?」
ゼノスが問う。
「侍女に文句を言おうと思って、持っていて、そしたら…
『ごめんなさい。そんな事知らなくて…報酬は少しづつでも私が払います!』
て、言われて…皇后の侍女なのに、苦労してんだな。と思って。」
その後数回会い、話してる内に惹かれていった事、小切手は侍女が何かあった時の為に取っておいたと…話した。
「ヘレーネ…君が罪を認めれば――」
「認めないわ!何も知らない!」
わなわなと震える出すヘレーネ。
後ろに居た別の侍女が、口を開いた。
「少し、よろしいですか?」
「…言ってみろ。」
マルクスに目配せをしたゼノスが言う。
「ヘレーネ様が……アンリネット様の部屋から出てきた小瓶の中身を飲むのを見ました。」
一同が驚く。
次の瞬間――バチン!
「貴方!よくも…。」
頬を押さえながら、床に倒れ込む侍女。
「私も!…あの子も!
ヘレーネ様に脅されてます。私は父の窃盗を揉み消すために。あの子は失踪した母親を探してもらうために。」
「っ!お黙りなさい!」
ヘレーネの顔が怒りで赤くなっていく。
「あの殺された侍女だって!」
ヘレーネが掴みかかろうとすると、衛兵が取り押さえる。
「離しなさい!私に触って良いのは陛下だけよ!」
肩で息をするヘレーネの前に、マルクスは歩み出る。
「マルクス……。そう、そうよ。あの女が悪いのよ!」
「あの女?」
「全部、アンリネットが私を陥れたのよ!」
「黙れ!」
マルクスは低く唸る。
「何よ…あんなに嫌ってたくせに…。」
「証言も証拠も揃っている。それでもまだ罪を認めぬのか。」
「私は悪くない!」
ヘレーネは強く言う。
「皇后ヘレーネ!そなたは廃位のち、私と離縁する。その後最北端の修道院へ護送する。」
「なんで、すって…。
離縁?…離縁…どうして?マルクス…私、貴方を愛してるのに…」
膝から崩れるヘレーネ。
「私も、愛していた。」
「嘘よ!」
言葉には怒りが含まれていたが、目には涙を浮かべながら、言った。
「…側室を迎えて。すまない…。」
「…私は皇后よ。世継ぎを産むのが責務なの。それを…一度拒んだだけで…。」
「でも夜の営みが嫌だったのだろう?」
ヘレーネの事を思い、マルクスは小さな声で話す。だが、ヘレーネには、それが勘に触ったのか、声を張り上げて言い放つ。
「貴方、絶倫なのよ!バーバラは平民だから体力があるだろうけど、私は元は公爵令嬢…そんな付き合えないわ!」
「なっ!」
マルクスは目を丸くする。
会議室が、水を打ったように静まり返る。
執事長は思わず咳払いをし、ゼノスは額を押さえていた。
「…ヘレーネを連れて行け。」
マルクスが衛兵に指示をする。
重い扉が閉まる音だけが、静まり返った会議室に響いた。
「終わった、のか…。」
マルクスが呟く。
ヘレーネとの長い年月に終止符を打ったが、気持ちは晴れない。
それでも頭に浮かんだのは――アンリネット。
マルクスは足早に会議室を後にした。
つづく。




