16話 綻び始めた嘘
犯人探しは難航していた。
毒の成分もわかったし、闇市で売られていた物なのもわかっていた。だが、【誰が、いつ】と言うのは突き止められずにいた。
そんなある日、面会を許されていたバーバラがアンリネットの部屋で、談笑していた。
「――新しい庭師さん、凄いですね!一人で手入れして!私もお手伝いしてるけど、邪魔じゃないかと恐縮してます。」
バーバラは毎日、庭師の手伝いをしていた。
「ありがとう。」
「良いんです!私も平民だった時は、畑仕事してましたし。」
バーバラが得げに話すと、アンリネットが優しく微笑んだ。
すると、ふと何かを思い出す。
「そう言えば…前の庭師さんが、黒づくめの男を見た事があるって言ってたわよね?」
リリーに聞くと、大きく頷く。
「そう言えば!バーバラ様の侍女が亡くなった時の…怪しいですね。」
「どう言う事ですか?」
バーバラとエリスは顔を見合せた。
アンリネットは簡潔に話すと、バーバラが立ち上がる。
「マルクス様に、報告しましょう!」
「でも…その男が何かしたと言う証拠が無いわ…。」
「それでも…何か突破口になれば…。」
四人で話し合った結果、バーバラが内密にマルクスへ報告することになった。
そして次の日、話を聞いたマルクスが動く。
数日間をマルクスと自室で過ごしていたヘレーネは、やはり自分の事を、一番愛している。のだと思っていた。
夕食をとりながら、マルクスが口火を切る。
「ヘレーネ…実は最近、この宮に男が出入りしている。と言う報告があってね…。」
「待って!私じゃないわ!」
「まだヘレーネだとは言ってないよ?」
「……。」
「何か知っているなら教えて欲しい。
俺たちは夫婦なのだから。」
少し演技がかったマルクスは、ヘレーネの手を優しく包んだ。
「…侍女よ。そう、侍女と会ってるのではないかしら?」
「そうか。調べてみよう…。話してくれて、ありがとう。」
ニコリとするマルクス。
その偽物の笑顔を見抜けない程、二人の心はすでに離れていた…ヘレーネが嬉しそうに顔を赤らめているのを見て、マルクスの心には嫌悪感で広がっていた。
夕食を片付けのため、執事長とヘレーネの侍女たちが入ってくる。
すると、執事長がマルクスの手にこっそりと、紙を握らせた。
マルクスはそれがなんなのか予想出来ていた。
(…これは!)
一瞬で機嫌が良くなる。
危うく笑みがこぼれそうになり、慌てて咳払いをした。
夜更けになり、ヘレーネの寝息を確認すると、執事長から預かった手紙をゆっくり開いた。
【陛下へ。
お心遣いありがとうございます。
私は大丈夫なので、リリーの為にも調査の方よろしくお願いします。
アンリネット】
字を指でなぞる。
(……リリーの為。か…頼って欲しかったな…。)
そんな事を思った自分に驚いていた。
(俺は…嫌いじゃない。)
頷くと、ヘレーネから少し離れたベッドの上で眠りについた。
翌朝、マルクスは調査をすると言って、毒のお茶事件から初めて、ヘレーネの傍から離れた。それがヘレーネを不安にさせたが、都合も良かった。
「ねぇ、貴方が頼んでいる男って大丈夫なの?マルクスが辿り着いたら、ただじゃ済まされないわよ?」
「大丈夫です。お金さえ払えば、何でもするし、口外もしないはずです。」
「…そう。なら良いけど…。」
そんな浅い考えは、通用しなかった。
マルクスは皇帝だ。帝都の裏事情にも精通している。皇后の侍女がお忍びで人を雇うとなると、闇市にある酒場か人買しかない。
毒も闇市で購入された事がわかっていたのだから、目星は付いていた。
マルクスが、ヘレーネの部屋へ足を運ばなくなってから二日経った昼食時…。
「最近マルクスが部屋に来ないわ!」
部屋の中をウロウロするヘレーネ。
身体はすっかり回復していた。だが、元気になったと知られれば、マルクスが自分から離れていく気がして、ヘレーネは弱々しい姿を演じ続けていた。
そして昼食を運びに、ドアが開く。
ワゴンを押す者の後ろに、少し冷めた眼差しのマルクスが立っていた。
「…マルクス!」
「元気になって良かった。」
「そ、そんな事わ。まだ辛いのよ…。」
わざと咳をするが、マルクスの気を引くどころが、引いていく一方だった。
「マルクス!私は被害者よ?なんで、そんな…冷たい目を…。」
カタカタと震える。
(もしかしてバレたの?いえ、大丈夫よ。ここはとりあえず良くはなってきた事にして…。)
「そうか、被害者か…。」
マルクスがそう言いながら、ソファへ座る。
「え、えぇ。少しは良くなったけど……」
「あの毒は遅効性で、毒性も弱い。
本当はとっくに良くなってるはずだよ?」
「そうなんですの?いやですわ…」
口調は優しいのに視線が冷たいの事が、ヘレーネの不安を掻き立てた。
「そんな事より、昼食を…マルクスもご一緒するでしょ?」
ぎこちなく微笑むと、侍女たちに目配せをした。侍女たちがヘレーネとマルクスの前に昼食を並べ始める。
「通称ジャッカル」
マルクスがポツリと言うと、一人の侍女が『ガシャン』とお皿を落とす。
コロコロと転がるパンを、お城で働くマルクスの側近ゼノスが拾った。
「おやおや、こんな粗相…皇后様の侍女に有るまじき行為ですね。それに手が震えているようですけど、大丈夫かな?」
「…あ、あの…申し訳、ございません。」
顔は青ざめてるいく。
「まあ!本当ね。その侍女はクビにいたしましょう。」
ジャッカルと言う名前は知らないけど、侍女の態度で悟ったヘレーネは早口で告げる。
「そんなっ!」
侍女は信じられないという様子で、ヘレーネを見続けた。
つづく。




