11話 真相
コツコツと音が響く地下。
「っ!アンリネット様…。」
庭師が先に気づいた。
「……。
バーバラに指示された。と、聞いて…本当なの?」
アンリネットはしゃがむと、なんの前触れもなく聞いた。
「……陛下に話した事が全てです。」
「私の目を見て、同じ事が言えますか?」
少し涙で潤む瞳は、庭師を捉えていた。
「…アンリネット様。」
少し間だけど、二人はバラを通して育んだ時間がある。庭師は、アンリネットが悪役側室じゃない事はわかっていた。
むしろ好意を抱いていた。
しばらく沈黙する。
「アンリネット様だけに…。」
庭師もまた、瞳に潤む。
「っ!」
アンリネットは衛兵を下がらせると、リリーだけは。と二人で庭師の話に耳を傾けた。
「…本当は、皇后様に…皇后陛下に頼まれました。」
「…ヘレーネ様…。」
アンリネットは目を伏せた。
やはり――心のどこがで予想していた名前だった。
「自分の母が病気でして…その治療費を皇后陛下が出す代わりに、バラ園を壊せと…。」
「お母様は、そんなに悪いの?」
「はい…手術をしないといけないけど、空きがなくて…それまでは投薬治療なのです。」
「その費用を?」
「はい。」
「それで、何故バーバラに?」
アンリネットは身を乗り出して聞いた。
「…アンリネット様を、孤立させたかったようです。」
「…なるほどね。」
(そうすれば、私がまた悪態つくとでも思ったのかしら。)
「それと…これは誰にも言ってないのですが…。」
庭師は小さい声で話し始める。
「ヨットでバーバラ様を襲った侍女が、地下牢で亡くなった前日の夜…自分が温室から出ると…見たんです。この地下牢に続くドアから、黒ずくめの、多分男が出てくる所を…。」
「なんですって!?」
(この証言があれば!)
アンリネットとリリーは顔を見合わせる。
「何故、陛下に言わないの!?」
「犯人が誰かわからないですし、証言したら、殺されるのではと…。でも今回の事で、もしかしたらヨットの時も――」
「ダメよ!名前は出しちゃ。それが本当でも、庭師の貴方が言ってはダメ。」
「アンリネット様…。」
アンリネットは立ち上がると、リリーにマルクスを呼んで来るよう指示を出した。
しばらくすると、マルクスは衛兵を連れて現れる。
「…陛下。私と庭師の事を信じてくださいますか?」
真剣な眼差しに、マルクスは頷く。
アンリネットは庭師から聞いた事を、全て話した。
「それと、庭師さんのお母様と、庭師さんご自身の身の安全をお約束していただきたいのです。」
「…そこまでする義理があるのか?」
冷たい視線がアンリネットを射抜く。
「っ!」
少し距離が縮まったと思ったアンリネットは、それが間違いだと思うと、胸が重く、苦しくなったが、それでも自分を奮い立たせた。
「そもそも、誰も傷付いていません。バラは…残念でしたけど、また植えたら良いのです…。」
(お前が傷付いたではないか…。)
マルクスは思った言葉を飲み込んだ。
しばらく考えたマルクスが口を開いた。
「…わかった。」
庭師が目を見開く。
「それと、私の主治医に診せよう。」
「そんな!申し訳ないです!」
「だが終わったら、田舎へ戻れ。
二度と帝都へ来るな。良いな。」
「…はい。」
庭師は頭を垂れたまま、返事をした。
「ありがとうございます!」
アンリネットは嬉しそうに言うと、マルクスはその笑顔にモヤモヤとしていた。
(……そんなに嬉しいのか。)
すぐに庭師は釈放され、アンリネットは見送るため、門まで歩いていた。
「本当に申し訳ございませんでした。
丹精込めて育てていたのを、わかっていたのに…。」
「…良いのよ。全部なくなった訳じゃないし…。貴方も辛かったのでしょ?小さいバラは無傷だったもの。」
アンリネットは庭師に優しく問いかけた。
「…それもあります。
もう一つ、アンリネット様をお慕いしてたので…。」
「え!?」
アンリネットは驚きと共に顔がどんどん赤くなっていった。
「それでは、自分はこれで…。」
ニコリとお辞儀をして庭師が去っていくのを、アンリネットは固まったまま見送っていた。
その横でリリーが、クスクスと笑っているのにも気付かず…。
庭師が去って行く様子を、廊下からマルクスが見つめていた。
(小さくなるまで見送るとは…そんなに名残惜しいのか?)
イライラしながらも、ヨット事件にバラ園事件…両方にヘレーネが関わっているのは明白。しかし皇后の立場もあり、証拠がない以上問い詰める事も出来ず、マルクスは歯がゆかった。
「ヘレーネ。何故そんなに変わってしまったんだ…。」
マルクスの呟いた言葉は誰にも聞かれることなく、消えていった。
つづく。




