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第二十九話 公開調停の日

 公開調停の日、王都法院の大きな審問室には多くの貴族が集まった。


 通常、婚姻調停は非公開で行われる。だが今回は、持参金設備の転用、幼児の療養環境、親権、放火未遂まで絡み、マリア第一王女の判断で一部公開となった。


 私はヴァイス伯爵家の席に座った。


 隣には兄セドリック。少し離れて、アルノルトとミレーヌ書記官がいる。リュシーは温室館でハンナと留守番だ。今日の場に娘を置くつもりはなかった。


 ギルベルトは反対側の席に座っていた。


 彼の顔色は悪い。だが、逃げずに来た。


 リリアも証人として出廷した。彼女は震えていたが、最後まで席を立たなかった。


 審問は長かった。


 南翼療養室の契約。


 リュシーの診断書。


 北翼客間での発熱記録。


 リリアの所見書が正式な診断書ではなかったこと。


 ボルク家令とオルセーヌ男爵家の書簡。


 火事の指示書。


 そして、リュシー本人の聞き取り記録。


 事実が一つずつ積み上がる。


 相手方の弁護人は、私の感情的不安定を主張しようとした。


「しかし、ノエリア夫人は夫の幼馴染に強い嫉妬を抱き」


 そこでマリア第一王女が静かに口を開いた。


「嫉妬の有無は、幼児の療養環境を奪う正当理由になりますか」


 弁護人は言葉に詰まった。


 次に、冬鈴館が娘を利用した商売だと主張した。


 医師会の代表が証言した。


「冬鈴館は医師会の監督下にあり、療養記録は適正です。むしろ、家庭内で見落とされやすい冷えによる不調を可視化した有益な施設です」


 最後に、ギルベルト本人が立った。


 彼はしばらく沈黙し、それから言った。


「私は、妻と娘を軽んじました」


 審問室が静まった。


「リリアの件について、私は確認を怠りました。娘の療養室の重要性を理解せず、妻の記録を神経質だと決めつけた。家令の不正を見抜けなかった責任もあります」


 彼は私の方を見なかった。


 見れば、言葉が揺れると思ったのかもしれない。


「離縁について、争いません。親権についても、リュシーの療養環境を最優先とする判断に従います。ただし、父としての面会と養育費の支払いは続けたい」


 その発言に、室内がざわめいた。


 私は膝の上で手を重ねた。


 ギルベルトが全面的に争えば、もっと長引いたかもしれない。彼がここで引いたのは、遅すぎるが、父としての最初の仕事だった。


 裁定はその日の夕方に出た。


 ノエリアとギルベルトの離縁を認める。


 リュシーの監護権はノエリアに置く。


 ギルベルトには養育費と療養費の支払い義務を課す。


 面会は医師と監察官の条件に従い、リュシー本人の体調と意思を尊重する。


 南翼療養室の設備はヴァイス家持参金設備と認め、目的外使用分について侯爵家に賠償を命じる。


 ボルク、オルセーヌ男爵、エルミーネ夫人については別途刑事・民事審理へ送る。


 私は裁定を聞き、静かに息を吐いた。


 勝った、とは思わなかった。


 ただ、ようやく部屋の扉が閉まったと思った。


 リュシーを寒い場所へ連れていこうとする扉が。

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