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第二十六話 ぬくもり魔法の本当の名前

 私の魔法を調べたいという申し出は、王宮魔術院から届いた。


 最初は断ろうと思った。研究対象として扱われるのは好きではないし、リュシーとの生活を乱されたくない。


 だが、マリア第一王女からの書状にはこうあった。


『あなたの魔法の価値が正式に認められれば、療養環境の必要性も強く証明できます。無理にとは言いません。ただ、軽んじられてきた力に名前を与えることは、あなた自身を守ることにもなります』


 名前を与える。


 その言葉に、私は応じることにした。


 魔術院から来たのは、年配の女性魔術師だった。マダム・クラリスと名乗った彼女は、壁一面に飾られた杖の棚を背負っているような雰囲気の人だった。小柄だが、内側に深い魔力を抱えているのが分かる。


「あなたの魔法は、ぬくもり魔法などという俗称で呼ぶには惜しいものです」


 彼女は検査を終えるなり言った。


「熱を作るのではなく、熱の移動と保持を調律している。しかも対象が人、布、石、空気と広い。これは環境調律系の魔法です」


「環境調律」


「古い分類では《温域調律》とも呼びます。失われかけた家庭魔法の一種ですね」


「家庭魔法、ですか」


 マダム・クラリスは鼻を鳴らした。


「家庭という言葉を軽く見てはいけません。赤子を死なせず、病人を眠らせ、老人の関節を守り、食材を腐らせない。戦場の火球より、人を長く生かす魔法です」


 私は何も言えなかった。


 湯たんぽ魔法と笑われた力。


 地味だと、役に立つが誇れないと、自分でもどこかで思っていた力。


 それに、正式な名前があった。


「ノエリア様」


 マダム・クラリスは真剣な目で言った。


「あなたの魔法は素晴らしいものです。派手ではない。けれど、派手でないからこそ、多くの場所で使える」


 その言葉を聞いた時、胸の奥に長く積もっていた雪が溶けた気がした。


 検査結果は、法院にも提出された。


 南翼療養室がリュシーに適していた理由。


 ノエリアの魔法が環境維持に不可欠だったこと。


 母親の記録が神経質な執着ではなく、医療的に意味のある管理だったこと。


 それらが、魔術院の公式文書として認められた。


 リュシーは難しいことは分からないが、私が嬉しそうにしているのは分かったらしい。


「おかあさま、すごい?」


「少し、すごいみたい」


「いっぱい、すごい」


「ありがとう」


 娘は私の手を握った。


「おかあさまのぽかぽか、リュシー、すき」


 どんな称号より、その言葉が嬉しかった。

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