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第二十五話 リュシーが選んだ言葉

 リュシー本人の意見を聞くかどうかについて、法院内でも議論があった。


 四歳の幼児に親権の判断を負わせるべきではない。それは私も同意する。だが、療養環境について本人が何を感じているかを無視するべきでもない。


 最終的に、医師と書記官の同席のもと、ごく短時間の聞き取りが行われることになった。


 場所は冬鈴館の小部屋。


 リュシーが普段使っている椅子と机が置かれ、窓辺には冬鈴草の鉢がある。相手はミレーヌ書記官と女性医師だけ。私は隣室で待つことになった。


「おかあさま、いない?」


「隣にいるわ。扉の向こう」


「アルさまは?」


「廊下にいる」


「ハンナは?」


「お茶を用意しているわ」


 リュシーは一つずつ確認し、頷いた。


「じゃあ、できる」


 扉が閉まる。


 私は隣室の椅子に座った。手の中には、リュシーが貸してくれた布兎の小さなリボンがある。お守りだと言って渡された。


 聞き取りの声は、はっきりとは聞こえない。


 それでも、時々リュシーの声がする。


「さむいの、いや」


「おかあさま、ぎゅってする」


「おとうさま、て、みなかった」


 その一言で、胸が締めつけられた。


 リュシーは覚えている。


 あの朝、父が自分の手を見なかったことを。


 やがて扉が開き、ミレーヌ書記官が出てきた。表情はいつも通り落ち着いていたが、目元が少し柔らかい。


「終わりました。よく答えてくださいました」


 私は中へ入った。


 リュシーは椅子に座り、布兎を抱いていた。私を見ると、少しだけ口をへの字にして、それでも泣かなかった。


「おかあさま」


「頑張ったわね」


「リュシー、いやって、いった」


「そう」


「おとうさまのおうち、さむいおへや、いやって。おかあさまと、ここ、いるって」


「上手に言えたわ」


 私は娘を抱きしめた。


 小さな体が、ほっとしたように力を抜く。


 その日の記録には、ミレーヌ書記官の字でこう書かれた。


『リュシー・レーヴェルトは、父方屋敷に対して寒冷環境への不安を示し、母の同席と現療養環境の継続を希望した。回答は年齢相応であり、特定語句の反復誘導は認められない』


 それは、リュシーが自分で選んだ言葉だった。


 私はその写しを読み、静かに泣いた。


 娘にこんな言葉を言わせたかったわけではない。


 だが、言えたことは守りたい。


 嫌だと言う声は、わがままではない。


 生きるための声だ。

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