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Reversal ―主人公がヴィランになるまで―  作者:
第1章 転落

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第2話 後編 ①盲


「よろしくお願いいたします!」


「よろしくね。そんな堅苦しくならなくても大丈夫だよ。」


俺とリタは気持ちが伝わるよう深い挨拶をした。


「と言ってもここでの仕事じゃないんだ…着いて来ておくれ。」


そうだ、俺達はこの婦人の代わりにゴミ処理をする依頼を受けた。

やる気に満ちて現場まで向かう俺とリタを見て婦人は困ったような笑顔をしながら歩いた。

…張り切りすぎたか。


「さぁ、着いた。ここだよ。」


結構な距離を歩き、着いた先は見渡す限りの様々な廃棄物。

何ヶ月貯めればこうなるんだ。

それに、もう少し分別して出そうとは思わないものか。


「ここで二人にはゴミの焼却をお願いしたいんだ。集めたゴミを少しずつでいい。燃やして土に埋めておくれ。」


夕陽が見えたら帰っておいで、パンを用意して待ってるよ。と告げた後、婦人は店に戻って行った。


「よしっ!やるか!」


「まかせてー!」


俺とリタはまず石を集め簡単にだが石囲いを作り、その中に薪を焚べた。

簡易焼却炉の完成だ。

リタは早速、小さな手で抱えたゴミをよたよたと運び、火の前まで来ると誇らしげに胸を張って入れた。

そのゴミが燃える様をしゃがみ込み、煤がつくのも気にならないのか、食い入るように火の揺らめきを見つめていた。


「みて、ルイ!ぼく、ちゃんとできたよ!」


それを飽きずに何度も繰り返し、額に汗を滲ませながら笑うその姿に、思わず笑みがこぼれた。


「___よし、今日のところは終わりにしよう。」


「うん!」


ゴミの山はまだまだあったが、一週間やそこらで終わる量ではないので夕陽が沈みそうな所で終わることにした。

パン屋に戻ると袋を抱えた婦人が待っていた。


「お疲れさん、パンを入れといたから持って帰りな。明日もよろしく頼むよ。」


「ありがとうございます!」


帰り道、大きな袋を抱え自分の働きと俺への賞賛を息をつく間もないほど話しているリタを微笑ましく見ていた。

俺は本当にやって良かったと、今回のことを正しいことだとそう実感した。

所々で少し咳き込んでいるのが気になったが、元気そうにしているのであまり気にしないことにした。

きっと慣れないことを長時間して、疲れたのだろう。


帰った俺達はまた誇らしげにパンを振る舞った。

その頃にはリタも元気になり、マナやリンに今日あった出来事を嬉しそうに報告している。


その姿を見ながら俺は水浴びをしに川へと向かった。

先客のサウールに声をかけ、俺も彼の近くに体を沈めた。


「リタ、少し咳をしていた。」


「そうなんだよ、初日から張り切ってたからなー。少し疲れが出てるんだと思う。今日は早く寝かせることにするよ。」


「…そうだな。」


いつも通りシンプルな言葉だけを交わし、それぞれのタイミングで水浴びを終えた。


皆の元へ帰るとリタはすでにマナの膝の上で寝息を立てていた。

頭を撫でながら優しい視線を向けている。


「お疲れ。」


こちらを見たマナが労いの言葉を掛けてくれる。


「こんなに嬉しそうにしているリタを見たのは久しぶりでさ、本当に今日一日楽しかったんだと思う。」


「そうか、それなら俺も一緒に来てもらった甲斐があったよ。」


互いに遠くを見つめながら言葉を交わす。


「リタがこんなにも皆の役に立ちたいと思っているなんて思わなかった。そう思わせないようにこの子には毎日果物を取ったり仕事を依頼してたのに。きっと本人の中では足りてなかったんだろうな。ずっと一緒にいたのに気付かなかったよ。」


淡々と話しながらもどこか寂しそうな言葉に俺は何も言わずただ聞いていた。


「ありがとう、ルイ。」


「あぁ、俺のほうこそマナ達には感謝してもしきれない。ありがとう。」


星の綺麗な夜空の下、俺達はリタの側で眠った。


翌日以降も俺とリタは仕事に励んだ。

日が沈む頃にはリタの咳は昨日より深くなっていた

婦人は黙って温かいミルクを差し出した。

次の日には蜂蜜入りの温かいものに変わっていた。

リタは嬉しそうに両手でカップを抱えた。

婦人の笑顔は優しかったが、その目だけはどこか落ち着かなかった。


「ぼく、だいじょうぶ!みんなのために頑張りたいんだ!」

咳き込みながらも笑うリタの姿に、胸の奥がざわついた。


その日の仕事を終え、いつものようにパンを受け取って店を出た。袋を持ってパン屋を出ていくとすぐ横の路地裏でどこかで聞いたことのある声がした。そうだ、あの日パン屋で耳にした低い声だ。


「今回は既に3日目か。」


「すげぇじゃねぇか。前のやつなんか2日で駄目だったのに。」


___それは俺達のことなんだろうとなんとなく分かった。いつもの道を歩いていると、リタが少し咳き込んだ。肩を小さく震わせ、片手で口元を押さえている。


「ねぇ、ぼくたち、みんなの役にたててるかなぁ。」


「立ってるさ!実はな…さっきパン屋の路地裏で大人達が話をしているのを聞いたんだ。今回は3日持ってる。すごいってさ。なぁリタ、俺たちはやっぱり正しい事をしてるんだ!」


そっか、と静かながらも明るい声色のリタ。小さく肩を震わせたまま、再び咳が少し込み上げる。心なしか、ルイに見えていない疲労の影がその肩に滲んでいる。


帰るなり、リタはご飯も食べずに寝てしまった。こんな小さい身体で急に慣れない事を毎日するのは大変だよな。寝息を立てるリタを見つめながら、俺はもらったパンを齧っていた。

すると少し距離を置いた所にサウールが腰掛けた。


「仕事、いつまで続けるつもりだ。」


「いつまでって、相手が許す限りずっとだよ。」


「…あの仕事からは手を引いた方が良いかもしれない。」


サウールはそっと静かにそう言った。


「今は辞められない。今日大人達が話しているのを聞いたんだ。3日も続いて凄いって。俺達は確実に認められつつある。ここが正念場なんだ。」


「…確証はないが、大人達の企みを感じる気がする。リタの咳も普通じゃ無い。」


「そんな騙せるような人じゃないぞ、おばさん、リタが咳き込んでたらミルクをくれたんだ。咳は少し気になるけど、慣れないことをしてるしな。疲れが溜まってるんだと思うよ。」


無表情ながらも少し思案顔のサウールに新鮮さを感じながら、俺は揺るぎない視線で返答した。


___翌朝。リタはいつもより少し控えめに朝食を取り、俺と仕事へ向かった。パン屋のドアの音を聞いてすぐ、背後でドサっと大きな音がした。


小さく咳き込みながら、ふと肩が抜けるように重くなるのをルイはまだ気付かない。あぁ、リタの笑顔を見るたびに安心してしまった俺を悔やんでももう遅い。


___そこには前のめりに倒れ込むリタの姿があった。


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