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Reversal ―主人公がヴィランになるまで―  作者:
第1章 転落

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第2話 前編 ②励

「___は?」


「いや、だから今日は俺とリタで考えた仕事をしようと思うんだ。」


マナはどっかの馬鹿でも見るかのような目でこちらを見た。

皆に伝えた内容は、昨日リタと話した通り俺やリタでもできる簡単な仕事をして賃金や食べ物をもらうということだ。


「___は?」


全く同じ間と同じセリフ。

こいつは何を言っているんだと言った表情で見てきたが、俺の隣にいるリタがとても誇らしげに立っているので強く否定できないようだった。


「ぼくがんばるから、がんばってみんなの役に立ちたいんだ。」


「リタは頑張ってるよ。昨日だってあんなに美味しい果物を取ってくれてたじゃないか。」


ラムダもマナと同じ思いのようだが、マナよりも丁寧な言葉で反対の意思を示した。


「それじゃあぼくが嫌なんだ!ぼくだって早くみんなと同じようになりたいんだよ!」


ガディとリンも困った様子で目を見合わせている。

サウールは相変わらずの無表情だが、少し離れたところにいながらもしっかりとこちらには耳を傾けているようだった。


「分かったよ。じゃあリタ、今日は少し違うお仕事を頑張ってきてくれるかな?」


「…うんっ!がんばろうねっ、ルイ!」


「おうっ!」


マナに頭を撫でて励ましてもらったことでより一層やる気に満ちたリタを見て俺も嬉しくなった。



___街に出てきた俺とリタはまず街並みを観察すべく一通り街を見て回った。

所謂下町といった風景が続いている。

家々は少し古びていて皆慎ましく暮らしているのがとって見えた。

心なしか俺たちよりも少しばかり清潔感を足したような人もちらほら見受けられた。


「街ってこんなんだったんだねぇ。」


「リタ、街に来たことないのか?」


「うーん、ここに来るときに通りかかったことはあったよ。でもそれ以来ぼくはずっと森で薪集めとか、きのみや果物をとる仕事ばっかりやってたから。」


マナたちの気持ちが理解できる。

リタに盗みなんてさせたくなかったのだろう。

それは俺も同じ気持ちだ。

だからリタが正しい形で頑張っている姿を皆に見せてやりたい。

そしてリタにも自信を持って欲しい。


ふと足を止めたリタの視線の先には、小さな飲食店があった。窓越しに見える白い器から、湯気がふわりと立ちのぼっている。


「ねぇルイ、あれ何かな。」


「あれ?……グラタン、かな。」


「ぐらたん……。」


じっと見つめたあと、リタが小さく笑った。


「マナが食べたいって言ってた白いものに似てる。いつか来たいなあ。」


「よし、いつか皆で来るぞ!俺たちの仕事の目標はそれだ!」


「うんっ!やくそくだよ!みんなで食べたら、きっとあったかいね。」


リタの笑顔に俺の行動は間違ってなかったと思えた。


ピックアップしたのは3店舗。

魚屋に青果店、それとパン屋だ。

他にも店舗はあったが、お金という形でもらえなかった時に食べものをくれる店の方がありがたいからだ。


俺はリタの手を引きまずは魚屋に声を掛ける。


「あの、すみません…」


魚屋はこちらを一瞬見るなり商品の前にドンっと立ちはだかった。

まるで俺たちを最初から盗人だと決めつけているようだった。

目線はすでに前だけを見ており、こちらのことはまるで見えていないようだった。


それから何度か声掛けをしたが、返事をしてくれる事はなく俺達は次の店へと望みを託すことにした。


続いては青果店。


「すみません、俺たち…」


「金はあるのかい。」


俺たちの身なりを見た側から店主はそう呟いた。


「お金はないんですけど、俺たち、何でもするんでお手伝いさせてください!その見返りとして少し賃金か食べものを貰えないかと。」


「金がないなら帰ってくれ。」


助ける気も、追い払う気もない。

ただ関わりたくないという意思だけがそこにあった。

店主は帽子を深く被り直し再びこちらを見ることは無かった。


最後の頼みの綱であるパン屋へと足を進める。


カランと小さな鐘のついたドアを開けるとそこにはエプロンをしたふくよかな婦人と客?であろう少し品の無い男性が話していた。


俺たちを見たパン屋の婦人は少し驚いた顔をしながらもこちらに寄り屈んでくれた。


「僕たちどうしたの?」


「あの、俺達何でも手伝うんで、その代わり、少し賃金やパンを分けて貰えないかと…。」


2度他店で断られている俺は少し自信なさげにそう伝えた。


「ごめんね。ウチもあまり余裕がないんだよ。」


婦人は申し訳無さそうに視線を下げながらそう言った。

俺達は初めてしっかりと話を聞いてくれた婦人に感謝の意を込めて深く礼をして店を後にした。



「ダメだったねぇ。」


しょんぼりしたリタを連れ俺は帰路を辿っている。

あの後俺達は食べもの以外を取り扱う店も何軒か回ってみたが、結果はどこも同じだった。


「仕方ないさ、最初から上手くいくんなら俺達もう少しマシな生活をしてるさ。明日もう一度頑張ってみよう。」


「そうだね。」


励ましの言葉に手応えのなさを感じつつも、握っている暖かさを何とか幸せにしたいと願い、明日の俺に託すことにした。


___しかし、翌日も結果は同じだった。


夕食を囲む際にマナのほれ見たことか、といった顔にムッとしつつも見るからに落ち込んでいくリタを前に俺は明日で何か変わらなければ、成果が出るまではリタに隠れて行動しようと決意した。


そして決戦の三日目。


俺は街に出るなり片っ端から声を掛けた。

店だろうが、農家だろうが構わず全て。


だがやはりそう上手くはいかなかった。

街を歩く身なりの汚い俺達には近寄ろうとしない人が殆どだった。


俺は流石に落胆を隠せず逆にリタに励まされながら帰るべく街を歩いていた。


「僕たちまだ頑張ってるのかい?」


声のした方を見ると、先日唯一話を聞いてくれたパン屋の婦人が立っていた。


「ウチ今月街のゴミ処理の当番になっちまってねぇ、僕たちその仕事を担ってくれないか?」


お礼は店のパンしか出せないけど…と少し遠慮がちに付け加える婦人。

たくさん歩いて疲れきっていた足のことも忘れ、俺はここに来て一番の声を出した。


「…っありがとうございますっ!!!」


…これだ。

努力は必ず報われるんだ。

俺はじんわり熱くなる目頭を必死で我慢しながらリタの方を見た。

リタの大きな目からは既にポロポロと涙が溢れ出していた。

そうだろう、嬉しいだろう。俺もだ。

泣きながら笑うリタを抱擁しながら、俺は婦人に深くお辞儀をした。



大きな袋を持ちルンルンで歩くリタ。

婦人が明日から頑張ってねと、廃棄する予定だったパンを袋に詰めて渡してくれた。

お礼を告げ持ち帰ろうとする俺に「ぼくが持ちたい!」と鼻息荒く肩を上げるリタに、その大きな袋を預けたのだった。


「___ウソだろ。」


マナのあり得ないという表情を見て俺はしてやったりと思った。

周りの皆も驚きを隠せないでいる。

目の前に広がるパンの数々。

普段は有り付けないようなベーコンの入ったパンまであるんだぞ。


「さぁみんな、食べよう。」


誇らしげな俺と嬉しそうなリタが手を広げると皆恐る恐る手を伸ばす。


「…美味しい。」


リンがほっこりとそう呟いたのを皮切りに、皆次々とたくさんあったパンを平らげる。

俺とリタは目を合わせてにっこりと微笑んだ。


「ごちそうさま、ルイ。」


夕食が終わりゆっくりしているとラムダが側に腰掛けた。


「まさかあんなにたくさんのパンを持ち帰って来るなんて。どうやって手に入れたの?」


「難しいことはしていないさ。ただ俺たちにも手伝える仕事がないか街で聞いて回っただけだよ。そうしたらたまたまパン屋のおばさんが受け入れてくれたんだ。」


そんな事もあるんだ…と顎に手を当てて独り言を呟いている。


「なんて店?」


少し離れたところからサウールが問いかけた。


「ブランシェって店だ。」


ふうんと店名だけ聞き彼との会話は終了。

本当に無口だな。


「リタ、明日から頑張ろうな!」


俺は隣で砂遊びをしていたリタへと声を掛ける。


「うん!明日からぼくもみんなの役に立てるね」


明るい声色を聞き、寝床へとリタと向かうことにした。

このまま働きを認めてもらって、皆で街の仕事をできるようになりたい。

星空の下、俺はそう願った。


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