第2話 前編 ①起
帰り道、俺は何も言わず前を歩くマナを見つめていた。
少し考えればわかることだった。
昨日皆で分け合ったたった一つのパン、ボロボロの家屋とも呼べない住処。
この生活が簡単なわけがない。
先程のマナの表情が頭からこびりついて離れない。
俺は自分のめでたい頭に心底後悔した。
俺がちゃんと彼女達を見ていなかったから傷つけた。
俺の常識を疑わない心が彼女を傷つけた。
ただ俺は彼女達に恩返しがしたかっただけだった。
「マナ。」
「何。」
前を歩くマナは歩みを止めず進む先から視線を外すことなく答えた。
「ごめん。俺が浅はかだった。」
「別に気にしてないよ。ルイだって昨日から混乱してる中でよく着いて来れたよ。」
…なんて言葉を選ぶんだ。
俺は彼女の純粋さ、優しさに胸が張り裂けそうになった。
この世界の神は何を見ているんだよ。
そこから俺達は一言も交わす事なく一定の距離で帰路へとついた___。
「おかえり!マナ、ルイ!」
「ただいま、リタ。」
俺達の到着を満面の笑みで迎えてくれたリタをマナは優しく抱きしめた。
「今日ね、リンとキノコと果物を取りに行ったんだ!たくさんは取れなかったけどぼく、頑張ったよ!」
リタの小さな手にいっぱいの成果を見てマナは自然と口角を上げる。
「すごいじゃないかリタ。今日はご馳走だな!」
満足げなリタの頭を撫でているマナをじっと見つめる。
目の前には笑っている彼女がいるのに先程の歪な表情がなぜか重なった。
仲間の前でのこの笑顔の裏にはどんな苦悩があるんだろう。
俺は彼女のためにどんなことができるのだろう。
「なんだよルイ、お前まさかマナに惚れたのか?」
背後から囁かれ俺は驚いて振り返った。
ニヤリとコチラを見ているガディと目が合う。
「何言ってんだよ、出会ったばかりの女の子だぞ。」
「一目惚れだってあるだろうよ。運命ってのはいつ訪れるか分かんねぇぞ?」
クラスメイトとの会話のような雰囲気に俺の張り詰めていた心が少し穏やかになった。
「楽しそうな話をしてるね。」
ラムダとサウールも興味を持ってくれたのか近寄ってきた。
「聞いてくれよラムダ、こいつさっきからずっとマナのこと見てんの。絶対気があるぞ。」
「好きだねぇ、ガディはそう言う話が。」
上品に笑うラムダと無表情のサウールに目線を向ける。
サウール、お前男前だったんだな。
切れ長の目にスッと通った鼻筋。
無口なイケメンなんてずるいと俺は心の中でハンカチを噛み締めた。
「男どもはバカな話してないで飯にするよ。」
マナが手を叩きながら号令をかけた。
今日の夕食は豪華だ。
マナが取ってきた肉、ガディの魚、リンとリタが集めてくれたキノコと果物、ラムダとサウールのパンなんて一人一つもある。
いただきます。と丁寧に挨拶をした後に皆今日初めての食事に目を輝かせながら味わう。
「んー、肉うめぇ!あそこの店主隙がほとんどないのによくやったな。ありがとな、マナとルイ。」
「ほんとだよ!美味しい。マナ、ルイありがとっ!」
「分かったから焦らないでゆっくり食べる。喉に詰まるよ。」
ガディとリタがコチラに向かってお礼を言ったことに対しマナは心配そうな顔で返答した。
何もできなかった俺は笑いながらそっと視線を落とした。
俺は何もしていない。今日だって皆に助けられている。
幸せそうに頬張る皆を見て俺の心は一層引き締まった。
彼女達のために俺は何ができるんだろう___。
食事の時間が終わるとそれぞれ水浴びをしたり横になったりと自由な時間を過ごした。
俺は少し離れたところに腰を下ろしていた。
昨日からの出来事に俺はまだ着いていけておらず皆には迷惑をかけっぱなしだ。
それにこの生活。
おそらく時代がかなり遡ったとはいえ、彼女達がこんな生活をしていること自体問題なのにそれを自然と受け入れている。
現代であれば最低限の生活は保障されると言うのに。
孤児院や炊き出しとかはないのか?
「お肉ごちそうさま。美味しかったよ、ルイ。」
思考に更けていた俺の横に体をピトッと引っ付けながら座ったリタ。
「俺のほうこそキノコに果物ありがとうな。美味かったよ。」
「ルイが喜んでくれて良かった!」
暖かい笑顔を向けてくれ俺まで幸せになる。
「でもな、今日肉を取ってくれたのはマナなんだ。俺は陰から見ることしかできなかった。何の役にも立たなかったんだ。」
「そんな事ないよ。マナはルイを信じていたからこそ連れて行ったんだと思うよ。」
「そっか。だとしたらその思いに報いないとな。」
「ぼくも頑張るね。」
どこまでも謙虚な少年だ。
こんなに幼いのだからまだ守られていて当然なのに。
「ところで思ったんだけど、もっと生活を良くできないのか?孤児院に行ったりとか…。」
「孤児院…は無理だと思うよ。」
困った顔で笑うリタ。
「そうなのか。じゃあ他に仕事ってないのか?俺たちでもお金を稼げるような。毎日のご飯に困らないように、自分たちで買い物ができるように街で仕事をもらうんだ。」
掃除とか…。と呟いた俺をリタは輝かしい目で見ていた。
「え、ぼくたちでもお金をもらえるの?」
「仕事が貰えるのか分からないけど…、できることがあればお金だったり食べ物をもらえたりすると思う。」
輝かしい目はじっとこちらを見つめている…。
「っっすっごいよ、ルイ!そんなことを思いつくなんて!ぼく考えもしなかったよ!」
確かにねー!と感心するリタ。
「え、探したことないのか?」
「うん!ない!やりたい!ぼくやりたいよそれ!」
肩を上げて張り切るリタを見て俺も何だかその気になってきた。
「よし!じゃあ明日は二人で街に出かけよう!」
「うんっ!」
俺とリタはワクワクしながら明日の作戦を考えた後寝床についた。




