第1話 ②愕
___翌朝俺は、ルイだった。
そりゃそうかと思いつつ、これは夢じゃないと何度目かの現実に愕然とする。
いや、でも今日は昨日の恩返しをするんだ。
これで、ルイでよかった。
「おはよう。」
そう挨拶をする俺に皆にこやかな笑顔と爽やかな言葉を返してくれた。
昨日俺を一掃してくれた川で顔をすすいだ。
「マナ、今日の仕事は俺も一緒に行ったら迷惑かな?昨日の恩返しがしたいんだ。」
「ルイあたし達の仕事なんて出来るの?」
「やってみないと分からないけど、大体のことはこれまでもなんとかしてきたから大丈夫だと思う。」
「ルイ、記憶戻ったの?」
「あ、いや…。気のせいかな。なんかそんな気がするんだ。」
咄嗟に誤魔化してしまった。
説明をしても混乱させてしまうか信じてもらえないだろうと思った。
「何それっ、おかしっ。」
また彼女の笑顔を見た。
昨日と違って明るいところでしっかりとみる彼女は凄く素敵だった。
少し目尻の上がった大きな目。主張しすぎないはずなのにツンと尖った高い鼻。
何よりもリタにも負けないその笑顔。
きっとこんな所にいなければ、もっとちゃんとした服を着ていればクラスの誰もが放っておかないだろう。
「じゃあ行こう。ルイはあたしに着いてきて。みんな、いくよ。」
マナの掛け声に方々に歩き出す。
「仕事ってみんな別々にやるんだな。」
俺は歩きながら尋ねた。
「当たり前じゃん。まとまってたら危険だよ。」
「そうなのか?」
ドッジボールでもするのか?
そんな訳ない事はわかっていたが、どうも輪郭が掴めない。
そういえば肝心なことを聞いていなかった。
「そういや詳しく聞いてなかったけど、マナ達の仕事って具体的に何をするんだ?」
「あれ、大体予想してるもんだと思った。まぁいいや。今からやるからそこに隠れて見てて。」
建物の陰で立ち止まりマナはそう呟く。
言われた通りに俺は目立たないように陰からマナを見守ることにした。
すると丁度後ろを向いた店主のいる肉屋に颯爽と駆けて行き、店前に並べてあった商品を二つ掠め取った。
その後彼女は立ち止まることなく人の間を器用にすり抜けていく。
___何をしているんだ。
いや、確かに違和感はあった。
なぜ彼女は個人でないと危険だと言ったのか。
団体だと目立つから。
なぜ彼女は俺を陰に隠れて見ている様に指示したのか。
俺を連れているとリスクになる上に見本を見せるにはこれしかなかったから。
なぜ彼女達はこんなことをしているのか。
「ルイ。」
背後から聞き慣れた声がした。
少し息を切らしながらいつも通りの彼女。
俺はまるで最初に出会った時かの如く目を見開いていた。
「マナ…何してるんだよ。」
「何って、仕事だけど。今晩の飯の調達だけど。」
いやー、今日はご馳走だ。と自身の成果に満足げな様子に俺は唖然とした。
「いや、だって、それ…お金払ってないよな?」
「当たり前じゃん。あたし達にお金なんてある訳ないじゃん。」
言われてみれば確かにそうだ。
この衣服、住処。お金があるならもう少しマシな生活をしているだろう。
明らかに動揺している俺にマナは初めて怪訝な表情を見せる。
「何…。」
俺の考えていることが分かったんだろう。
何も言わずとも嫌悪という感情が肌にひしひしと伝わってくる。
「綺麗事言おうとしてんなら残念。あたし達が生きていくにはこうするしかないんだよ。」
昨日見たあの笑顔とは一変し、目線を逸らし、眉を下げながら口角だけで平静を保とうとするマナを前に、俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。




