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Reversal ―主人公がヴィランになるまで―  作者:
第1章 転落

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第1話 ①逢

____痛みに怯えながら、瞼を開く。

薄暗い空模様の元俺はゆっくりと体を起こしてみた。

……あれ。痛くない。いや、それどころか、妙に体が軽い。

まるで長年背負っていた何かがすべて消えたような…違う。


軽いのはもっと物理的な意味でだった。


地面までの距離がいつもより近い…と言うかなんで俺裸足なんだ?

手もひと回り近く縮んでいる。


あれ…これ俺だよな?


意識は完全に俺、杉崎 渉だ。

野球部の奴らと、クラスの仲間と過ごした日々もバッチリ覚えている。

楽しかったことも悔しかったことも全て覚えている。

ただ見えるものがおかしい。

自分の姿ももちろん見えている風景も。

西洋の古風な民家が立ち並んでいる。


俺は近くの窓ガラスに近づき自分の姿を確認した。

____俺、ではない。


歳は13歳くらいだろうか。

幼さの残る驚きの表情からは可愛さすら感じる。

ただ身なりはひどく荒れていた。

髪は固まり、肌には汚れがこびり付いている。


何はともあれきっとこれは夢だ。

夢を夢だと認識できる事象を明晰夢というんだっけ。

初めての経験だ!せっかくならば楽しまなければ。


とりあえず俺は街を歩いてみることにした。

風呂に入りたいからだ。

なんなら水浴びでもいい。


夢の中を楽しみながら歩いていると、街行く人々が怪訝な表情でこちらを見ては通り過ぎていく。

そうだよな。

汚なくてすみません。

でもせっかくの夢なんだからそんな顔をしなくても。

俺は何て夢をせっかくの明晰夢に選んだんだ。

いや、その前になぜ俺はこんな格好を選んだんだ。


しばらく歩いて見たけど、風呂や水浴びできそうな場所は見当たらなかったため、申し訳ないと思いつつも人に尋ねてみることにした。


「あの、すみません…


と言った瞬間に衝撃が走った。

ぐえっ、とこれまで人生で一度も出したことのない音が自分から漏れ出るとともに軽く後に吹き飛んだ。

何が起きたか訳がわからないまま前を見るとさっき話しかけた人の靴底が見えている。


咳き込みながらやっと理解する。

俺は蹴られて吹き飛んだのだ。

____なぜ、なぜ俺は蹴られた?

ただ話しかけただけなのに。


「汚ぇ捨て子が近寄ってくんじゃねぇよ。クセェんだよ。」


そう吐き捨てて立ち去った中年男性の背中を呆然と眺めるしかなかった。


汚いから話しかけただけでこんな仕打ちにあうのか…?

子どもが困っているのに?

おかしいだろ、なんだよあいつ。

なんだよこの夢、じゃない?

確かに痛かった。かなり。

蹴られた腹への衝撃も痛みもまだ残っている。


そこで俺は思い出した。

俺はなぜこの姿になった時目を閉じていたのか。

タイヤの擦れる音、眩しいライトの光。


あぁ、俺は死んだ…のか?

だとしてもこの状況はおかしいよな。

この仕打ち何?この姿何?

…俺地獄に落ちた?

そんなわけない。

あんなにもみんなを笑顔にしてきたのに地獄に落ちる理由がない。


「大丈夫?」


訳がわからず呆然と立ち尽くしていると、一人の少女が話しかけてきた。


「きみ、だいぶ汚いね。何日水浴びしてないの?」


クスッと嫌味のない表情で笑う彼女とは反対に俺は何も言えず開きっぱなしの瞳を向けることで精一杯だった。


「おいで、川まで案内してあげる。」


俺と同等か少し小さな手で俺の真っ黒な手を掴むと彼女は足早に進んで行った。

歩きながら行先だけを見ている彼女を観察する。

サイズの全く合っていない擦り切れた衣服。少し絡まった長い髪は雑に纏められている。

俺ほどじゃないが、お世辞にも綺麗とは言えない身なりだ。

そう思っているとふと大きな瞳がこちらに向く。


「あんた、初めて見る顔だ。どこからきたの?名前は?」


…俺は杉崎 渉。日本から…来た?

いいや違う。こんなところには来ていない。


「…ここは、地獄なのか?俺、死んだ?」


その言葉を聞いてすぐ彼女の目は落ちるのではないかという程に開かれた。

その後すぐ彼女の高らかな声が響く。

ケタケタと涙を流しながらこちらを指差し、笑っている。

失礼だな。咄嗟に質問を質問で返したことを申し訳なく思った気持ちを返して欲しい。


「あー、ごめんごめん。久々にこんなに笑ったわ。あんた生きてるじゃん。」


確かに俺じゃないこの少年として俺はここにいる。

地獄に落ちたとしても俺じゃないのはおかしいか。

じゃあ俺は誰なんだ?


「確かに私達みたいなモンからすれば地獄みたいだけどね。あんたやっぱこの辺の子じゃないんだ」


そう言って彼女は上から下まで俺を見渡した。


「で、名前は?」


「わからない。」


クラスの隅で誰かが言っていた。

現世で死んだら違うどこかに転生するアニメがあるらしい。

まるでそんな感じだ。

というかそのまんまだ。

…いや、設定上そう言った場合は結構恵まれているものじゃなかったか?

おかしい、現世で結構徳は積んだはずだ。


「どこから来たかもわからないんだよね?」


「…。」


何も言わない俺を見て悟る彼女。

彼女は再び歩みを進め始めた。


「あたしはマナ。名前がないのは困るから今日からあなたはルイ。」


「ルイ?」


「うん、顔がルイっぽいから。」


ルイっぽい顔ってなんだよ。

と思いながら自分の存在の輪郭を掴めた気がして少し胸が暖かくなった。


「さぁ、着いたよ。」


そう言われたどり着いた場所に目をやると月明かりに照らされた川が見えた。


「綺麗だ。」


思わず出た声にマナはまた笑う。


「ただの川に何それ。変なの。

 私はあっちにいるから、とりあえず入ってきなよ。」


そう言われ早速身に纏っていた端切れを脱ぎ捨て澄み渡る川へと足を進めた。

…気持ちいい。

まるでこの世の全てから解放されたようなそんな気さえした。

固まった髪は少しずつ解けていきやっと自身を取り戻せてきた。


状況を整理しよう。

帰宅中、俺は車に撥ねられた。

そして死んだ。

……で、気づけば転生していた。

凄腕の勇者ではなく捨て子に。


名前は今日からルイ。

川に映る自分を見る限りおそらく13歳頃の少年だ。

これから俺はここで生きる術を見つけていかなければいけない。

過酷だろうが頑張ろうぜ、ルイ。


一通り頭を整理し、体もスッキリさせたところでマナの元へと行く。


「ありがとう。おかげでスッキリしたよ。」


「どういたしまして。困っている時はお互い様。」


それだけ言うとマナは再び歩み始めた。


「行く宛ないんでしょ。着いてきて。」


お礼を告げると俺もマナの背中を追う。

本当に彼女には感謝してもしきれない。

俺も現世ではこんな感じで見られていたんだろうなと捨てきれない現世への未練に思いを馳せた。


ものの数分で辿り着いたその場所に俺は唖然とした。

…いや、少し考えれば分かることだった。

俺は捨て子でマナもおそらく同じだろう。

綺麗な家が待っているはずはなかった。

それにしても雨がかろうじて凌げる程度のただの木の寄せ集めの下に草が敷いてあるだけの場所。

そこに身を寄せ合う子どもが数人。

俺たちに負けず劣らずの身なりながら談笑をしていた様子に胸がちくりと痛んだ。


「あ、おかえり。マナ!」


無邪気にマナの元へ飛び込んだ少年はふとこちらを見た。


「マナ、あの人はだれ?」


「彼はルイ。街で困っていたんだ。多分私たちとおんなじなんだと思う。」


「そっか、ぼくはリタ。よろしくね。」


リタと名乗る少年は、無邪気な笑顔を向けてこちらに手を差し出している。

13歳の俺もかわいいなと思ったが、この子はもっとかわいい。

歳は6つくらいだろうか。

とてもこんな環境にいるとは思えない眩しい少年だ。


「俺はルイ。よろしくな。」


俺は自身の膝を折りリタと目を合わせ、差し出された手を握った。


「他の奴らを紹介するよ。」


握り合った手を解いた後も側を離れないリタの手を再度握り直し、再び立ち上がった。


「左から順番にガディ、ラムダ、リン、サウールだ。

 皆、彼はルイ。街で出会って行き場に困っていたんで連れて来た。仲良くしてくれたら助かる。」


「ルイだ。よろしく。」


リタとの手はそのままに俺は反対の手を差し出した。


「ガディだ。よろしくな。」


俺より少し高い位置か潑剌と指し出された手で強く握り合った。

きっと彼はこの場を明るくする存在なのだろう。


「ラムダです。よろしく。」


この場に最も似合わない雰囲気の少年だ。

歳は俺より少し幼いくらいか。

穴の空いた衣服を見に纏っているというのに漂う品性に頭が追いつかない。


「リンです。よろしく…。」


最も正しい反応を見せてくれた少女。

眉を下げながら見上げたその表情はまるで不審者を見るようだ。

うん、君は一淑女としてとして正しいぞ。

簡単に何処の馬の骨かもわからない奴なんて簡単に信じてはいけない。

というのは冗談できっと人見知りなんだろうな。


「サウール。よろしく。」


目線の合わない少年。

クールという言葉は彼のためにあるとさえ思える。


「さぁ、一通り紹介も終わったところで飯にしよう。」


「やったー!」


マナの掛け声を皮切りに各々食事の準備を始める。

と思ったのも束の間、ものの数秒で終わった。

なぜならみんな座るだけでリンが持ってきたものはコッペパン1つ。

それを手でちぎり7等分にして配る。


「ごめんな、普段はもうちょっとマシなんだけど…。」


申し訳なさそうなマナに俺の方が申し訳なくなる。

本来ならば6等分してもう少し多く食べられたにも関わらずだれ一人その事を気にしていない様子だった。


「いただきます。」


それぞれがしっかりと口に出して食前の挨拶を済ませると一口分のパンはあっさりと皆の口の中に放り込まれた。


「ごちそうさまでした。」


一瞬の食卓。

育ち盛りの子どもたちがこんな量で足りるわけがない。

俺は改めて彼女達の生活の過酷さを目の当たりにした。


「かぁああ、足りねぇっ!腹へったー!」


一番エネルギーを必要としていそうなガディが肩をすくめ項垂れた。


「仕方ないだろ。もっと食べたかったら明日しっかりと働きな。」


「わーったよ。ったく、こんな食事じゃ働く元気もでねぇ。」


最もな言葉を口にするが、これが彼らの現実なのだ。


「もう起きててもお腹空くだけだし寝ようか。」


一番お腹の空いてなさそうなラムダがそう言うと一斉に寝床らしき藁の上に皆雑魚寝で寝転がる。


「おやすみ」


これまたちゃんと挨拶をし皆目を閉じた。

なんて礼儀の正しい捨て子達なんだ。

親の顔が…いや、見たくない。


俺も体を倒し、星空を眺めた。

今日は本当に色々あった。

自分が転生したこともそうだが、まさかこんな生活をしている子ども達が本当に存在するなんて。

してもらった恩は返すタチだ。

明日の仕事に俺も着いていってできることは誰よりもしよう。

そして今日よりもっと美味しいご飯を皆で食べよう。


そう決意し、俺はうつらうつらと意識を手放した。

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