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入学式RoundⅡ

「ねぇ、みんな、先頭の列が動き始めたよ」


 わくわくしたようにファレンが言う。本当だ、列に動きができ始めている。正直、ずっと立ちながら待っているのは飽きてきたところだったので、コルタは嬉しくなった。


「本当かい?やっとか」


 ミロが嬉しそうに顔を上げた。


「試験って、いったい何をするんだろうね」


 コルタはそれとなく水を向けてみた。個人的には、絆を深めたりなんなりに繋げるための、〈ユニット〉ごとに協力するような、課題試験みたいな何かだと思うが、一応みんなの憶測も聞いてみたい。


「絶対、魔法よ。この日のために、あたし、ずっと練習してきたの」


 自信満々にローサが言う。確かにそうかもしれない。魔法は、この地域にしかない祝福だ。それを、将来国の顔となるであろう子どもたちが使えないようでは、他の国に面目が立たない。コルタはうなずいた。


「…魔法か。まぁ、そうだよね」


 ファレンが渋い顔をした。ミロが首を傾げる。


「魔法が苦手なのかい?そうは見えないけど」


「うん、そんな感じかな。僕、兄さんたちと違って、ティエラ家に伝わる、大地を操る魔法を受け継げなかったんだ」


 コルタはふと、クーゲルの言っていたことを思い出した。家柄の魔法を重視する伝統的な、悪く言えば保守的な貴族の家系の中には、跡取りが魔法を受け継げなかった場合、できそこないとみなす風習があるという。ファレンの場合は兄たちがいるようだから、正確な跡取りと言うわけではなさそうだけれど、言いぶりからして、肩身が狭かったのは間違いないだろう。


「代わりに持ってるのは、重力をちょっと操る魔法だけ。地味だよね」


 ファレンが自嘲するように、軽く笑った。


「そんなことないわよ。だいたい、大地なんか操れたところで、何をするの?どうせ、ちっちゃなひび割れを作り出すくらいが関の山よ」


 ふんと、ローサが鼻を鳴らした。意外だ。コルタは少しびっくりした。自慢がうるさいだけで、根はいい子のようらしい。コルタはローサへの印象を若干改めることにした。


 それに実際、そんなことはないというのには賛成だ。ファレンの魔法は、かなり強いものだと思う。高いところまで浮遊させて叩き落とすだけでも、たいていの人間は反応できずにぐちゃぐちゃになることだろうし、シンプルに重力で押しつぶすのも良さそうだし。今思いつくだけでも、結構ある。


「ありがとう。ローサって優しいんだね」


 ファレンがにっこりと微笑んだ。こっちも健気でいい子じゃないか。コルタは心の中で、関わりたくないなどと言ったことを謝ることにした。


「別に同情とかしたわけじゃないわよ」


 ローサが心なしか赤くなっている。照れていて面白い。早くも仲良くなっているじゃないか。この分なら、自分もいらなさそうだ。それなら、このまま帰りたいなぁ。コルタはぼんやりとそんなことを思った。


「うん、わかってる。そうだ、みんなはどんな魔法を持ってるの?」


 ファレンの純粋な疑問に、なぜか格好つけながらミロが答えた。


「そんなに気になるんなら、教えてあげるよ。僕の魔法は、鏡の魔法さ。鏡越しに移動したり、鏡に映っているものを取り出したりできるんだ。でも、一番いいのは、いつも自分の姿が見られる魔法ってことだね」


 いろいろノイズがある気がするが、これも割と使えそうな魔法だなぁと、コルタは勝手に思った。鏡が水たまりなど、何かを反射するものでも良いならば、屋外でも戦えそうだ。ファレンと合わせて、重力魔法で浮かせた鏡から敵を取り出して落とせば、遠隔から相手を仕留められもできそうだし。


「あたしのは、薔薇を操る魔法よ。茨の棘を消したり、薔薇の花を咲かせたりできるの。紅茶が物足りなかったら、薔薇の花びらを浮かべることもできるわ。上品で素敵な魔法でしょう?」


 修辞疑問文風の自慢で締めながら、ローサが薄い胸を張った。こっちもいろいろとうるさい気がするが、普通に良い魔法だと思う。大量に薔薇の花びらを呼び出して目くらましに使うも良し、茨を使って、相手に継続的な痛みを与えながら拘束するのも良しだろう。本人がかなり美人な方だし、誘惑に使っても良いかもしれない。


「コルタは、どんな魔法を持ってるの?」


「わたし?」


 コルタははっと我に返った。どうしよう、返答を考えていなかった。焦る気持ちを抑えるために、高速で考える。正直に言うのだけはなしだから…。そうだ、あの嘘を使おう。コルタは肩をすくめた。


「占いの魔法だよ。人がしようとしていることとかを予測できるんだ、ちょっとだけだけど。それにしてもみんな、いい魔法を持っていてすごいね」


 自己主張が強め組の、ミロとローサがしたり顔でうんうんとうなずいた。社交辞令でこんなに嬉しそうにする人間を、コルタは初めて見た。もっとも、半分くらいは本心だったけれど。


「そういえば、他の〈ユニット〉の人たちは、どんな魔法を持っているんだろう。強そうな人とかいるのかなぁ」


 コルタはふとつぶやいた。他の生徒たちのことは全く知らないことに、今さらながら気がついたのだ。〈ユニット〉のみんなに対して、相性の悪そうな魔法を持っている生徒がいたりするなら、早めに把握しておきたい。


「それなら、第三王子様じゃないかしら」


「え?王子が来るのか?いや、来るの?実物の?」


 コルタはびっくりして、口調が崩れた。王族が来るかもしれないとは匂わされていたけれど、どうせもっと遠縁の人物だと思っていたのだ。


「実物じゃない王子がどこにいるのさ?絵でも来るのかい?」


 それはそうだけれど…。コルタは、自分の頭の回転が追いつかなくなっているのを感じた。


「噂によると、賢くて美しい人らしいわ。武芸にも、政治にも長けているんですって。エスト語にも堪能だとか。ぜひ会って話してみたいわよね」


 うっとりとするようにローサが言う。それはいくら何でも完璧すぎないか?誰かに騙されていないのかたずねたいところだったが、コルタはやめておいた。乙女の憧れを現実という刃でへし折ってしまうのは、野暮というものだとクーゲルが言っていたのを思い出したからだ。


「もったいないね。第一王子だったら、王位を継承できていたかもしれないのに」


 コルタはなんとはなしにつぶやいた。


「いや、そんなことはないと思うよ」


 ファレンが首を振った。そうなのか?いかんせん森にこもっていたもので、よく事情がわかっていない。教えてくれるのなら大歓迎だ。コルタはファレンの方に顔を向けた。


「第一王子様は、視野が広くて賢いそうだけれど、元来病弱な気質で先行きがちょっと心配だし、第二王子様は、うーん、なんというか、勢いだけで突っ走っていかれてしまいそうなのが、賛否両論あるみたいだね。第三王子様は、かなり人気かな。こんな感じに、どの王子を支持するかによって、貴族や王族の中で派閥が生まれているんだ」


「そうなんだ、ありがとう」


 コルタは城門に向かって進みながら、礼を言った。クオーレ家は、どこを応援、ではなく支持しているのだろう。あとでフェデルタにたずねてみよう。


「さ、ついたね」


 ミロが城門を見上げた。細かに彫刻された、真っ白な石で造られた扉だ。さぞかしお高そうな建築物だなぁと、コルタは感心した。


「じゃあ、入ろうか」


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