008[説明を求めたい出来事]
[説明を求めたい出来事]
私は手にしたモノを東条とアキに見て貰う
相変わらず、東条にはソレが全く見えないらしく
アキは、曖昧な笑いを浮かべるだけで何にも答えてくれる気配が無い
『東条、アキの事は見えるんだよな?』
私はアキの態度で少し気になる所が有り
少しだけ不安に思ったので、アキの肩に触れながら訊いてみた。
『ギンちゃん…ソレ何の冗談?』
東条が怪訝そうに私を見る・・・
遠くに居る正体が一応不明な人を除外し、皆が東条を見る
『シュートが見えないってどう言う意味だよ?訳が分からんぞ』
東条の返答に皆が黙り込んだ
「シュートって誰?」
今度は私達が怪訝な顔をする事になり
アキは・・・
『本名で呼ぶんじゃねぇ~よ!
俺を名前で呼ぶなら「アキト」にしてくれ、と何度も頼んだろうがよ』と
どう書いて「アキト」で「シュート」なのか知らないが
どうやら、アキは「心霊現象的なモノ」でないみたいだった。
「良かった…
喫茶店とかの所で「独り言」言ってるみたいな事になってなくって」
私はアキが「心霊現象的なモノ」だった場合に起きるであろう
ちょっと悲しい現実を思い浮かべて
「心霊現象的なモノ」で無かった事に安堵する
安堵はしたものの・・・
『東条!茶室と池の間に誰かいるの…は、見えないのか?』
私の問い掛けに東条は、そちらに顔を向けて
『誰もいないじゃん…あ、もしかして
シュートとグルになって、俺を罠に嵌めるつもりだな』と、言った。
アキが『シュート言うな!』と、怒っている
私は東条とアキがジャレル様に言い合う姿をを生温い目で眺め
茶室と池の間に立つ人物を見る
私の目には、姫の姿が見えていた
目が暗闇に慣れた所為か、街灯の無い雑木林の中でも
雑木林の外から仄か入る街灯の明かりだけで、姫の姿が事細かに見て取れる
「これは私が罠に嵌められてる感じ?」少しだけソッチの可能性を考え
「姫では無い」と主張する2人を見る
『ゴロちゃん、ユリちゃん…何で姫じゃないって言い切れるのさ?』
私の質問に、ゴロちゃんとユリちゃんは顔を見合わせ
幾ら待っても、何も教えてはくれない
私は返答を待つ間・・・
手持無沙汰に、摘まんだままの光るモノに繋がった紐を手繰ろうとして
途中から、触れる事が出来ない事に気が付いた。
私は質問した質問の答えを諦めて目を閉じ、黙って思案する
目を開け姫を見て・・・
姫の元に行くのを止めたアキとゴロちゃんやユリちゃんの顔を順番に見る
「愚だ愚だ悩むのは、私の性に合わないな」
私は半歩下がり、踵を返して姫の元へ走り出す
「近付いて、触って確かめた方が早い!」
進行方向に居たゴロちゃんが・・・
再度、私を止めようとして手を伸ばしてくるが
下の方がガラ空きだったので屈んで除けてそのまま先に進む
アキが私を捕まえようと追ってきたけど
私の足の速さは、チャラ男くんに追い付ける程度の速度では無かった。
私は姫にしか見えない人物と茶室の間を走り抜け、姫の斜め後ろまで移動した
姫は、クスクス笑いながら私を目で追い、私の居る方向へ向いてくれる
確かに彼女は、私の知っている姫だった
そして彼女は、それと同時に私の知らなかった世界の住人でも有る御様子だった
彼女からは、痛んだ水の臭い・・・
強いて言えば、緑色に変色した魚の水槽の水の臭いがしている
私は途中で彼女に伸ばそうと思っていた手を伸ばす事が出来なかった
私が走り抜けた場所は・・・
確実に地面だった筈なのに芝生の上は柔らかく、生温かい水が存在していた。
私は湿った重苦しい熱気と、その場所の臭いに吐き気を覚え立ちすくむ
彼女を至近距離で良く見ると・・・
彼女の身に付けている制服は濡れていて
小さな田螺が彼女の服や皮膚の上を這っている
「あ…ヤバイかも」と思った時には、私の体は動かず
後から来たアキを除ける事も出来ずに衝突されて
水浸しの芝生の上にアキと抱き合う様な形で尻餅をついてしまっていた。
一応アキに庇われ、アキの腕の中で全身水に浸かるのを免れた私は
アキの肩越しに姫を見ながら、水に浸された芝生の上に後ろ手を突く
手を置いた場所の側で、モゾリと何かが動き
私の手を伝い、何かしらの虫が腕を這い上がって来るのを感じる
ジワリジワリと這い上がる硬く細い複数の足の感触に、私の思考は止まり
水を頭からかぶった様に全身から、汗が吹き出す
虫が這い上がって来ている場所は、アキの体が有って見えない場所
鳥肌がったった、息が詰まった
私から発せられた声は、悲鳴にはならずにうわ言の様に微かなモノにしかならなかった。
東条が何食わぬ顔でやってくるのが見えた
何食わぬ顔で私の上からアキを退かせ、私に手を差し伸べる
私が動けずにいると私の二の腕辺りに触れ…一瞬、手を引っ込め
自分が触ったモノの正体を確認した後、私の腕から虫を引き剥がしてくれる
『何でこんな水の無い場所にヤゴが…』
東条の言葉を耳にし、周囲を見ると本当に水が存在していなかった。
虫が這っていた場所を抑え小さく蹲り動けなくなっている私に東条が触れ
私が、水浴びでもしたかの様に全身びしょ濡れになっている事に驚き
東条は、私の為にユリちゃんをこっちに来るように呼んでくれたが…
ユリちゃんが来る事を断り
『シロちゃんを早く連れて来て!そこから引き離して!』と繰返す
騒ぐユリちゃんを余所に、ぼぉ~っとしていたゴロちゃんが我に返り
腰を抜かしてしまい動けなくなっていた私を迎えに来てくれ
東条がアキの方に行く、そして東条がまたしても驚きの声を上げる
アキも私と同じ様に濡れていて私の上から退かせられたまま
私と同じ様に硬直していたのだ。
私は情けないながら、ゴロちゃんの肩に担がれ
アキは東条とサンちゃんに両肩を貸して貰いながら
プールと雑木林の間に有る道を抜けた場所に有る
プールの隣の古びた建物の中へと
ゴロちゃんが持参した偽物の、ゴロちゃんが複製した鍵を使い侵入する
何処からともなく東条が、御日様と洗濯石鹸の香りのするタオルを持って来る
私はソレを受け取る事が出来ず、気持ちをリセットできないまま動かないでいると
ゴロちゃんがユリちゃんに指示してくれ
私はユリちゃんに付き添われ、プールに設置された水のシャワーを浴びる事になった。
嫌な臭いのする水から解放され
綺麗なタオルで体や髪を拭き、気分的にリフレッシュした私は
下は真っ裸の状態で、ゴロちゃんが持ってきていた上着だけを着て皆の元に戻る
濡れて汚れた服は、同じ様に濡れて汚れたアキの服と一緒に
この建物に設置された洗濯機で洗われている
アキは水道で水浴びをしたらしく先に戻っていた
私はタオルを腰に巻いただけのアキに対して
『ほっそ!腕とか、私より細くないか?ズルイわぁ~…』と、本音を言ってしまった。
その場に居た全員が笑う
『カラサキてめぇ~…顔合わした途端に恩を仇で返すか!』とアキが怒る
私は悪びれる事無く
『そんな細腕で、私を助けに来てくれたんだよな?アリガトウ』と言葉を続ける
『細腕言うな!』と、アキはちょっと怒りながらも
『どういたしまして』と、言い返してくれた。
食堂でたこ焼きを貰った時、私がサンちゃんに譲った和三盆を
サンちゃんが制服のポケットから出して皆に配る
ユリちゃんが先生の私物であろう粉末のコーヒーを皆に入れてくれ
私のには、ゴロちゃんが食堂の自販機で買ってきた小さなパックの牛乳が添えられる
ソレを見たサンちゃんが『あ、ズルイ!』と声を上げ『残りくれ』と言うので
私はコーヒーに入れ、残った分をサンちゃんに渡す
皆が甘い物を食べ、コーヒーを飲んで人心地付いた頃
和三盆を入れた袋の中に残る、和三盆を包んでいた懐紙に書かれた文字に気付いた。




