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episode39・謎

「なんでしょうか、東郷大佐」

「……こちらが『なんだ』と聞きたいんだがな。黒崎グループ技術開発部長、室井静香」


 彼女……室井は状況が掴めず、当惑していた。

 目の前には東郷平蔵がいる。戸は開かれ、東郷だけ室内にいる。

 『だけ』ということは、当然他に人がいて室外にいるとわかるが、これは少し異質だ。

 室外には大量の人。それら全ては道化師のような仮面を被ったモノクロ服。それぞれ体型に個人差はあれど、皆は微動だに動きを見せず、まるでオブジェのように立っていた。


「大佐、これは一体どういうことでしょうか?」

「どうもこうも……だ」


 嘆息、東郷はアクションを行う。

 腰から拳銃を取り出し、室井に向けた。


「っ⁉︎」

「こんなことしたくないんだがな、やむを得まい。まあ、君とはなんの接点もないゆえ特に悲しみや辛さはないのだが」

「一体……何をしているんですか」

「本当は警察の仕事なんだが、急を要するので仕方ない。君を拘束する」

「なんですって?」

「君は……テロリスト、基崎翔太郎と協力関係にあったろう。仲介人、演出家、9人目と名乗っているようだが」

「そんな……なぜワタシが」

「まぁ、そう大声を出すな。彼が起きる。とりあえず、両手を上げて部屋から出なさい」


 ジッと銃口を突きつける東郷。仕方なく、室井は指示に従う。

 室外に出て改めて理解したが、この仮面集団はどうにも奇妙だ。

 奇妙で気持ち悪くて奇怪だった。

 数が明らかに常軌を逸している。アリの大群やイワシの群れを思い浮かべれば楽だろう。

 無機質で無感情。奇妙というより。

 異様。


「基崎翔太郎は、数年前は黒崎グループの技術開発部に勤めていた。この情報に偽りは?」

「……ありません」

「つまり、君と彼には接点があった。加えて、基崎の乗っていた機体は吹雪シリーズの封印されし4番目、だそうだな」

「……調べましたか」

「調べたよ。これでもそれなりの地位は持っているんでな」

「でも……証拠は」

「資料によると、封印されし4番目、深雪は『2機』作られていた。そうだな?」

「はい……」


 これは黒崎グループ内でも限られた人物しか知らないこと。

 1号機は黒崎梨々香の件で大破、処分された。

 そして2号機は。


「2号機は1号機と同時期に製造された物であり、空中分解事故を参考に改善のため保管されていた。そして」

「…………」

「何者かに盗まれた」

「まさか……私が基崎君に秘密裏に渡したとでも言うのですか?」

「それしか考えられないな。深雪が保管されていたエリアは君の網膜認証がないと立ち入りできない、と資料にはあるんだが」

「それは……」


「君は彼に、自分たちが繋がっていることを知られることを恐れた。だから口封じに来たんだろ?」


 口封じ? 何を言っているのか?


「その薬品だ。さしずめ毒か何かなんだろう。そして自分がここに来たことを悟られないため、監視カメラに細工をした。同じ映像がループされていたよ」


 監視カメラ? 細工?

 室井はただ、対象……基崎を……。

 室井にとって基崎は、弟子のような存在だった。先に確実な功績を上げて出世したのは彼に技術者としての知識を与えたのは、室井なのだ。


「そんなこと、私は知りません! 濡れ衣ですよ!」

「濡れ衣かどうかは後で警察にでもゆっくり調べてもらう。とりあえず、身柄は抑えさせてもらう」


 逃げようと思索したが、周囲は異様なピエロたちに取り囲まれてどうしようもできない。

 東郷が手を小さく上げ、それを合図にピエロの1人が室井の手を掴む。

 パァン。

 乾いた音が鳴り、室井を捕らえていた腕に穴が穿った。


「っ⁉︎」

「っ⁉︎」


 続いてもう1発、ピエロの脳天を貫いた。

 ここには窓はない。薄暗い閉鎖空間だ。

 そうなると、弾丸は……。

 突然、室井の真上にあった排気用ダクトが落下、身を引いてかわす。

 落下したダクトに追従するように、1人の少年が群衆の中央に降り立つ。

 片手に持つ拳銃が、先ほどの弾丸の主と誰もが理解した。


「……君は本当に私を驚かせてくれるね、傷裏君」

「それはこっちの台詞です、東郷大佐」


 傷裏は銃口を東郷に向ける。

 この場で1番困惑している室井は傷裏から1歩距離を取る。安堵と恐怖が混じり合った末の行動だ。


「……傷裏君。これは一体……」

「ごめんなさい、室井さん。僕はあなたを騙していた」

「え?」

「あなたに治療用として渡したその緑色の薬品、実はただの精神安定剤なんです。投与を忘れていたので室井さんに頼んだ……というのは無理やりな極論ですね」


 室井に語りかけ、それと同時に東郷にも意を伝えるべく言った。


「しかしだ、傷裏君……なぜ室井君を?」

「あなたをおびき寄せるためですよ、東郷大佐……いえ」


 彼は東郷平蔵である。国防大佐である。希代の天才軍師である。

 そして、それだけではない。


「仲介人」


 傷裏は宣言した。

 東郷が仲介人であると。

 室井ではなく、東郷を。


「……冗談が過ぎるな、傷裏君。私がなぜ『ヤマタの集い』の9人目でなければならないのかね?」

「基崎から、そう証言を受けました」

「しかし、彼は度々脳を弄ったサイコ君なのだろう? それだったら平常な思考回路を保つことは難しいんじゃないのかい?」

「彼が操作したのはあくまで感情のみ。それ以外は異常なしと、ここに入る前の検査をあなたは知っているはずです」

「検査で全てがわかるわけではない。科学や医療は万能ではないよ」

「うまい言い逃れですね」


 だが、この程度で折れるわけはない。

 傷裏は懐から携帯を取り出し、記録されているデータからある資料を提示する。


「大佐、あなたは基崎をまったく知らない人間のように言っていますが、そうではないでしょう。あなたは彼の大学時代の講師だった」

「講師……あぁ、そんなこともあった。確か、若い頃に脳科学の臨時講師を頼まれたこともあったな」

「その生徒の中に、基崎はいた」

「ほぉ、そうなのか。初耳だよ」


 この逃げ方もまた想定内。

 今度は向こうに尋問させる番だ。


「では傷裏君に問おう。今現在、ここ一帯の監視カメラは同じ映像をループさせられている。それは彼女がおおっぴらにできないようなことを行おうとしていたからではないのか?」

「それは僕の仕業です。9人目に仕立て上げやすい室井さんがこの部屋に来て、なおかつ外部から監視カメラに細工を受けたとなれば、彼女に室井さんに罪を被せることも容易でしょう」

「では深雪の件の網膜認証はどうする?」

「それは……彼女にやらせたのでしょう」


 傷裏が腕を振るう。

 それによって裾から放たれたナイフが、ピエロの内の1人の仮面に突き刺さる。

 仮面は刺された点から亀裂が生じ、分裂。

 素顔を見た室井は、言葉を失った。


「な……なん、で……っ」

「やっぱり……ですか」


 その顔は、室井とそっくりだった。

 いや、そっくりという表現ですらまだヌルい。ピエロの素顔は、表情こそなけれど、完全に同質のものだった。

 未だ驚愕から抜け出せない室井のため、傷裏が解説する。


「東郷さん、あなたはクローンを作った。そうでしょう?」


 さらに2本のナイフを投擲、それぞれが別々の仮面を割る。

 姿を見せたのもまた傷裏の知る人物。

 上宇治阿津也と上宇治克也。

 室井と同質のそれと同様に目は生気を失っており、人間とは思えないそれだった。


「大佐は遺伝子についての研究の道に進もうとしていたそうですね。そして、人体についての研究もまた同様に」

「だからといって、クローンなどそう簡単に作れるものではないだろう? まずDNA情報の採取、作業ができる設備、それに人員、前提として金もいる」

「それは、『それなりの身分の権限』でなんとかなるでしょう。幸いながら、この施設の地下は最高責任者であるあなた以外は立ち入りできないエリアがあるそうですし、場所には困ることはないでしょう」


 それに、だ。

 傷裏の指す銃口が移動する。

 上宇治兄弟と同質の存在へと向けられる。


「この兄弟と瓜二つなソレがいる時点でもうバレたも同然でしょ」


 推論を述べる。

 例の深雪強奪事件は、室井のクローンを用いて網膜認証をパスしたのだろう。

 もう1つ。映画館でのことだ。あの時仲介人と名乗ったのはおそらくクローンの1つ。あえて東郷と一緒にいることを傷裏に見せ、『東郷と仲介人は別々の存在である』と思わせるためであった。

 基崎から聞いた証言を述べる。

 傷裏の街を襲った吹雪や陸奥のパイロットは無数に量産された基崎のクローン。本来なら傷裏と同等の操縦技術を得るはずだったが、東郷の作るクローンは技術まではコピーできなかったらしい。


「これで一応証拠は揃いました。観念しますか?」

「……観念? フッ、なぜ観念する必要があるのかい?」


 東郷は小さく笑い、片手を上げる。

 それを合図に、周囲のピエロ……クローンたちはそれぞれ拳銃を取り出して傷裏に突きつける。


「君は知り過ぎた。というより、生き残り過ぎた。君はどこかで死ぬはずだった」

「……やはり、今までの仲介人が絡んだ事件は僕が狙いですか」

「目的は君の戦闘データを蓄積し、それをクローンたちに投与することで最強の兵士を作ることだった」


 だから仲介人は様々な舞台を用意、あらゆる戦闘パターンを検証した。


「まったく……僕の周りはそんなのばかりですね。あ、でもあの人の場合は娘のための言い訳だったわけで……」

「御託はいい。死んでもらう」


 終わりだ。

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