episode106
《アァァァァァァァウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!》
「……しつこい」
クーシの拳をかわしていく。怒りゆえか1発1発が単調で、たとえ凄まじい再生スキルと速度を有していても、これならまだ勝てる可能性は十分ある。
周囲の敵の群れはその他一同に任せた。クーシと戦っているのはアウラ1人だ。
《貴様ハ、マタ俺ノ邪魔ヲスル!》
「……邪魔するよ。そうしないと、皆が危ないんだから」
《俺ノ邪魔ヲスルナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!》
もはや言葉は届いていなかった。これでは対話のしようがない。
クーシは力に酔っている。アウラはそう思った。力を持っていても、それを扱うための精神を有していなければ、力なんてものはただのゴミクズと化す。いや、むしろ足手まといの重荷と称するべきか。
だから彼はダメだ。ただ力そのものに固執するばかりで、力を手段ではなく目的としか捉えていない。その本質を理解できていない時点で、彼はもう落第なのだ。
《殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!》
「……哀れなものね」
《ナンダトォ⁉︎》
「あなたは、強くない」
《フザケルナ! 俺ハ力ヲ手ニ入レタ!アウラ、貴様ヨリモ強イ力ダ!》
「あなたは力の使い方を間違えてる。力があるだけで強くない」
《俺ヲ……否定スルナァァァァァァ!》
クーシの動きがさらに加速する。しかし、あくまで速度が上がるだけであり、その攻撃はより単調となる。
拳をかわし、拳を砕く。
蹴りをかわし、足を砕く。
眼球をハンドガンで狙い撃つ。
胴体をサブマシンガンで蜂の巣にする。
腕をショットガンで消し去る。
足をバズーカで吹き飛ばす。
肉を裂き、鮮血を巻き上げ、五臓六腑を抉り散らす。
ダメージを与える度にクーシは悲痛と憤怒と憎悪による断末魔をあげる。進化しても、痛覚は消失しなかったようだ。
《イイ加減ニ……死ネヨ!》
全身を砕き潰されながらも放たれた拳。それはアウラの不意をつき、回避がギリギリとなった。
いや、問題は別だ。
回避と同時、アウラの全身を謎の感覚が駆け抜けた。嫌悪感、というより恐怖感。
反射的に身を引く。
身を引いた直後、オーディンは後方に吹き飛ばされた。
「……っ⁉︎」
体勢を立て直し、現状を見る。
それは異形だった。アウラのよく知る、異形としか称すことができない、タコの足のような触手。それが、放たれた腕の肘辺りから伸びていたのだ。
《オォ、ヤッタゾ! 俺ハサラニ、進化シタ! イイ、イイゾ! 俺ハ、ドコマデモ行ケル! ドコマデモ、高ミヘ!》
クーシが天を仰ぐ。
彼は純粋に喜んでいた。己の力を。
彼は純粋に崇拝していた。己の力を。
純粋ゆえに、危険。
異形が彼の肉体から生まれたということは、彼はさらにもう1段、人間からかけ離れた化け物となったということだ。それは彼も重々承知のはずだ。
承知した上、理解した上で、彼はそれを喜びとしている。
それは、どう考えても異常だ。
やはり、とアウラは決意する。
クーシは、消さねばならないと。
《消エロ!》
クーシの両手のひらから計2本の異形が生じ、蛇のようにうねりながらオーディンの両肩を抉らんと駆け抜ける。
交代しながらサブマシンガンを斉射するが、異形はその程度では止まらない。
ならばと思い、武器をバズーカに持ち替えて発射すると、着弾した片方の異形が爆裂した。
しかしそれをかいくぐって接近してきたもう1方の異形を見ることで、破壊した片方が囮だったと悟る。
直撃は回避したが、右腕肘から下が消し飛ばされた。これだけでも恐怖を生むが、先ほど破壊した片方の異形が再生する姿を見ると、この程度で絶望してはいけないのだと悟る。
「チッ!」
《ドウダァ? 怖イカァ? アァ……イイ! ソレデイイ! モット恐怖シロ! 貴様ガ恐怖スルコトガ、泣キ叫ブコトガ、逃ゲ惑ウコトガ、俺ヲドコマデモ楽シマセル!》
今度は4本の異形が両手のひらと両肘から放たれる。
バズーカではダメだ。確実に1本は葬ることができるが、確実に残りの3本がアウラの命を刈り取る。それは先刻に理解した。
ならばショットガン。数発続けて異形を撃つ。
《無駄ダァ!》
拡散状に飛び出した鉛玉の数々はその衝撃で異形の進行を一瞬止めることはあっても破壊には至らず、わずかな足止めにしかならない。
(このままじゃ防戦一方……バズーカじゃ確実に隙ができるし……ならやっぱ……)
ショットガンを捨て、新たに構えたのは右肩にマウントされたスナイパーライフルだ。移動しながら照準を合わせ、異形の横を陣取った時。
「……っ!」
照射。
弾き出された光は見事4本の異形全てを1発で貫いた。
いや、それだけでは終わらない。
照射したまま銃口を真上に振り上げる。
それにより、まるで鋭利なワイヤーで裂いた肉のように、4本の異形は切断された。
《ナッ⁉︎ ……貴様ァァァァァァァ!》
「市原さんの技を真似てみたけど、意外といける……」
アウラが実践したのは、市原のゲイボルグを用いた『不可視の一閃』だ。さすがに粒子密度が違うので不可視とまではいかなかったが、それでもレーザーで切ることはできた。
「あとは慣れてくだけ……!」
さらにもう1発、不可視の一閃を叩き込む。クーシを八つ裂きにしながら距離を取る。
ここまでダメージを与えたのはいいが、そろそろ危機感を感じずにはいられなくなってきた。
どれだけ撃っても、抉っても、裂いても、彼は何事もなかったかのように復活する。これは機体への負担うんぬんという以前に、無限ループの精神的ストレスの方が辛いものがある。
あとどれだけ撃てばいいのか。
あとどれだけ裂けばいいのか。
わからない。
わからないが、止まるわけにはいかない。
傷裏や市原、周囲の皆のおかげで、彼女は研究所の恐怖から脱することができ、素直に人を信用できた。
その恩には答えなければならない。
だから戦う。
少なくとも絶対条件として、アウラは死んではならないのだ。
「ハァァァァァァ!」
異形の数が倍増、今度は両肩と両膝からも伸び、合計は8つにのぼる。
「さすがに全部は……!」
4本は不可視の一閃で薙いだ。
しかし、残る4本が迫る。
回避は困難。
自らの操縦テクをフル活用して回避するが、やはり限界は到来する。
なんとか3本をかわすが、最後の1本はコックピットへの直撃コース……!
《コレデ終ワリダ!》
異形がオーディンのコックピットを貫く……。
……ことはなかった。異形はコックピット前方10センチのところで停止、それと同時にクーシの動きも止まった。
それから時間を経たずして、8本の異形全てが灰となって崩れ落ちた。
クーシが完全に壊れたのは、それから数秒後のことだった。
《ゥゥゥゥゥグガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァアッァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアアアァァァァァァァァァァアアァァァァァァァaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaajabdixtsngakabsixsneoenwoabaoxbsihakavaodnsoanaxyfvgynhjdvvydbeivdoxjsbdisisysvdictsneosbdoxkeoxydneidhsbdidbdidbeofndodbsosbsodndodbrixvkshvkshdvhgkvhgkhglhkhglhkhlghtdywqajchsclbhopfbrufdjvxbcivtdua!!!!!!!!!!!!!!!》
もうそれは言葉ではなかった。少なくとも絶叫に違いないのだが、確実に人間に理解できる範疇を超えていたのだ。
いや、そもそも一体何が起きたのか。
最初に考えたことは傷裏の言う再生力の限界がきたという仮定だ。彼の傷が現在進行形で再生していることから、どうやらそれは違うらしい。
全身から傷口が生成されてそこから絶えず噴射される鮮血が踊り狂い、その都度再生する繰り返し。きっと無限ループ的な痛みを味わっているに違いない。
『どうやら、彼の脳が限界を迎えたようだな』
怒り狂ったような悲鳴をあげるクーシとは正反対に、冷静で冷徹な声を運んできた主はビートルに乗った基崎だった。その背後には無数のメガネウラの死骸が積み上がっており、どれほどの戦果を挙げたのかを物語っていた
『確かに彼は比類なき力を手にしたらしいが、そんな力、なんのバックアップも受けていない人間が許容できるはずがないじゃないか。おまけに彼は幸か不幸か自我を保ってしまった。いくら進化個体といえど、それほどの情報量を1人で処理することは不可能だろう』
クーシはもう意味ある言葉を発する能力を有していなかった。
ただ叫ぶだけの異形の化け物。それは醜い以外の何者でもなかった。
「……基崎」
『なんだ?』
「あなたの見立てでは、彼……クーシはどうなるの?」
『専門家じゃないから明確なことは言えんが、間もなく死ぬだろうな。それも、人間がかつて誰も味わったことがないような痛みを長時間背負いながら』
「痛み……」
『脳を直接ハンマーで叩くような痛みとひたすら傷口を作っては修復され作っては修復されを断続的にされるんだ。普通なら即死なんだろうが、あの異常な再生能力がそれを許さない。死にたくても死ねない、といったところだ。辛くないはずがないだろうな』
「……なら」
アウラはスナイパーライフルを再度取り、片手ながらなんとか左肩にマウントされた2つの追加パーツを接続していく。
それをクーシの目の前まで運び、その腹に突きつける。
『何をする気だ?』
「……殺す。跡形もなく。今なら多分全身くまなく溶かし切れば再生もしないはず」
『放っておいてもじきに彼は死ぬぞ』
「だから、せめて辛さを和らげる」
『君を殺そうとしたやつだぞ?』
「それでも……辛いのは嫌だから」
引き金を引いた。
そこから照射された超大口径のレーザーはクーシの体を丸ごと滅し、その後、彼が再生することは2度となかった。




