お仕事と村事情
「うんうん、似合ってル。似合ってル。」
全身のレザープレートに背中のバスターソード。
こんなにもアル少年はめかし込んでいるのに、このお師匠様は一瞥もくれず、ご夕食に夢中である。
あのジャムですら褒めてくれたのに「おさがりみたいね!」ってさ。
「いい剣に、いい防具ダ。この村には優秀な職人が揃っているネ。」
見てもないのに褒めてくる。
おべっか使うにしても、態度と合わせた方がいいと思うのだが。
見てもないんじゃなくて、見えないのか。 ついつい忘れてしまうが、彼女は盲目なんだった。
「見えなくてもわかるサ。職人が丹精込めて作った品には、汗とか染みてて臭うんダ。」
おっと、臭いの話なら今の俺には禁句だぜ?
「イヒ……冗談サ。盲目でも盲目なりに感じる事があってネ。目が見えないより良いと言えないケド。見える世界は変わったヨ。」
目が見えなくなると耳が良く聞こえるとか、身体の一部を失ってもしばらくすると身体がそれに慣れるとか聞いたことがある気がする。
お師匠様は魔術師だし、見えないものが見えるようになったと言われても不思議じゃあないかも。
「だから、似合っているというよリ。いいものを貰って来たことへの感心の方が大きいネ!」
親父やおやっさんの道具が褒められて嬉しい反面、ひとっつも褒められない俺のちっぽけさが際立つ。
褒められたいお年頃だというのに、本日の成果は散々だ。
「さて、本題に移ろうカ。お手伝いの話ダ。」
夕食の完食後にしばらくの休憩を挟んだのち、お師匠様は俺の方に向き直った。
ゆっくりとした食事を待たされたうえ、食休みまで挟むとは、優雅というかマイペースというか……。
「はじめに伝えた通り、私は待ち合わせをしていル。これは嘘じゃあないヨ。だけど、目的はそれ以外にもあるんダ。」
魔術師が辺境へと出向く目的と言えば何だろう、希少な石を探すとか、魔獣の素材が必要とか……そういえば、弟子に誘われたときに、村が安全じゃない事に対して、解決に来たとか言っていたような?
元々この村は、魔獣の出没頻度が高い。
ターラマ渓谷の生存競争に負けた小型の魔獣が、こちらへ流れてくるのだ。
小型とはいっても、人間からすれば十分な脅威だ。牙も爪も、人の肌を簡単に切り裂く。
こんな小さな村では、大きな傷を負えば助からない者も多い。
「この村の魔獣出没の頻度は他の地域よりも高い、だけど、ここ最近は群を抜いていル。ターラマ渓谷が近いという理由だけでは説明がつかないほどにネ。」
確かに、今までは月に数度というペースで小型の魔獣が現れていたけど、ここ数カ月は週に数度、以前の数倍は見かけるようになった。
それに、デモンベアのような大型の魔獣も現れている、村長が王国へ救援の手紙を出したのはそれを見かねてだったはずだ。
つまり、その手紙を読んで救援に来たのが……
「私ってわけダ!」
堂々と胸を張ってドヤ顔を披露しているが、この人の素性を知らなかったら、王国は俺たちを見捨てたのかと思っていたことだろう。
「こんな仕事は下請けさせて、元々来るつもりはなかったんだけどネ。事情があって私自らやって来たってわけサ。」
こんな仕事って……俺たちの住む村を何だと思ってやがる。
ザッハトルテの見た目がこんなお子様でなければ手を出していただろう。
今はほっぺをつねるだけで許してやる。もちろんPGは外してね。
「イタタ……そう怒らないでクレ。私だって忙しい身なんだヨ?王国に雇われているというのは、王国中の問題の解決を依頼されているという事なんダ。色々な形ではあるけど、この村のような厳しい状況は各地で起きているのサ。いくら私が凄腕の魔術師だと言っても、身体はひとつなんダ。そのひとつの身体でココに来タ。幸運だよお前たちワ。」
確かに、助けに来てくれたと考えると感謝してもしきれない。
「ごめん、ありがとう。」
「誤解を招く言い方だったのは謝るヨ。イイサ、君たちも日々を生きるのに必死だろウ。」
この短い付き合いで見えてきたお師匠様の数少ない良いところだ。
飄々としているが、こういった寛容で余裕のある所は見習いたい。
「その、魔獣の出没頻度が高まった件だけド……私は何となくの原因は把握しているんダ。確証はないけどネ。それに対する対策を考えてはみたのだガ……。」
原因もわかってるし、対策も練ってきたのか!
それなら解決はすぐだな、どんな対策なのか、もったいぶらずに教えて欲しい。
「無かっタ。」
うんうん、それでそれで?
「対策は無いんだヨ。アル。」
「対策が無いってどういう事だよ!」
バンっと机を叩く音が響いた。
さっきPGを外しておいてよかった。机を砕いたりしたら、女将さんから店を出禁にされるところだ。
「まあ落ち着ケ。今は無いというだけダ。可能性がないなら、私はここまで来ないヨ。」
確かに、不可能であればお師匠様がこの村に来た理由がない。でも、くそ、くそったれ、何だって俺たちの村が……。
「その可能性を手繰るために、君も協力するんだヨ。まずは目の前の安全ダ。この村周辺の森に魔獣避けを仕掛けて回ル。その後しばらくしたら、私の魔力に釣られて、原因が向こうからやってくるはずダ。」
それを倒すのか?相当強力な魔獣なんだろう。
でも、お師匠様がやって来たってことは、倒せる算段があるってことなんだろう。
いや、この顔を見るに苦戦はするのかもしれないな。ただ、勝算があるのは間違いないね。
「倒せないヨ。私のような魔術師や、他の人間、どんな英雄にだって、個人じゃあ敵わないだろウ。」
「じゃ、じゃあどうするんだよ。原因が魔獣か何かわからないけど、魔獣避けを仕掛けたら向こうから寄ってくるんだろう?なんで、村に呼び込むような真似するんだよ!」
冗談じゃない、村にはみんないるんだ、親父やジャムだっているんだ、危険なやつを呼び込むなんて真似したら……想像したくもない。
「皆を助けるために、必要な事なんダ。もちろん、他に被害が及ばないよう私も努力するサ。イヒ……この私が努力だゼ?やってられないよ、まったク。」
お師匠様のふてくされた態度を見て心が少し軽くなった。
お師匠様が俺たちの事を、何も考えてくれてないわけがない。
こうして村まで来てくれたんだから。なんだかんだ優しいんだな。
「はあ、本当は道すがら逃げ出して、共和国にでも亡命しようかと考えたんだけどサ。どこに逃げてもこの問題は私を追いかけてくると思ってネ。」
さっきの言葉は撤回する。
何なら、原因とやらはお師匠様を追いかけて、この村から離れてくれるんじゃないだろうか。
今すぐ追い出すか?
「馬鹿な考えはやめるんダ。とにかく、原因とは一度、顔を合わせなくてはいけないんダ。」
顔を合わせてどうするっていうんだ、相手は魔獣なんだし、会話が出来るわけでもないだろうに。
「対話をするんダ。言葉でどうすればここからいなくなってくれるのか、条件を聞き出ス。」
「言葉が通じるのか……!?」
「通じるトモ。」
まさか、言葉が通じる魔獣がいるだなんて……どこかで魔獣を調教してるって話は聞いたことはあるけど、対話ってことはそう言うのとは違うのだろう。
言葉と言葉で、目と目で、お互いを理解しようっていうのか。
人と人でも難しいのに、俺なんかジャムと目を数秒合わせることだって難しいんだぜ。
「向こうが乗ってくれるとは限らないけどネ。唯一の方法と言ってもイイ。もし対話できるのであれば私の巧みな話術でかどわかして、条件を結んでやるトモ。」
一部信用できない言動はあるが、お師匠様が言うならこの方法しかないのだろう。
それにいつまでもこの状況を放置していても、村がすり減ってゆくだけだ。
いずれ、俺もジャムも親父も安全ではいられなくなる。
「もし、うまくいかなかったら、私の弟子を供物として身代わりにして、私は私の全力をもって逃げル!」
一部どころかこの人の人間性すら信用できなくなった!
おいこら、最高と最悪を反復横跳びするんじゃあない!!!少しは尊敬させろ。
「イヒ……肩の力を抜いていこうじゃあないカ。死ぬときは死ぬ、生きるときを喜べダ。」
誰かから聞いたのだろうか。俺たちの村みんなが掲げるポリシーだ。
あきらめているわけじゃない、この村は日頃から魔獣が多く出没する、人の出入りも少なく、守るべき必要のない価値が低い場所なのだ。
だから、自分たちの身は自分たちで守るしかないし、家族も友人も俺が守るしかない。
だから、この村の男は自分を奮い立たせるために心の中でこう唱える。
「死ぬときは死ぬ、生きるときを喜べ 」と。ちょっと物騒すぎるって?俺もそう思う。
「さて、重苦しい話はここまでダ。せっかく装備を整えたのだから、試してみたくないかい、その装備をサ?」
俺は自分の頬を叩いて気分を切り替える、そうだな、せっかくこんな格好のいい姿になったんだ、早く試したいってのが、少年心だよな!
木人形かバスターソードを振り回せる広い場所に行こう!
「夜の森へ肝試しと行こうじゃないカ!」
俺のデビュー戦は夜の森になるらしい。
PGを嵌めながら、ジャムから聞いた夜の森の幽霊の話を思い出してしまい、すでに肝が冷えた。肝が身体のどこかは知らないけれど。
アル・コール: 主人公
ザッハトルテ・チコレイト: ヨナンバル王国の魔術塔の主




