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世間知らず、世界知らず  作者: 駄神


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7/12

水浴びと自己紹介

「へえ~……ザッハトルテさんは、王国で一番偉い魔術師なんですね。」

「そうともサ。私が王国を離れるだけで困る人間が大勢いるくらいのネ。」

 自慢げに胸を張りながら、私に身体を拭かれているこの人は、王国のとても偉い魔術師ザッハトルテさん。


 私たちは私の家の近くにある水浴び場へとやってきていた。

 ザッハトルテさんは長旅で疲れているだろうから、水浴び場へ案内してやってとお母さんに言われて連れてきた。


 初めは案内だけして戻ろうと思ったのだけど

 「気が付いていると思うけど、目が見えないんダ。一緒にいてくれないカ?」と言われ、

 こうして一緒に水浴びをしている。

 目隠しをしているのに、あんなに違和感なく生活できていたから、目を守るための薄い素材の目隠しか、不思議な力で周りが見えているのだと思っていたから少し驚いた。

 もしくは少し寂しかったのかも。


「ふふ、困る人が沢山いるのに、どうしてこんな村までお出かけを?」

「ひとつは、王国に縛られているのがイヤだかラ。私は自由人なのに、友人の頼みで王国に協力していたら、外出のひとつも許してくれなくなったんダ。ひどいだろうウ?」

「地位があるっていうのは、大変なんですね……。」

 貴族や王様のような偉い人達は、決め事だけ決めて、あとは贅沢しているものだと思っていたけど、自由に外に出られないっていうのは可哀そうに思えた。


「もうひとつは、待ち合わせの約束だネ。」

「この村で……待ち合わせ?」

 この村はヨナンバル王国の方から、魔獣だらけのターラマ渓谷か隣国、ナハ共和国の通り道として使われていた。

 けど、渓谷が近く、魔獣被害が多く、商人が交易路として使うのを嫌がり迂回路を作った事で廃れてしまった何もない村である。

 妖精の囁きとか、おやっさんの雑貨屋とかあるから、廃れてなんかないけどね!


「怪しすぎるよ、この村何もないのに、誰が来るっていうの。」

「それは、来てのお楽しみ……カナ?」

 ううむ、秘密のようだ。

 秘密にされると気になってしまう。夜にワインでも勧めて口を軽くしてもらおうかな。

 先月来た冒険者は一杯でうちのお母さんを口説いていた。こんなに若い私を差し置いて、お母さんの方がモテるのは何事なのか、ぐぬぬ。


「イヒ……お前さんは可愛らしいから安心するとイイ。」

「わっ!?私、口に出しちゃってました?」

「いいや、黙りこくって何か悔しそうな顔だったヨ。」

「え、ええと、ならなんで私がお母さんに嫉妬した事がバレて……。というより、目が見えないなら、私の悔しそうな顔も可愛らしい顔も見えないんじゃ!? 」

「イヒ……さて、どうしてだろうネ。」

 変な笑い方……ぽかんとしている私の元から離れて、彼女は川の中へと進んでいった。


 人の心が読めるのだろうか。アルがこの人と会話している時、全然喋らないで目を合わせている?だけだったのは、心を読まれていたから?

「魔女だ魔術師だっていうの、半信半疑だったけど、心を読めるって言われたら信じるかも。」

「別に信じて欲しいわけじゃないケド。そうだな、水浴びに付き合ってくれている御礼に少し芸を披露しようカ。」

 そういうと彼女は川の真ん中へ向かい、その場でしゃがみこむ。

 水面に指を這わせて何かの形を描いているようだ。

 もちろん、水の上に何かが描けるわけはないが、指を視線で追うと、円に文字のような何かを描いているみたいだが、途中から全くわからない。


 何が起こるのか緊張して様子を伺っていると、

「エイッ!」

 ぱしゃりと水面を叩く音が響いた。少し悲鳴を上げてしまった。


「わあ……。」

 感嘆の声とはこのことなのだろう。私の口からはこれしか出なかった。

 叩かれた水面から私の顔くらいの水球が浮き出してきた。

 さらにその水球は空中で自在に形を変えていき、いくつかに分裂しながら私の周りをまわっている。

 日の光が水球を通り、きらきらと私を照らしている。水中から光を見たことがあったが、それに負けず劣らず綺麗だと感じた。


 ザッハトルテが両手を掲げると、その動きの通りに私の上へ水球が集まってきた。

 そして、何事もなかったように水はいつも通りの姿に戻る。


 そう、私の上にただの水が降ってきたのだ。

「ぷはっ!?最後まで感動させてよ!?」

 びしょびしょで困惑しながら怒る私を見て、彼女は大笑いしながら足を滑らせて溺れていた。


 ------ーーーー


 そんなに臭いかな。俺。

 妖精の囁きを訪ねて第一声、女将さんに臭いと門前払いをくらい、水浴び場へと向かっている。


 バジルもおやっさんも何も言わなかったのに……。

 すんすん。確かに汗の匂いはする、レザープレートを貰いに行く前に水浴びしておけばよかったかもしれない。

 でも、思春期の少年に臭いって言葉はとても傷ついた。


 とぼとぼ歩いていると、水浴び場の方から人の気配を感じた。

 バジルも臭いと言われて放り込まれたのだろうか?

「どーも、うわあ!?」

 水に濡れて重たい布が俺の顔面をべちゃりと撃ち抜いた。


「おや、お弟子くんじゃないカ。君も水浴びかイ。」

 何も動じてない人間が一名、俺に濡れた布を投げ込んだ人間が一名いるらしい。


「覗きとはいい度胸じゃないの、アル……!」

「ま、まてよ、不可抗力だって。女将さんに入って来いと叩き出されたから来たんだ。お前らがいるなんて知らなくて。」

 今回ばかりは本当に知らなかったんだ、女将さんに言われなかったし。

 あと、覗きなら隠れて忍び寄るだろ?

 おすすめはあそこの二股に分かれた木の裏だ。俺は断じて覗いたことはないけどな。


「問答無用、乙女の水浴びを覗き見た責任、取ってもらうから。」

 ああ女将さん、あなたの不注意で俺は今日が命日かもしれません。

 もしくはあなたの娘さんのせいでお婿さんにいけなくなるのかも……。


 とりあえず、頬に赤い印をつけるだけで済まされた。

 二発目が俺を襲う前に、お師匠が心を読んで、無罪を証明してくれなければ、俺に明日は無かったかもしれない。

 いや、一発目の時に助けてくれないか?


「まあ、なんだ、裸を見たわけじゃないんだ、許してくれよ。」

「ふん、別に見られて怒っているんじゃないもん。覗きなんて卑怯な手だから......。」

 こいつは何を言っているんだ?覗き以外で見る方法なんてなさそうだが……?

 考えても何も思いつかないので、とりあえず当初の目的である、俺の水浴びを済ませることにした。


 水浴びするならレザープレートを着たままなのも失敗だった、濡れないようにしないと、などと考えながら服を脱いでいった。

「きゃあ!?」

 また、俺の顔に濡れた布を放り投げられた。

 この布、身体を拭いたやつじゃないだろうな、それなら少しばっちいのだけど。


「ご、ごめんなさい。突然脱ぎだすものだから……。」

「宿屋に来た客も酔っぱらって脱いで騒いでしてるんだし、お前も男の裸くらい見慣れたもんだろ。」

 俺とも小さい頃は一緒に水浴びもしただろうに。

 女将さんの臭いという言葉で傷心中なのに、こんなにも暴力を食らうとは、踏んだり蹴ったりだ。


 俺はどうかって?もちろん目の前の薄着のジャムに視線を向けられずにいる。

 お師匠様の方を見て心を落ち着けようかな。

「女性のあられもない姿を見て、心を落ち着けようなんテ。失礼にもほどがあるだろウ。」

 どこからともなく水球が俺の顔面を襲う。

 体格について冗談言ってきたけど、流石に失礼だったかな。


「で、アルはなんでそんなに汗だくだったわけ?今月はもう炉は閉めちゃったんでしょ。」

「ああ、これはだな……。」


 俺は今朝からの出来事をジャムに話した。


 荷物運びで出会った心を読む魔女と、

 そいつに手伝いを頼まれた事、

 パワーグローブというマジックアイテムをもらった事、

 そのグローブで皿を壊した事、

 ジャムがその様子を見て俺に触るなって怯えられて悲しかった事。


 あれ、この流れ何回目だろう。


「へえ、魔術師の弟子ねえ。じゃあ、ザッハトルテさんみたいに、さっきの綺麗な水の魔術とか使えるようになるの!」

 ジャムの目が一段と輝いている。ごめんなジャム、俺には魔術の才能がなくて、ただの怪力男なんだ。そんなロマンチックを求める乙女みたいな視線は向けないでくれ。


「ま、まあ。いずれは。ところで、お師匠様の名前、ザッハトルテって言うんだな。自己紹介をずっと忘れてたよ。俺の名前はアル、アル・コールだ。」

 コミュニケーションの始まりは、自己紹介だというのに、名前も告げずに弟子だ師匠だと話を進めていた、まあそれが成立したのはお師匠様が心を読んでくれるからだろうけど。


「イヒ……私の名前は、ザッハトルテ・チコレイト。ヨナンバル王国、魔術塔の主サ。」

 魔術塔……?なんて魅力的な名前の塔なんだ、きっと魔術師とか、俺のPGみたいなマジックアイテムが沢山あるんだろうな。


「ないし、そんなにいないヨ。ほぼ私の私室ダ。」

 一気に夢がなくなった。勝手な想像だけど、本や道具が沢山散らかっていそうだ、想像だけど。

「ねえ、お話続けるならうちに戻らない?流石に冷えちゃうよ。」

 ジャムがまともな提案をしてくれた。

 そうだな、ジャムもお師匠様もあられもない姿なわけだし、このままでいてもらうわけにもいかない。


「そうだな、俺もさっさと汗を流して戻るから、先に二人で戻っておいてくれ。」

「うん、わかった。いこ?ザッハトルテさん。」

 ジャムはお師匠様の手を引いて川を上がっていった。

 こうしてみると、姉妹にも見えるな、もちろんジャムが姉でお師匠様が妹だ。


 微笑ましい様子をしばらく眺めていると、二人の着替えが始まった。

 特に何も見るものがないので視線を向けているだけで決して覗きではない事を初めに注意しておく。


 ふむ、なんというか、服を脱ぐというのはもちろん色っぽい行為なんだけど、逆に服を着るというのも心をくすぐるものがある気がする。

 結構お尻大きいんだな。


 バシッと、俺の顔面に濡れた布を投げられる。

 モノを投げるのが上手だなジャム。

 しばらくの俺の夜に見る夢は今日のジャムばかりになるかもしれないな。お師匠様はおまけで。

アル・コール: 主人公

ザッハトルテ・チコレイト: ヨナンバル王国の魔術塔の主

ジャム・ストロベリ: 宿屋『妖精の囁き』の娘

スムージ・ストロベリ: 宿屋『妖精の囁き』の女将

バジル・ブッシュ : 村の警備団 団長

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