職人と新米騎士
「卑怯だぞ!俺がガキの頃に、ジャムを男だと勘違いしていて、なあジャム、お前いつ男のあれが生えるんだと質問した話は!!!」
「うるせえ!真夜中にフィアンセ(予定)の家に会いに行く約束をして半裸で村を逃げ回った話を持ち出したお前が悪い!!!」
俺たちの模擬戦(舌戦)は昼飯を抜いたまま続いていた。
俺たち仲良しなんだ。
互いの口撃によって息絶え絶えになった俺たちは、両腕を広げて倒れ込んでいた。
「ぜぇ、はぁ……お前、森にでるなら、剣以外もそろえておけよ、鞘にもベルトを付けておけ。」
お互いの恥部を晒しあった後、すぐに話題を変えられるこの男は優しく見えるだろう?
寝たら忘れるどころか直前の会話も忘れてしまう鶏みたいな頭してるだけなんだぜ。
「剣以外だと……防具とか?」
「ああ、お前の体格だと、魔獣の攻撃を一撃でも受けたら危険だが、重い装備を着て、動き回れる体力もないだろう。致命傷を避けられる軽い装備がいいな、雑貨屋のおやっさんの所でレザープレートでも見繕ってもらえ。」
「確かに、PGで重いものが持てるといっても、甲冑を着て動き回るのは無理があるか……。 」
甲冑を着た騎士になるのは、もう少し身体が成長したらにしよう。
「いっぱいに力を使う事には慣れただろ?細かいとこの調整は生活で身につけるしかないと思うぞ。」
しばらくは意識して生活するしかなさそうだな。
それにしてもこんな馬鹿力で振るったバスターソードだが、折れたり歪んだりもしていない。親父の腕前かバジルの技術か、俺の力加減がまともになったからでもある、上達が身に染みるっていうのはいいね。
そんなことを考えながら身体を起こす。
「俺は装備整えてくるけど、バジルはこの後どうする?」
「兵舎に戻ってあいつらの訓練をせねばな、休んでた分ハードなやつをな。」
可哀想だし、酒まであおっていた事は言わないでおくか。
バジルと別れたあと、俺は村の雑貨屋に向かった。
「おやっさん、いるかー。」
雑貨屋の店主は親父と同い年で裁縫から大工まで、手作りでなんでも器用にこなす。
何でも屋だ。街で仕入れた日用品以外にも、おやっさんが自作した商品が色々置いてある。
「……返事ないな、昼は過ぎてるから戻ってると思うんだけど。」
店に入り、中を見渡してみる。いないな。
適当な日用品に、革細工の雑貨や、衣料品……この村では儲けなんてほとんど出ないが、手作りの品を街のほうへと卸しているらしい。
丁寧な仕事をするらしいから、形まではこちらで作り、向こうで装飾を彫っているらしい。
おやっさんが装飾を彫らないのは、デザインセンスが壊滅しているからだそう。
警備団のやつらがレザープレートで個性を出したいときに、装飾を入れてほしいとお願いにくるらしいが、子供の落書きが彫られた装備を、壊れるまで着ることになったと聞いている。
「おやっさーん、アルだー。レザープレートが欲しいんだけどー。」
奥へと声をかけてみるが返事はない。
奥の作業していて集中しているのだろうか。工房への扉へ近づいて、耳を澄ませてみる。
「……何も聞こえない、か?」
俺の耳を信じるなら、この奥には誰もいないと思う。
都合のいい事しか聞き分けられない俺の耳を信じられるならね。
冗談はさておき、工房の戸を開けてみる。鍛冶場とどれくらい違うのか気になるし。
「入るぞ、おやっさーん。」
工房に入ると、驚いたことに、良い姿勢のまま机のほうを向いているおやっさんが居た。
集中力というのはこんなにも周囲の声が聞こえなくなるのか、親父も鉄を打っている時がこんな風に……いや、あれは叩く音がうるさすぎて聞こえないだけだったか。
「おやっさん、いくら集中していても返事くらい……。」
近づいて顔を覗き込むと、実に真剣な顔のまま目を閉じ、鼻提灯を作っていた。
どうすれば、こんな綺麗に作業中の姿勢で寝られるんだ。
朝起きたらベッドの下から出てきた、親父の寝相を少しは見習っていいと思う。
「刃物を持ったまま寝てたら危ないぞ。起きてくれ。」
「……。すぐできる、もう終わるから。」
目が覚めたと思ったら、まるで眠っていなかったかのような勢いで、そのまま手元の作業に戻ってしまった。
困惑とかそういうのないのだろうか。
「表で待ってるよ。」
邪魔しちゃ悪いしな、職人とはこういうものだと親父の背中を見ていて知っている。
俺は待っているあいだ、おやっさんに代わって店番をやることにした。
俺の商人としての才能が開花して、今月で一番の売り上げを稼ぐかもしれない。
そんなことを考えながら、小一時間ほど客足のない店を見守った。
「待たせたな。」
額に汗をにじませたおやっさんが工房から出てきた。
「この店、本当に人が来ないんだな。」
待っている間、客は来なかった。まあ小さな村だし、外から人が来ることもないもんな。
村に店を構えようってこと自体おかしなことだ。
「毎日用があるものは置いてないからな。工房のついでだよついで。客が少ない方が作業にも集中できるしな。」
客が少ない方がうれしそうなんて、商人が聞いたら卒倒しそうだな。
「ところで何の用なんだ?ジャムにプレゼントでも買いに来たか。」
「なんでそうなるんだよ……誕生日以外であいつにプレゼントなんて用意しないって。今日は、レザープレートが欲しくて来たんだ。」
それとプレゼントなら街まで買い物に出るよ、この店の装飾品の好みは人を選ぶからね。
そういえばジャムの髪留めってこの店で買ったものだったっけ。
それじゃあ、この店で買った方がいいのか?
「ふむ……お前用の装備ってことでいいのか?」
「そう、身体に合うものがあればそれが欲しいと思って。」
「普段なら採寸して一から準備したいが、急ぎなら……この少し大きめのでいいな。」
レザープレートを手に取りこちらの身体に合わせながら何かを見て頷いている。
これのワンサイズ小さいものでぴったりだろうに、なんで大きめなんだ?
「歳は17と言っても、筋肉や脂肪の付き具合でまだ大きくなる歳だ、親譲りなら身長だってもう少し伸びるだろう。レザープレートは何年か使うものだ、大きくて損はない。」
相変わらず俺は心の声が顔に出るらしい。
「なるほど、まだ成長を信じてくれる人がいて嬉しいよ。」
もう少し身長があれば、ジャムと並んだ時に見栄えが良くなるかもしれない。
......なんで俺はジャムの隣に立つことばかり考えているんだ?
「胴と腕、脛あてもいるな。手袋はそれがあるとして……その鞘、ベルトは?」
「まだだけど、腰に差そうかなと思ってる。」
「腰?お前の身長でバスターソードを腰に差せるわけないだろ。」
あまり舐めないでほしい、だいたい斜めに差すんだから足りるはず。
そう思い、腰にバスターソードを構えてみると、見事に地面に引きずる結果となった。
足の短さも遺伝なら親父を恨もうか。
「大人でも引きずる奴はいる、気にするな。背負えるようにつけてやるよ。」
慣れた手つきで鞘にベルトをつけると俺に巻いてくれた。
「おお、背中に背負うとデカい剣って感じがしていいかもしれない。」
早速、背負ったバスターソードを鞘から抜いてみようと、上へ引っ張ってみると。
「……あれ、こう、なんで。」
ぐっと鞘の真ん中の方に刃先が引っ掛かり、まったく剣を抜くことができなかった。
なんだ、腕も短いって言いたいのか。
「片手だけで引き抜こうとしたら、大人でも抜けないさ。剣と反対方向に鞘も引くんだ、鞘本体かベルトを引け。」
言われた通り、右手で剣を引っ張り上げ、左手は鞘を下の方へと引いてみると、不格好だが鞘から抜くことができた。
良かった、これ以上身体が小さい事で支障が起きたら、バスターソードを放り投げるところだった。
「腰に差したとしても、身体を開くようにして抜刀するはずだ。腕だけで剣は抜かないぞ?親父さんに習わなかったのか。」
親父は鍛冶馬鹿だから教えないし、俺も聞くタイミングなかったんだよ。
警備団の連中も抜刀が素早すぎて細かい所まで参考にならないし。
「まあいいさ、今後、物を作る職に就きたいなら、使い手のことを想像するのを忘れないようにな。」
そんなことを言いながらおやっさんは俺に、レザープレートをつけてくれた。
大きいとは感じたが、紐を縛ればそうでもない。
「動きづらくはなさそうだ、剣の抜き方も、ありがとな。」
「いいさ、代金はしっかりいただくからな。レザープレートにベルト、ベルトに付けるポーチとおまけで、金貨2枚いただこうか。」
「おい!2枚はぼったくりだろ!色付けても1枚くらいのはず。」
「着付けに指導、手入れの方法と道具もつけてやる。ポーチには怪我用に包帯と消毒アルコールだ、これでも1枚か?」
「そ、そんなに?というか、おまけに色々含まれすぎなんだよ!!!」
相場を知らないが、きっと適正価格なのだろう。
払うものにはしっかりと対価を払う。親父からも女将さんからもよく聞かされてるよ。
「おまけを付けるよ喜ばれると、スムージから聞いたんだけどな。」
「女将さんがつけてくれるおまけはタダなの!有料のおまけはただの商品の押し売りだ、今回は助かるけど……」
「ふむ……商売は難しいな。」
誰かこの人に店なんか開かせたんだ。普段はまともに経営できているのか?
「はあ……とにかくありがとう。手入れの道具はあとで取りに来るよ。」
「今じゃないのか?わかったぞ、その恰好を見せたいんだろう、ジャムに。」
見当違いな事を言ってくるおやっさんに冷たい視線を送りつつ、これまでの経緯を改めて説明した。
「へえ、その手袋がね。バスターソードは似合わないだろと思っていたが……。」
そういいながら、俺の手を掴んで、PGを夢中で眺めている。
いい歳したおじさんに手を握られる趣味はないから離してほしい。
「仕組みは全くわからないな……内側に魔術の何かが刻印されているなら、俺みたいな職人が手伝っている気がする。ふむ、今度作ることがあれば頼んでくれないかなあ……。」
おやっさんは子供のように目を輝かせて手袋に視線を送っている。
このままここにいると片方置いて行けとか言われそうだ。
「何から何までありがとさん。これで準備はできたし、俺は妖精の囁きに顔出してくるよ。」
「おう、道具を持ち帰りに来るの忘れるなよ。また奥で作業していると思うから、勝手に持って行ってくれ。」
この店がつぶれないのが不思議なくらい不用心だ。
きっと、村人の良心に支えられているのだろう。
「あと、レザーに装飾を彫りたくなったら俺に頼めよな!」
商品のレザーアクセに彫られている何かしらの動物模様を見てもなお、おやっさんに装飾を頼むのはジャムくらいだろう。
俺はしばらく無地で行かせてもらうよ。
商売熱心の方向性がズレたおやっさんを無視して、妖精の囁きへ向かった。待ってろジャム、お前の騎士が今行くからな。
バジルと遊んで汗をかいたせいか、今日の俺は風邪をひいているらしい。
アル : 主人公
ジャム : 宿屋『妖精の囁き』の娘
スムージ: 宿屋『妖精の囁き』の女将
バジル : 村の警備団 団長




