警備団長と戦い方
「おーい、バジルいるかー!」
二本の剣を抱えて警備団の兵舎を訪ねた。人はいるものの、バジルは見当たらない。
「アル!武器の納品なら俺たちが受け取るぞ?」
休憩中の連中が対応してくれた。酒瓶が並んでいるが、さぼってるわけじゃないんだよね?
「これバジルの剣だから直接渡すよ、用もあるし。バスターソードの鞘ってある?」
「そこにぶら下がってるやつだな、一番デカいの。誰かバスターソードでも使うのか?バジルが一度、屈強な男にはデカい武器が似合う、とか言って振り回して肩外して以来誰も使うバカはいなくなったと思ったが。」
うぐっ、どうやら俺のセンスは、あの魔獣もどきと同レベルらしい。
自分のセンスに自信が無くなってきた。
「あはは……バジルはここじゃないってことは、いつものところか?」
「ああそうだ、木剣を振り回しに行ったよ。あいつには剣先以外もよく見ろって言っておいてくれ、脱いだ下着が散らかってるし臭うんだバカってな。」
兵舎で過ごす皆さんはご愁傷様。
あの男の洗ってない下着が散らばってるなんて、獄中の囚人でももっといい暮らしができているはずだ。
兵舎近くの林を見渡す。少し離れたところから、何かを叩くような音が聞こえてくる。
音の方へと近づいて木陰から覗くと、大男が大木に向かって木剣を振り回している姿があった。
右上から左下へ振り下ろし、刃を水平に切り替え一文字に振り抜く。
一度離れて、鍔迫り合いの形、押し合いで上へ弾くと空いた中段に蹴り。
俺でも立ち合いの内容がわかるってことは、あえてゆっくり動いているらしい。
大木相手なのに、敵の姿が浮かんでくるほど綺麗な動きだ。
普段からこの姿を見せていればレディの黄色い声が絶えない騎士様だろうに、正体は自分の下着も洗えず、おかずの最後の一口を奪うために噛みつきも辞さない魔獣もどきだ。
「せやぁあ!あぁっ!?」
強烈な横回転切りと同時に、木剣が派手に砕け折れる。
いくら大木を叩いているとはいえ、そうそう折れるような代物ではないのだけど……本当に人間なんだろうか。
「おーい、バジル。林で変な声を出していると魔獣が出たと思われるぞ。」
「アルか……親父さんに謝っておいてくれ、木剣をまた折ってしまったと。」
汗だくだな、それほど集中していたんだろう。で、その汗の染みた服は自分で洗うんだろうな?
「親父は何とも思ないさ、木剣は折れるものだって言ってたし。」
砕け散るとは言ってないけど。
「木剣はそうだが、ロングソードを折ってしまったのは謝りたいな、俺の技術不足だ。」
「おいおい、デモンベアの攻撃を受ければ甲冑だってひしゃげるんだぜ?ロングソードだって折れても仕方ないんじゃ。」
デモンベアはクマに似ている魔獣だ、人間の倍はある体躯に鋭い爪や牙を持っている。大木だって嚙み砕くだろう。俺のパワーグローブといい勝負だろう。
「いくら重く、力が強かろうと受け流す技術があれば剣は折れない。あの時の俺にはそれができなかった。」
受け流すというのは聞いたことあるし見たこともある、デモンベアのようなサイズでは無理があるんじゃないだろうか……ドラゴンの攻撃を受け流せなかった時も、己の技術不足だって言うんだろうな。
「バジルならきっとできるよ、ほら、新しいロングソードだ。」
「おお、やっとか!この前の魔獣と戦った時は予備もなくてな。」
慣れた様子で剣を腰に据えると鞘から抜き、恍惚とした表情で眺めている。こいつは女の子よりも剣が好きなのかもしれない。
一緒に寝たりしてないだろうな?
「ありがとう、これでまた戦えるよ。ところでそのバスターソードは誰の剣なんだ?うちにはバスターソードを使うやつはいなかったはずだが。」
うちの村の警備団は技術重視だからな、こんな大物を振り回す奴はいない。
「俺のだ。」
「ああ、自室に飾るんだな。親父さんの剣はかっこいいもんな。」
自分もやっているかのような笑顔だ、俺がバスターソードを振るなんて言うのは想像もしていないらしい。
「俺が、この剣を持って、戦うんだよ!」
「お前の筋肉量でどうやってバスターソードなんか扱うんだ、ショートソードないしレイピアが限界だろうが!」
間違ってはないが馬鹿にしすぎじゃあないか?
ロングソードくらい、まあ、振るだけなら、できるよ。
「仕方ない、見せてやろう!」
俺は鞘からバスターソードを抜くと、バジルが木剣で叩いていた大木に向かって、横水平に斬りかかった。
パワーグローブの力は俺の想像も軽く超えており、バターのようにとはいかなかったが、荒い切り口で大木を切り倒してしまうほどだった。
さすがにやりすぎた気がする。
焦りながらも、どうだと自慢げな顔をバジルのほうへ向けると、俺の頭に魔獣のげんこつが落ちてきた。
これに並ぶ女将さんのげんこつはすごいなあ……。
「そんな斬り方したら刃こぼれするだろうが!!!」
俺がバスターソードを振り回したり、大木を斬り砕いたことよりも、バスターソードの刃こぼれを怒られた。
いい剣士だねバジルは。
「どういう馬鹿力してんだお前は!?」
怒ったり驚いたり忙しい奴だ、そっちの反応を待っていたわけだけど。
バジルには親父に話した事と同じ内容を伝えた。
「つまりは、森に出たいから剣術の特訓とその馬鹿力の加減を覚えたいわけだな?」
「簡潔にまとめるとそう。」
細かいところは気にせず、目的だけはっきりと認識してくれた。
こういうのは警備団長として必要な能力なんだろうな。
「馬鹿力の加減はお前が頑張るしかないな。ずっと付けてればいずれ慣れるだろう。剣術に関しては……。」
バジルは少し悩む様子を見せると思いついたのか鞘に納めたままの剣を構えた。
「俺と模擬戦だ、手っ取り早くな!」
「はあ!?危ないだろ、木剣じゃあないんだぞ?」
「木剣じゃなくても、お前相手なら怪我はしない。革鞘だから鞘が砕けることもない。全部受け流してやるから、刃こぼれや剣の心配もしなくていい。その馬鹿力でぶつけてこい。」
少し馬鹿にしたような笑みは浮かべているものの、目は真剣そのものだ。
「バジルに挑むなんて、ガキの頃以来だな。」
あの頃は遊びだったし片手でいなされたっけな、身長も伸びたしこの馬鹿力だ、今日は怪我しない程度にき飛ばしてやろう!
俺は上段にバスターソードを構える。
バジルが大木相手にしていた動きの再現だ。
「うおぉ!!」
右上から左下への振り下ろし。バジル、お前の動きなら強い動きなんだろうこれが!
「雑っ!」
剣同士をぶつけ合うと、力の流れに逆らわず振り下ろしきる。
イメージのまま、水平に振り抜こうとしたところで、バジルが身体をこちらにぶつけるほど、間合いを詰める。
あれ、腕を振り抜くスペースがない!?
「これで一本だな?」
俺が剣の行く先に困っている間に、胴体に剣を添えられていた。完敗だ。
「俺、馬鹿力だったよな?普通に受け流されたし、近づかれた後、剣が振れなかったんだけど。」
「振れなかったのは剣じゃない、腕だ。お前の初撃を受け流したのは俺の技術だが、俺に剣を受け流されたあと、流れのまま剣を振り抜いただろう。それで身体が開いて次に腕を振るためにタメが必要になったんだ。」
バジルは目の前で動きを見せながら教えてくれる。
確かに、バジルに流された俺の剣はそのまま外まで流れた。
「その身体が開いた時にコチラの身体を押し込むと、俺の身体でお前が腕を振るスペースが無くなるわけだ。」
何となく理解はできた。
「バスターソードにはリーチがあるが、重さもある。剣を流したり弾けば動きに逆らいづらいんだ。まあ、狙い撃ちしたところはあるが、理解せず俺の動きを真似たところが敗因だな。」
にやにやとコチラを見てくる。くそ、バレてたのか。
「はいはい、そもそも馬鹿力で振り下ろした剣を受け流したお前がすごいですよー。」
「それはそうだが、バスターソードと馬鹿力の運用方法としては間違ってないと思うぞ。」
「どういう意味だよ。」
「お前は剣術として俺の動きを真似したんだろうが、理解していない動きを真似をしたから隙が生まれた。だから、ただ力がある奴として動くんだよ。」
うーむ、何も理解できない。つまりどういうことだ?
「さっき大木を両断しただろ?あれは、斬れたんじゃあなく、砕いたに近い。斬るよりも、叩くイメージだ。斧みたいに叩きつける!そうすれば、そのグローブの馬鹿力がフルパワーで乗っかる。受け流しも容易じゃなくなる、恐らくそこらの武器なら砕けちまうだろうな!」
なるほど、それなら俺はもう大振りで力のまま、重いバスターソードを振り回すだけでいいのか……言葉にするとすごく格好悪い。
「魔女?の手伝いにはすぐ参加したいんだろ。それなら、剣術の訓練よりも、重いものを振り回す練習の方が早いだろ?」
戦う事に関してはこんなにも頭が回る。やっぱり人に長所はあるもんだ。
「わかったよ、ちょっとカッコ悪いけどその案でいく。考えてくれてありがとな。」
「おう、いいってことよ。デモンベア戦の為の馬鹿力対策にもなったしな!」
「人相手に魔獣対策かよ!」
まあ、パワーグローブの事を考えると間違ってはいないのか。
オーガ並みのパワーが出るらしいし。オーガとデモンベアはどっちの方が力が強いんだろう。
「よし、暫く特訓に付き合ってやるよ。振り回すだけだから、今日中にコツもわかるだろう。」
「絶対にお前が度肝を抜かす必殺技を考えてやる……。」
ひとまずは、立ち合い中に、お前の下着が臭すぎると大声で叫ぶ戦術が有効か試してみよう!




