親父とバスターソード
「ただいまー。」
魔術師の弟子となった俺は、お手伝いの装備を整えるために自宅へと帰ってきた。
「返事は無し......親父はもう鍛冶場かな。」
皿を壊した罰のげんこつと、世界一の朝食を持って、自宅近くの鍛冶場を覗いてみる。
炉を使う時期は終わっているので、片付けと点検をやっているはずだ。
パンケーキに多少灰がかぶっても親父は気にしないだろう。
「おーい、ただいま親父。」
「おう、帰ったか、アル。先月の最後の方、炉の調子悪かったろ。奥の方が崩れてやがったよ。今月中に直さないとな。」
日が昇って間もないというのに親父は灰まみれで黒くなっている。きっと炉の中に潜っていたんだろう。
「朝食もらって来た、昼までに食べろよな。あと、炉の点検終わったら一緒に食器を作ってくれ……。」
「なんだよ突然、妖精の囁きの食器なら最近作ってやらなかったか。」
「壊したんだよ、俺が。そりゃもう粉々に砕いちまった。」
「お前も優しくなったもんだな、ジャムの失敗を庇ってやるなんて。俺は怒鳴ったりげんこつ落とさないから素直に謝りに来いって言っとけ。」
信じてもらえないとは、親父の中でジャムはまだまだ小さいお子様の姿らしい。
もしや、砕いたって所が信じてもらえてないのか?
「見せた方がはやいか……。」
薪を一つ手に取り、あの金貨の時のように、握り砕いて見せる。
後で薪割りしなきゃな。
「っ!?おいっ!手は大丈夫なのかアル!!!」
親父は砕けた薪には目もくれず、俺の腕をつかんで引き寄せる。予想外に心配されて少し恥ずかしい。
「だ、大丈夫だって、説明するからとりあえず離してくれよ。」
「ああ、聞いてやる。お前の筋肉じゃありえないからな。」
心配するのか貶すのかどっちかにしてくれ。
俺は今朝からの出来事を親父に話した。
荷物運びで出会った心を読む魔女と、
そいつに手伝いを頼まれた事、
パワーグローブというマジックアイテムをもらった事、
そのグローブで皿を壊した事、
ジャムがその様子を見て俺に触るなって怯えられた事。
最後のはいらなかったかも。
「村から出した救助依頼がやっと王都に届いたのか、それにしても王国お抱えの魔術師とはな、めったに会えるもんじゃないぞ。」
だろうね、魔術師ですら会える機会なんて人生で数度くらいなんじゃないだろうか。
「というわけで、皿を作った後、うちの商品から剣を買いたいんだけど。」
「……むう。」
やけに難しい顔をしている。仕事中以外は冗談言いながら笑ってる親父にしては珍しい表情だ。
「一人の親としては、成人手前の一人息子が魔獣の前に立つかもしれないというのは、簡単に納得できない。そのグローブだって俺は危険だと感じている。」
真面目な表情でこちらと目を合わせてくる。
せめて顔が灰まみれじゃなければ今の話に感動できたかもしれない。
「剣もそうだが、そのグローブも、簡単に色々なものを傷つけられる代物だ。少しの訓練も無く危険なものを持ち、危険な場所に立つっていうのはなあ……。」
腕を組みうんうん唸っている。
俺がジャムへの誕生日プレゼントを相談した時と同じくらい唸っているねこれは。
親父は俺に甘い。
昔からやりたいと伝えたことはやらせてもらえたし、欲しいと言えば叶えようとしてくれた。
もちろん基本的には俺が努力を怠らないことを前提にだけど、今も行かせてやりたいという気持ちが見え隠れしている。
だけど、親父の心配はもっともだ。安心させてやるためにも、一つ提案してみよう。
「親父の言いたい事はわかるよ、俺も少し考え無しだった。グローブでうっかり皿を壊しちゃったし、特訓は必要だろうな。じゃあ、警備団のところで剣の訓練と一緒にグローブの力加減も特訓するのはどう?バジルの奴が森へ出ていいって言うなら、親父も安心だろ!」
警備団の簡単な訓練なら、混ざったこともあるし、俺の秘めたる実力を見せるときが来たのかもしれない。
「……いいだろう。次に皿を壊したらそのグローブを返すって約束をするなら。ここの剣を一本やろう!ところでそのグローブ、仕事にも役立ちそうだなあ?」
どうやら剣はくれるらしい、金貨一枚分は浮いたね。
代わりに仕事を手伝えと目が言っている。俺も思考を読めるようになったのかもしれない。
これでこそ弟子だね。
親父の許可を得たので、うちにある剣を物色してみる。
ショートソード、ロングソード、バスターソード、レイピア、ナイフ……刃のある武器だけでも種類が多い、メイスやハルバートとかも視野に入れるべきだろうか。
「ハルバートやランスはないな、付き人としてなら邪魔だろう。腕力を活かすと考えるとロングソードかバスターソードだと思うぞ。他は刃が耐えられない。」
俺と同じ腕組みポーズで親父が並んできた。
確かにこの馬鹿力を活かすなら重量のある武器が良いかもしれない。
「警備団にはロングソードが多いし同じにするか、でもバスターソードの大きさも魅力的なんだよなあ……。」
大剣を軽々と振り回す豪傑、あれなら大木でも切り倒せるんじゃなかろうか。
「ロングソードは技術がいる、パワーはあるが技術が未熟なお前ならバスターソードがいいかもしれない。」
親父の的確なアドバイスは俺を傷つけた。
「じゃあそうするよ。鞘ってうちに置いてあったっけ。」
「バスターソードの鞘は無いな。警備団の兵舎にはあったはずだ、ちょうど納品するものがあったはずだ、そこのロングソードと交換でもらってくるといい。」
「了解、親父の作った剣を砕かないように気を付けるよ!」
「俺の剣はバカ息子が触っても壊れないようにできてんだよ! いってこい!」
親父に笑顔で感謝しつつ俺のバスターソードと納品するロングソードを小脇に抱えて走り出す。
このグローブがあればバジルとの訓練も余裕だろうし、今日中に準備が整いそうだ!
魔術師の弟子、怪力剣士、うんうん。おとぎ話に出てきても恥ずかしくないのではなかろうか。
「あ、皿を作り忘れた。」
今日はもうしばらく宿屋には近づけ無さそうだ。




