魔術師の弟子と砕けたお皿
「弟子入りってことは、俺に魔術の才能が?」
おお、神々よ、この俺に恵みを与え過ぎじゃないかな。
顔も良くて親切で賢い、魔術まで使えるとなると。おとぎ話の英雄も目じゃないね。
「それはナイ。」
おお、神々よ、もう少し俺に何かくれてもいいんじゃないか。親父に鍛冶の仕事を継がせられないかもと言われているんだ。
親切心だけじゃ食っていけないんだぜ。
「弟子と言った方が、君が喜ぶと思ってネ。ここにいる間の、体のいいお手伝いサ。」
お手伝いね、小さい身体だと高い所のモノを取るとか不便だろうし、手伝ってやるか。
と、冗談はおいておくとして、そんな単純なお手伝いではないのだろう。
なんせ、魔術師のお手伝いだからね。魔術の実験とかするのだろうか、一つくらい教えてくれたっていいよな?
「イヒ……まあ、何だろうと引き受けてくれるなら報酬も、魔術師の弟子らしい体験も保証するヨ。」
笑い方にも慣れてきたし、魔術師の弟子になるのもいいかもしれない。
「引き受けてもらえそうだネ。君には私の護衛と、まあ付き人かナ。」
護衛ね、絶えず魔獣が出るこの村は安全とは言えないものな。ところで魔術師の付き人って少年心をくすぐるポジションだと思わないか?
「そう、この村は安全じゃなイ。それの解決も私の仕事なのサ。」
なるほど、村が安全になるっていうなら大歓迎だ。
普段過ごしてて、魔獣に怯えていないわけじゃない。
この前も警備団長のバジルが魔獣に腕を噛みつかれたから魔獣に噛みつき返していたし。
この場合、どっちが魔獣なんだ?
そんなことより、ただの少年に警護を頼むのは、相手が間違っていると思うんだけど。
「イヒ……ちょっと便利なコマがほしくてネ。安心して、大人顔負けになるようなマジックアイテムを授けよウ!」
どれだけ俺の期待に応えるんだお師匠様は!
「君のような非力な者のために用意されたマジックアイテム……『パワーグローブ』ダ!」
革製の手袋を元気よく掲げている。
どこから取り出したのかは気にしないとして、見たところ普通の手袋に見える。鍛冶の時に使う手袋に似て分厚いかな。
渡されたので、とりあえず両手にはめてみる。驚くことにサイズはぴったり、いや、ぴったりになったというのが正しい。
手が大きくなったり、光ったりはしないね......今のところは。
「イヒ……見た目に変化がない所は残念だろうけド。これを握ってみるとイイ。」
ピンっと空中に金貨が弾かれたのでそれを掴んでみる。
ぐにゃっと手の中で潰れる感触があった。いやいや、まさかね?
恐る恐る、手の中を覗くと、金貨はひしゃげてしまっている。普段の俺の握力だとこんなことにはならないので、パワーグローブの効果は絶大だ。
でも、お試しなら金貨を使わないでくれるかな!?ジャム、やっぱりお偉いさんは金銭感覚が違うらしい。
「詳しい説明は面倒だしやめておくヨ。魔力を込めるとオーガ並みのパワーになるんダ。握力はもちろんだが、腕力も君の想像以上になっているはずダ。あそこのカワイイ看板娘なら、片手で放り投げられるだろうサ。ただ君には魔力を感じないから……私が毎朝込めるとしよウ。」
しれっと魔力がないことが分かった。
才能どころかスタートラインにも立っていなかったようだ。
夢を立派な騎士になることに変えようか。
ジャムに仕えてお姫様とか言ってやると喜ぶかな……俺は何を考えているんだ。
「さて、魔獣とも戦う可能性があるからネ。他にも準備するものがあるだろウ……これくらいでいいかナ?」
金貨を三枚差し出される。妖精の囁きにひと月飯付きで泊まっておつりが出るのだけど、俺を本当に騎士にしてしまうつもりなのだろうか。
「イヒ……お前さんの親父が作る剣がそれくらいの価値なんだろウ?余らせたら甲冑でも買えばいいサ。」
なるほど、それなら納得のいく金額だ。親父が俺に剣を売ってくれるかは別の話だけど。
「長旅だったから、今日は一日休んでおくヨ。明日までに揃えられたら、一緒に森へでようカ。」
王都から来たっていうなら休んでしかるべきだろう。
ひと月近くはかかったんじゃないだろうか。魔術師なら空でも飛べばいいのに、ひと月荷台で揺られ続けるなんてどんな拷問だろう。
「じゃあ、私は朝食の続きを楽しむかラ。格好よくおめかししてくるんだヨ。」
一通り話が済んだのか、お預けされていたパンケーキをこれでもかと口に詰め込んでいる。
流石におあずけがすぎたかな。
「いってくるよ。夕飯の時にも顔を出すから、それまでに用があればジャムに伝言を頼んでくれ。」
さて、剣に鞘、冒険者っぽくレザーの防具もいいかもな。
ポーチも付けて、余るなら靴も新調したい!
自分の新しい姿を想像しながら立ち上がり、空になった皿とカップを片付けようと持ち上げたとたん、バキッと砕いてしまった。
いくら木製とはいえ、パワーグローブの名に恥じない活躍だね。
俺の魔術師の弟子としての初仕事は謝罪と皿作りから始まりそうだ。




