7話「聖なる女と穏やかな場所」
「ではここで身を清めてくださいね」
「はい……」
色々あって、気づけば王城へ足を踏み入れていた。
今は言われた通り身を清めているところ。
周りには数人の女性使用人がいる。
彼女たちは流れるような動きですべきことを順にこなしていっている。
「この後、聖女かどうかを確かめさせていただきます」
「どのようなやり方ですか?」
「まずは聖者のもとへ行っていただきます。そしてそこで数名の聖者に貴女が聖女かどうかを確認してもらってください。彼らは聖女を見分ける能力を有しています」
「そうですか……」
「安心してください、怖いことや痛いことはありませんので」
次の部屋へ進む直前、ふと不安になって、近くにいた女性使用人に「私は何の才能も持っていない普通の女ですけど……本当に、それでも、聖女の可能性があるのでしょうか……」と話しかけてしまった。
この胸にある不安を最後まで一人で抱えきることはできなかった。
知り合いでなくてもいいから、ただそこにいただけの人でもいいから、この不安を誰かに聞いてほしかった。
「聖女は魔女とは違います。大抵目に見えて分かる力を持っていらっしゃるわけではないと聞いていますよ。ですから、貴女が普通の女だと思っていらっしゃったとしても問題ないと思います。……あと、これはあくまで個人的な印象ですが、ご自分の力や才能をやたらと強調してくる者の方が怪しいですね」
話しかけた女性はそんな風に返してくれた。
淡々とした調子ではあったけれどそこに毒はなかったので嬉しさを感じた。
思いきって家を出て、偶然王子に出会って、気づけば王城へ。
急展開過ぎて意味が分からない。
でもそれが運命ならそれでいい。
定めという流れがあるなら敢えて抗う必要はないだろう、今はただ前だけを見つめて進んでゆけばそれが最善であるはず。
――そして私は『聖女』であると認められた。
「やはり聖女でしたね」
「はい……」
ヴェガウンディの勘は間違っていなかった。
「アズリーさん、でしたね」
「そうです」
「これからよろしくお願いしますね」
「ど、どういうことです?」
「貴女にはこれからこの国のために生きていただくこととなります」
思わず「ええっ!?」とこぼしてしまう。
「驚かせてすみません。ですが言葉の通り。極めてシンプルな話なのです。この国がいつまでも穏やかであるためには聖女の力が必要なのですよ」
さらりとした短めの金髪が印象的なヴェガウンディは落ち着いた様子で述べた。
「では私はどうなって……?」
「今後は王城で暮らしていただきます」
「お、王城、で!?」
「そしていずれは……いえ、これはまだ言うべきではないですね、失礼しました。詳しいことは今後徐々に話していけたらと」
こうして私は王城で暮らすこととなったのだった。
王城で暮らすようになってから数週間くらいが経った頃、三女――つまりルルではない方の妹リシリーがルルの元婚約者であるアレフレットと深い仲になっていてそれが明るみに出てしまったために揉め事になった、という話が耳に飛び込んできた。
それによってアレフレットは相手女性から婚約破棄を言い渡されてしまい、慰謝料も支払わされてしまったそう。
そしてリシリーもまた慰謝料を支払わなくてはならないこととなってしまったそうだ。
婚約者がいるにもかかわらずリシリーに手を出したアレフレット。
婚約者がいるアレフレットに自制せずすり寄っていったリシリー。
どちらも悪い。
だからお金を取られても仕方がない。
被害者はアレフレットの婚約者だった女性だけなのだから。
私は王城にて平和に暮らしている。
「アズリーさん、今日は海でも見に行きませんか?」
「え、私とですか」
「どうでしょう?」
「海は好きです」
「では行きましょうよ! ……といっても、高台から海の方角を眺めるだけですけど」
ここには敵意を向けてくる者はいない。
なので非常に快適な環境だ。
「素敵ですね、ぜひ」
明日のことは分からないけれど、今はそれでも構わない。
穏やかな場所で過ごせる時間を大切にしたい。




