5話「まさか、ね」
新たな婚約者デートルは非常に失礼な言葉を軽い気持ちで吐いてくる男性だった。
「あんた、いっつもダサいなぁ」
「そういうことを言うのはやめてほしいです」
「ええやんべつに。ほんまのことやねんから。好きなこと好きなように言わせてや、なぁ」
彼はたびたびさらりと心ないことを言ってくる。なのでどうしても好きになれない。婚約したことは事実だが、それでも、私にとって彼は不快な存在のままだ。彼がその自己中心的な行動を変えてくれない限り、私の中の彼の印象は改善しないだろう。
「アズリーが淹れてくれたん? この茶ぁ」
「はい」
「じゃあ飲むわ……って、うわ! 美味しない! ……はー、なんでこんな美味しない茶ぁ淹れるん? 意味不明すぎやわ」
「そう、ですか……」
「あんた茶ぁ淹れるん向いてへんわ」
「すみません……」
「あんたホンマ何の才能もないなぁ」
少しは言い方を考えてくれないだろうか。
何度もそう言いたかった。
でも言えなかった。
ここで何かを言ったとしてもきっと軽くかわされてしまうだけだろうな、と一度思ってしまうと、どうしても言いたいことが上手く言えない。
こんな人を紹介してくる両親が嫌いすぎる……。
「これ、アズリーのコップ?」
「そうです」
「うわダッサ。ははは! おもろいセンスやなぁ、ホンマに。こんなコップで茶ぁ飲めるん? ホンマに? うわきっつぅー」
叶うならデートルとはすぐに離れたい。
でもできない。
親から紹介されたという鎖があるから。
ただ、一緒にいればいるほどに嫌いになっていくから、彼と幸せになる未来は欠片ほども想像できない。
「デートルさん、どうしていつもそんな風に嫌なことを言うのですか?」
「理由なんかないわ。おれは思ったことを言ってるだけや。全部本心やねん、いーとか悪いとかやなくて。他人よりちょっとストレートなだけや」
「傷つきます」
「知らんわ」
「本当に……いつも傷ついているんです。もう少し言葉をマイルドにしてくれませんか? そうでないと、デートルさんとはやっていけません」
デートルはこちらに向けて数回唾を飛ばしてから「なんでそんな偉そうなん」と真顔で言ってきた。
「あんた、前、婚約破棄されたんやろ? そんな女拾ったったんやから、あんたはおれに感謝せなあかん。そんな小さいことで文句言うなや。一生独り身とか嫌やろ? 忠実にしときや」
そんな会話をした翌朝、デートルは自室で亡くなっていた。
当然私は何もしていない。しかし彼は勝手にこの世を去った。自ら命を絶った、というわけではなかったようだが。まるで天罰が下ったかのように、彼はあっさりとその生涯を終えた。
(天罰……って、まさか……ううん、そんなはずない。……まさか、ね)
その時私は思い出した。
『貴女を傷つける者を私は許しません。ですから安心して。貴女を傷つけた者たちにはやがて天罰が下るでしょう』
かつて一度だけ対面した女神が言っていたことを。
(思えば、私に嫌な思いをさせた人が、命を落とすことが多くあった。でもそんなことあるわけがない……天罰なんて、そんな非現実的なこと……)
デートルが亡くなったことによって彼との婚約は破棄となった。
父からは「お前はまるで死神だな」と毒を吐かれた。
母からは「気味が悪いわ。貴女みたいなのが娘だなんて、想像するだけでぞっとする。その青い髪だって不気味なのよ」と嫌みを言われた。
そうして家に居づらくなっていた、ある日のこと。
「お姉さま、いつまでここで過ごされるんですの?」
次女であるルルがそんな風に尋ねてきた。
「え……そ、それは、ちょっと分からないわ」
「早くお嫁に行ってくれませんこと? 行き遅れの姉がいると迷惑ですの」
「……それはごめん」
「謝って済む問題ではないですわ。お姉さまの存在がわたくしの価値を下げていることを理解なさっているのかしら」
ルルは何やら好戦的。
「いい加減、さっさと結婚してくださる?」
次から次へと言葉を吐き出してくる。
「それが無理なら山奥に引っ越してちょうだい」
向けられた視線はかなり鋭かった。
「ほーんと、貴女みたいな姉って、いても迷惑なだけですの」




