2話「数少ない友人」
聖女だなんだという話のせいで友人が少ない私だけれど、それでも仲良くしてくれている人はいる。
茶色のショートヘア、くりくりした目、太陽のように明るい顔つき――元気いっぱい、という言葉が似合う、そんな彼女の名はネイ。
「そうなんだ!? バーンさん亡くなっちゃったの!? えええー、って感じだねそれは……びっくりしたよー」
「ええ、そうなの」
「でもさ、ま、良かったんじゃない? アズリーに酷いこと言うような人だし。早めに離れられて良かったんじゃないかなってあたしは思うよ!」
ネイとは五歳くらいの時に出会った。
今は二十歳なのでもう十五年くらい前のことか。
その時から彼女は明るかった。
「励ましてくれてありがとう」
「どういたしましてー」
今日もそうしているように、彼女とはたびたび二人きりのお茶会を開いている。
向こうが愚痴を言う回もあれば。こちらが悩みを聞いてもらう回もあり。お互い言いたいことを言い合える関係なので、他では言いづらいような話題であってもここでなら出すことができる。
「ネイの婚約者さんは?」
「元気だよ」
「それなら良かった、安心したわ」
私たちの絆は確かなもの。
証拠があるわけではなくても。
これまでの日々があるから信じられる。
「順調だよ~。彼、すっごく優しくて。めちゃ愛されてるーって感じるんだ。……って、あ! ごめん! 今日するべき話じゃなかったよね!? ごめん!!」
「気にしないで、話を聞けるだけで嬉しいし」
「ほんと!? えーっ、優しいー! 自慢とか思われたら嫌だなって思ったんだけど、そういえばアズリーってそんな面倒臭い女の子じゃなかったよね」
この先もずっと仲良しでいられればいいな。
そんな風に思えるのは彼女がどこまでも明るい性格だから。
「ねえ、ネイ」
「なーに?」
「私たち……これから先もずっと、仲良しでいましょうね」
言えば、彼女は向日葵のように笑った。
「うん! もちろんだよ!」
この笑顔に何度救われてきたことか。
「結婚してもお茶会は続けるからね!」
「ありがとう」
「んもー! アズリーったら可愛い! 大好き大好き!」
女の友情は脆い、なんて言われるけれど、案外そんなことはないよ――そう思っていた、のに。
「アズリー、あたしの婚約者にお金借りようとするのやめてよ」
ある日突然そんなことを言われてしまった。
「な……に……?」
いきなりやって来たネイがそんなことを言い出したものだから驚きやら何やらで脳の動きが一瞬止まってしまう。
「だからさ! カインが言ってんの! アズリーが迫ってきてお金貸してくれってことばっかり言ってくるって!」
ネイは見たことがないくらい怒っていた。
「知らないわ」
「嘘つき!!」
「本当に知らないのよ! 心当たりがないの!」
するとネイは呆れたように「アズリーがこんな悪女だなんて知らなかったよ。あたしずっと騙されてたんだね。あーあ、がっかり」と吐き捨てる。
「友人の婚約者に借金しようとする女とかあり得ない」
「私じゃないわ」
「嘘でしょ」
「本当よ!」
「だったら何? カインが嘘ついてるってそう言いたいの? ああそっか。自分は捨てられたから、あたしにもおんなじようになってほしいんだ。それで余計なことしてきてるんだね、あたしとカインの関係が壊れるように。最低女!」
何度も否定したけれど信じてもらえなかった。
だがその数日後にカインが嘘をついていたことが判明する。
彼は少し前からある女性と定期的に会っており、その女性にたびたびお金を貸していたようだ。で、そのことについてネイから問い詰められた際反射的に「アズリーさんから金を借りたいって迫られて……君の友人だから、断れなくて……ごめん」と嘘をついたようで。
それによってあんなおかしな話が出てきた、ということだったようである。
「ごめん、嘘ついてたのはカインだったんだ……」
「私の言葉、今なら信じてくれる?」
「うん。本当にごめん。悪いこと言っちゃった。でもあたし、カインが浮気してるなんて夢にも思ってなくて……だから、カインのこと信じてたんだ。カインが嘘つくはずない、って、そう思ってた……だからアズリーが嘘ついてごまかしてるんだって決めつけて……ごめんね」
数少ない友人に誤解されたままというのは辛いものがある。
だから分かってもらえて良かった。
アズリーは友人の婚約者から金を借りようとするような女ではない、そこだけ分かってもらえたならもうそれで十分だ。




