18話「たまには気分転換も」
結婚式から一週間ほどが経った。
私は今とても忙しい。
しかし私だけがというわけではなく。
夫婦となった二人で揃って挨拶に行かなくてはならない場所が多くあるので必然的に用事が増えてしまっている、ということである。
「次はどこでしたっけ……」
「大丈夫ですか? ヴェガウンディさん、お疲れみたいですけど」
「あ、いや、平気」
「なら良かったですけど……もしお辛いなら仰ってくださいね」
ヴェガウンディは心なしか疲れたような面持ちだ。
「今夜の予定、一つ減らします?」
「いや、それは駄目です」
「無理しないでくださいね」
「はい」
彼も人だ、時には疲れることもあるだろう。だがそれも長い人生の一コマで。そういう瞬間もあって当然だ。どんな長雨もいつかは止む、そう言われるように、憂鬱な時間もいずれは通り過ぎる。それゆえ過剰に気にすることはない。
……とはいえ、やはり、隣にいる人が疲れた顔をしていれば気になってはしまうものだ。
「ダジャレ対決しませんか?」
ふと思い立って提案してみた。
「え」
困惑したような顔をするヴェガウンディ。
「ずっと前……海を見に行った帰り道、ヴェガウンディさんがそんな風に言ってくださって」
「あ、ありましたね」
「それで、お互いよく分からないダジャレを言い合って、戸惑いつつも楽しかったことを覚えていましたので」
あれはまだヴェガウンディのことをそんなに知らなかった頃の記憶だ。
けれども今も確かに覚えている。
あの時の彼との穏やかな時間を。
「……しましょうか」
暫し空白があって、彼が口を開いた。
「ではこちらからいきますね。寝転ぶ猫」
「早速ですね!? ……では私も。ええと……鯛について詳しく知りたい」
「甘えてくる妹の好物は甘海老」
それはさすがに文章が長い!
「もはやダジャレというかなんというか……って感じですね」
「まぁそうですね、センスないですから」
なんて冗談を言い合いつつ。
「次は私ですね。……栗きんとんを均等に分ける」
「おしゃれしつつ洒落を言う」
また文章!
「未完成のみかんの絵」
「おお……。瓜を売りに行く」
「七階に七回行く」
「障子を破ったのは正直者」
ダジャレと呼んで許されるのかどうか分からないようなフレーズばかりが出てきてしまうが、まぁ、今はそれでもいいだろう。
真面目に良質なダジャレを考えることが目的ではないから。
「それいいですね、響きが」
「ありがとう!」
ヴェガウンディは褒められると嬉しそうだった。
「月に着きたい」
「寝込んでいたら猫が来た」
「猫お好きですね……では私は、ええと……アイスを愛す」
「未来から来場」
「乳母が乗馬」
「おおっ、凄い。それは思いつきませんでした。予想外です、乳母が乗馬」
そんなことをしているうちにヴェガウンディの顔色は普段通りに戻ってきていた。
少しは疲れが取れただろうか? ……そうだといいのだが。
一日中真面目な顔をして真面目に振る舞っていると疲れてしまうだろう、と考えてこういうことをしたのだが、少しは効果があっただろうか。
「この辺にしましょうか」
「そうですね」
「もしかしたら、なのですが。アズリーさんは、気分転換のために、こういうことを提案してくださったのですか?」
「……はい」
「ありがとうございました。本当に、何だかすっきりしました。疲れが取れたような気がします」
そう言ってヴェガウンディは純真に笑う。
「しかし、よく思い出しましたね、ダジャレのことを」
「たまたまです」
「これでまだまだ頑張れそう! です!」
「良かったです」




