17話「順調に過ぎた一日」
結婚式はあっという間に終わった。
かなりバタバタした一日で。
けれどもいろんな人に支えてもらえたために順調に終わった。
純白のドレスをまとっていると多くの人から褒められた。メイドさんとか、城に出入りしている人とか、本当にいろんな人から。そして夫となるヴェガウンディにも褒めてもらった。
身支度を済ませて彼の前に出た時、彼が驚いたような顔をしてくれたことも嬉しかった。
「お疲れさまでした、アズリーさん」
今は夫となったヴェガウンディと同じ部屋で過ごしている。
昼間の賑やかさは過ぎ去って。
夜の静けさに包まれている。
「ドレス、とても綺麗でした」
「ありがとうございます」
大勢の前に出て祝福を受けるというのも悪いものではなかった。知らない人たちからだとしても温かな視線を向けてもらえることは嬉しくて。思っていたよりか苦痛はなく、むしろ、皆の前に出ることは喜ばしいことだった。
笑顔の人々に囲まれ人生最大の幸福を祝ってもらえる、そんな状況だというのにこれ以上何を望むというのか――否、私はもうこれ以上は望まない。
「……あ。このハーブティー、美味しいですよ」
ソファに座って大事にそうにカップを持っていたヴェガウンディが教えてくれた。
「本当ですか」
「飲んでみてください」
ローテーブルに置いたままにしてしまっていた自分用のカップを手に取る。
「はい、では飲んでみます……わ! 本当です、とても美味しいです!」
優しい味わいのハーブティーだった。
自然と笑顔になってしまいながら「飲みやすいですね!」と発すれば、彼もまた柔らかな表情で「同じ気持ちです」と返してくれる。
「このクッキーも美味しかったですよ」
「もう食べたんですか!?」
「はい。毒見済みですからね。遠慮なく食べました」
「では私も」
「ぜひぜひ! 美味しいですよ、食べてみてください」
皿の上に乗ったクッキー、一枚を、そっとつまんでみる。
口腔内に放り込む。鼻を抜けていく甘い匂い。優しげで、自然体な、そんなタッチの良い香り。それから噛んでみると、口の中に慎ましい甘みが広がる。舌から、心へ。甘みが広がってゆく。
少し乾いたような舌触りも魅力的だ。
素材の存在を感じられるので食べ応えがある。
人工的でないところに美味しさがある。
「良い味ですね……!」
優しい甘みが心躍らせてくれる。
「係の者から聞いた話によれば、このクッキーは北の農園から直接仕入れた素材で作ったものだそうです」
「そうなんですね……!」
「素朴な味わいが特徴だと聞いています」
「確かに素朴ですね。でもそこがいいです。素朴だからこその美味しさがあると思います」
夜の静寂の中、愛しい人と穏やかな時間を過ごす。
こんなに幸せなことがあるだろうか。
こんなに恵まれた環境が存在するだろうか。
「アズリーさん、これからも仲良くしてくださいね」
「もちろんです」
「あ、ちなみに、そっちの黒い方はチョコレート味ですよ」
「食べます!」
これからもたまにはこんな風に過ごせたらいいな、と思いつつ、黒っぽいクッキーを頬張る。
噛むたびに溢れる微かに渋みのある甘さ。
深い美味しさが口腔内を満たす。
「美味しすぎる……!」
思わずこぼして。
それから「かっこ良い意味」と付け加える。
するとヴェガウンディに笑われてしまった。しかしそれは悪い意味合いでの笑いではない。微笑ましく思っている、というような意味での笑い。なので笑われた方としても不快感はない。むしろ嬉しく思うくらい。




