16話「華やかなる道」
これまでの人生、あまり華やかにはせず歩んできた。
すべてが書き換わるような化粧も。
まとう空気が晴れやかになるヘアスタイルも。
私には無縁なものだと思っていた。
――けれども今日、天井を突き破る。
「よく似合っていらっしゃいますよ」
「別人みたい……」
色を乗せた顔はいつもの私の顔とは大きく違っていた。
面に花が咲いたかのよう。
明るい色が芽生えている。
そして髪型も。
専門の人に綺麗にまとめてもらうと印象が物凄く変わる。
青い髪が珍しくて変だと言われてきたけれど、今は、そんなことなんてどうでもいいと思えるほど――自分で言うのも何だが、とても綺麗だった。
「この髪型、とても良い感じですね」
先ほどまで髪を整えてくれていた女性に話しかけると、女性は長い睫毛に彩られた目を細める。
「気に入っていただけたなら何よりです」
室内の空気はとても良い。
「髪飾りはお任せとのことでしたが、いかがでしょうか」
「素敵です」
「良かった。……アズリー様は元も素敵な方ですからね、少し整えるだけでもより美しくなると思います」
時間がかかる準備とかちょっと面倒臭いな、なんて思っていた自分を叱りたい。
こんなに綺麗になるのなら。
こんなに前向きな気持ちになれるのなら。
たとえ時間がかかったとしても、それは絶対に無意味なことではない。
自分に色を乗せること。それは日向にいる人たちがすることで。私のようなそこまでパッとしない系の女には不要な行為だと思っていた。
私に色を塗ったところで私であることに変わりはなく、手間をかけても多少綺麗になる程度だろう。
ならば、そこに時間を費やすべきではない。
ほんの少ししか変わらないならそれに使う時間はほどほどでいい。失礼にならない程度、最低限でいい。ついさっきまでそう思っていたのに。
今は色が在ることがこんなに嬉しい……!
ここまで案内してくれた六十代くらいの女性は肉づきの良い顔に温かく柔らかな笑みを浮かべながら「聖女様、とてもお美しいです! いえ、もちろん、これまでもお綺麗でしたけれど……少し手を加えるだけでこんなにも! ああ、もう、本当に……大変感動しております!」と感想を述べてくれた。
「こんなに変わるとは思っていませんでした」
「まぁ! ご自分でもそう思われます!? ですよねですよね。物凄く共感いたします!」
「お化粧とか髪型とかって、意外と面白いですね」
「ええ!」
「実は、これまでは、私にはそんなものは関係ないと思っていました。華やかな方がするからより華やかになるだけなのだと思っていましたので。でも、今回、こうして綺麗にしていただいて、そういったものへの印象が変わりました」
六十代くらいの女性は両手の手のひらを胸の前で合わせて顔面に歓喜の花を咲かせている。
「アズリー様、髪は終わりましたので、この後はドレスを」
「あ、そうでした」
「一度立ってみましょうか」
「はい」
鏡に映る私は誰だろう? ……そんなことを考えてしまうほどに出来が良い。
「お持ちしました」
やがて六十代くらいの女性が純白のドレスを持ってきてくれる。
「「ではこちらを着ていきましょう」」
ドレスを持ってきてくれた女性と、先ほどまで髪を整えてくれていた女性が、重なるようなタイミングで同じ言葉を口から出した。
目の前に現れた純白のドレスは光を浴びて宝石のように輝いている。
この世の清らかさをすべて携えたような一着。
こんなに素敵なドレス、私が着ていいのかな……。
そんな風に思いながらも。
いつの間にか着せられていっていて。
「聖女様、そのままの体勢でしばらくじっとしていてください」
「はい」
「アズリー様?」
「は、はい! 何でしょう!」
「右腕を少しだけ上にやっていただいても?」
「あっ、右、ですか。分かりました! そうします!」
二人にサポートしてもらい、ドレスをまとうことに成功。
「聖女様素敵です~」
「アズリー様素敵です~」
またしても女性二人の声が揃った。
光沢のある生地をメインとして作られた白色のドレス。
肘辺りまでで途切れている袖は腕にぴったりくっつくような構造となっていて上品さの中に可憐さがある。
胸もとには一部レースだけで作られた部分があり、その部分はそれ以外と違って完全な白というよりかは肌の色がほのかに映り込む。それによって純白のドレスでありながらも微かに色みに幅が生まれ、見た目に厚みが生まれている。
「ほのかに肌が透ける胸もとが魅力的です」
「変ではないですか……?」
「もちろん! 品格を保ちつつ大人っぽさも演出する、そんな素敵なデザインです」
少し前までは髪を整えてくれていた女性が細かいところを褒めてくれた。
「聖女様の美しさがよく伝わりますね!」
「ありがとうございます」
「自慢の聖女様です! ……っと、申し訳ございません。無礼なことを」
「いえ、無礼ではありません」
「そうですか! では! ……すごく素敵ですよ」
六十代くらいの女性も、まるで自分の娘を褒めるかのように、真っ直ぐに褒めてくれた。




