15話「早いもので」
あれから少しして、父の死が確認されたという情報が耳に入ってきた。
山賊らのおもちゃになってしまっていた父の最期は悲惨なものだったようだ。
男性だからといって仲間に入れてもらえるわけでもなく。
誘拐されてからずっと父は痛い目に遭わされ続けていたようである。
その命は、ストレス発散のための道具として使われ、散っていった……。
早いものでもう結婚式当日がやって来た。
この日の訪れを誰もが待っていた。
私も。
彼も。
周りの人たちも。
「どんな感じになるんだろうねー、楽しみっ」
「本当にね」
「衣装とかも気になるわよね。どんなデザインだろうって」
それゆえ今朝は城内に落ち着きがない。
「ちょっと! それ運んで!」
「は、はいっ」
「今日一日忙しいんだから、余計なこと喋ってないで働いてちょうだい!」
「はぁい」
「そっちのあなたはこれ資料室に持っていって!」
城内の雑用をこなす若いメイドたちでさえワクワクしているような顔をしている。
「はいこれ運んで」
「分かりました」
「あなたはこれね、第二会議室」
「承知しましたっ」
まだ早い時間だというのに何かと賑やかだ。
だが、そうやって働いてくれている人たちがいるからこそ、この城の良い環境は守られている――ならばその人たちに向けるべきは感謝だろう。
「あ! 聖女様、おはようございます!」
「おはようございます」
通りすがりのメイドから明るく挨拶され、そっと挨拶を返す。
それ以上の会話には繋がらなかった。
でもそれでいいと思う。
こうして一瞬関わるだけの関係だとしても嫌われていないかどうかは分かるから。
この城の人たちは私を受け入れてくれている。私は聖女であること以外はなんてことのない普通の女だというのに。普通の女だから、という理由で、私を見下したり差別してくる人はいない。それはとても幸せなことだと思う。多くの人たちと濃い関わりがあるわけではないけれど、そっと受け入れてもらえているというだけで本当にありがたいこと。どれだけ感謝してもし足りない。
「アズリーさん!」
「あ、ヴェガウンディさん、おはようございます」
廊下を歩いていると貴い人に出会う。
「良い朝ですね」
彼はさらりとそんな風に言葉を投げてくれた。
「本当に、そうですね」
相応しい言葉が見つけられなくて。
取り敢えず返しておく。
呆れるくらい単純な言葉しか思いつかなかったけれど。
「今日は色々忙しくなりそうですがよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私たちにはきっと輝く未来があるはず。
今は純粋にそう信じられている。
この先どんなことがあったとしても、私たちなら、手を取り合って歩んでゆけるだろう。
……なんて考えていたら、廊下の向こうから六十代くらいに見える女性が走ってきた。
「聖女様! こちらにおられましたか!」
「はい」
「そろそろご準備が始まります!」
「あ、そうでしたか。すみませんでした。では行きます」
一旦ヴェガウンディに顔を向け「少し行ってきます」と言う。
すると彼は浅めに一礼。
高貴さのある面に柔らかな色を乗せ「いってらっしゃい」と返してくれる。その声は春の陽のように温かなものだった。
それから女性の方へ向き直り歩き出す。
「お待たせしてすみません」
「いえいえ」
今日は特別な日。相応しい格好をしなくてはならない。衣服もそうだが、髪型や化粧なども。
準備にどのくらい時間がかかるのだろう、と考えるだけでも、気が遠くなりそうだ。
だがそれは避けられないもの。
そして華やかな場に立つ以上必要な時間だ。
「本日お世話させていただきます」
「ありがとうございます、お願いします」
話しやすそうな女性で良かった、と思いつつ、女性の隣を歩く。
「アズリーさんはきっととてもお美しくなられるでしょうね」
「本当ですか。……ありがとうございます、嬉しいです」




